静かな怒り
アリルと連れ立ってわたしは宿屋の庭へやって来た。
サンドラさんがわたしのお母さんなら、アリルはわたしのお姉さんだ。
今はニルトと結婚したので義妹になったけど、ずっと姉として頼りにしてきた関係は変わらない。
ニルトがわたしをどれだけ想い大切にしてきたか一番近くで見て来たから、こんなに青い顔をして心を痛めてる。
自分を責めても仕方ない事もわかっているし、本当はわたしより泣きたいはずなのに、わたしのために気づかって堪えてるのがわかる。
わたしにはサンドラさんが黙って胸をかしてくれた。それにレガトがいる。
冒険者をしている以上、突然の別れは誰にでも訪れる。
わたし自身どれだけ特別な力があろうとも、ありふれた冒険者の日常が起こらないはずはないのに。
力のあることで、どこか過信していた。
ニルトはいつも油断するなよ、って言ってくれていたのに。
わたしやアリルのような思いを体験している冒険者なんて星の数ほどいる。
ただ、頭ではそうやって割り切ろうとしても、悲しい気持ちを切り捨てる事は出来なかった。
だからわたしはもう一度アリルと泣いた。
泣いたってなんの解決にもならないし、ニルトが生き返るわげじゃないのだってわかってる。
気の済むまで、一週間だろうと一年かかろうと泣いていいと思う。
それが冒険者の日常だからって、悲しみ続けちゃいけない決まりはないもの。
最後まで心配してくれたお父さんだって、わたしにそうやって悲しむことを教えてくれた。
アリルを抱きしめながら、わたしは決意した。
レガトと、この大切なニルトの妹を守るために、反則といわれようと、わたしの力を二人に注ぎまくってやるの。
わたしから大切なものを奪った輩に絶対後悔させてやるんだから。




