最年少の銀級冒険者
タフな牛人の魔物達が相手で、さすがにみんなへたり込んだ。
「なんだったんだろ、コレ」
ミノスレックスと名付けられる、どデカいタウロスの素材を回収しながらアリルが問う。
「タウロスキングと同じに見えたけど、大きいし、頭も良かったよね」
タウロス系はパワーは凄い。でも割りと脳筋で、搦め手を使う魔法使いには相性が良いのよね。
こんなの何度も相手したくないのに、深淵部を攻略するとなると、ずっとこんなのばかり出るから苦労が絶えない気がした。きっとそれがダンジョン深淵という場所なのよね。
「深淵は、さらに下層に続くようだな」
階段はないかわりに通路が曲がりくねりながら下がる先を、ニルトとベッタが偵察して戻って来た。
階層が繋がってるような所では、いままでよりも強力な魔物が組んでる可能性も高い。
わたし達は目的を達成し、上層へと戻ることにした。お父さん達も攻略を何度となく中断して、ようやくダンジョンを踏破したという話しを聞いた。
実際その身になって体験してみて、よくわかったわ。
キールスに戻るとギルドに深層域の拡大と、深淵域の発見を報告する。
リーダーが若い鉄級程度の冒険者で、パーティーの階級もDランクしかないパーティー。それが何をほざいてるんだと、受付嬢が頭を抱えて周りの冒険者もバカにしてきた。
そうなるだろうとわかっていたので、討伐証明になる魔物の素材をベッタの荷物から運んでくる。
どこから出したんだと言わんばかりの巨大な角や、牙、さらに見事な毛皮などを見せつけられてバカにしていた冒険者達の野次の声が止まる。
ギルドの受付嬢の頭上には、かつて『海竜の咆哮』が収めた、一つ目竜の角がぶら下がっている。
『鋼鉄の誓い』という冒険者達が持ってきた素材の中にはそれと同じものがいくつもあり、未知の魔物の牙まであった。
「ギ、ギルドマスターに報告します。しばらくお待ちください」
受付嬢が慌てる。素材が多すぎ持ちきれなかったので、ベッタの荷物には収縮の魔法がかけてあるのよね。
リュックから荷物を出すと元に戻る便利な魔法なので、工夫して使えるように試行錯誤してる。
取り出してみせたのは世間に既に知られている魔物の素材と、ドレッドファングの牙に、ミノスレックスの大きな角。もちろんここで全部は売らない。
お世話になっているベルク商会にも買い取りを頼み、出来るだけ稼いでもらいたいから。
わたし達はキールスのギルドマスターの所へ案内された。提出した素材はギルドが預かり、査定を行うそうだ。
キールスのギルドマスターは代替わりをしていた。以前のギルドマスターは、結局能力不足で増える冒険者達を統率出来ずに、辞任したそうだ。
新ギルドマスターのカリスは女性だ。元銀級の冒険者だそうで、Aランクパーティーにも所属していて、魔法も使える。
素材の目利きも経験上出来るようなので、『鋼鉄の誓い』が持ち込んだ素材は全て本物だと鑑定してくれた。
「素材よりも、単独のDランクパーティーが深層の謎を解明してみせて、深淵部を発見した方が驚きだよ」
Dランクだけに武装はそれなり。鉄級にしては、質は良い鋼の武器。
しかしそんな武器で深淵どころか深層にも辿り着ける訳がない、とカリスの目が言っていた。
「この子の力です」
ニルトは言いたい事を察して、振り向いてわたしを紹介する。
「ガウツの娘、レーナです」
あまり目立ちたくないのに、必要な事なので手短に挨拶をした。
「ガウツ‥?」
カリスは聞き覚えのある名に反応し、ポンと手をうつ。
「『海竜の爪』のガウツか。なるほど、それなら納得だよ」
疑うわけじゃないといいつつ、実力不明な部分のからくりが解けなくて困っていたのだろう。事前に相談して、決めた通りの流れになった。
「この地にまで情報は届いたよ。我々としても惜しい方を亡くしたと思っていたんだ。けれど、その血はしっかりと子へと受け継がれているようで安心したよ」
ギルドマスターが納得してくれたので話しがしやすくなった。
血はつながっていなくても、お父さんの魂や熱意はわたしの中に一緒にいるんだもの。
偉業を成したパーティーなので、各自階級が上がるのは当然としてくれた。しかしわたしを銀級へ上げるのは難しいようだった。
「鋼ならギルマス権限でも、すぐに出来るんだけどさ」
銀級はどの地域においても信用度の高い階級だった。誰彼構わずあげるわけにはいかないようだ。
「それならギルマスが直接試すのであれば、いいのではないでしょうか?」
ニルトの提案でカリスさんも乗る。
外の訓練場に出て実力を見ることになる。
わたしはカリスさんを傷つけると嫌なので、カリスさんから魔法を使ってもらう事にする。
「実力が本当ならそうだね」
少しプライドが傷つけられたようで魔力の高まりが強まる。
カリスさんが詠唱で放った炎の矢はわたしに当たる寸前に分裂し、わたしを狙う。魔力は加減されているので、怪我はしない範囲だ。
しかし、してやったりのカリスさんの顔が呆然となる。わたしは四つに分かれた炎の矢を全て氷の球体に包んで見せた。
「はぁ? 意味がわからないよ」
炎の矢は燃えているのに氷は溶けず浮いたまま止まっている。
どういう魔法で、いつ詠唱したのかさっぱりなようだ。
そもそも炎の矢を分裂させるギルドマスターのカリス自慢のオリジナル魔法が、簡単に止められた。
「ガウツさんの娘さんだからって、何でもありって思わないからね」
負けを認めるのが悔しいらしいカリスさんは、何を言われようと、わたしを銀級へ上げると約束してくれた。
この件もあって、後に冒険者階級に特別階級が設けられることになる。
「うまくいったかどうかわからないが、予定通りパーティーランクと階級上がったな」
もう少し周りに周知されれば、異界の勇者の耳にもいずれ入る事だろう。
面識がなくとも立場的に無視出来なくなるだろうから。




