達成感と満足度
「大丈夫? ナーク?」
ベッタに支えられて、立ち上がるナークにわたしは癒やしの光をかける。
「ドジった、ごめん」
何とか隙を作ろうとして、慌てて受け身を取りそこねたという。
わたしも焦って自分を見失っていたので、謝る。
「何度も言うが俺達はパーティーだ。レーナの力が突出していようと、だ。
レーナの力が最大限発揮されるように動くのが俺達の仕事だ」
コンっとデコぴんをされた。ベッタには頭でっかち、とまた笑われた。
「とにかく倒せたんだ。他の魔物が出てくる前に回収して移動しよう」
ニルトの指示で、わたし達はうなずく。ドレッドファングから持って帰れそうな素材を回収し、大きめの魔晶石をとる。
そして進んだ先は『海竜の咆哮』が見た部屋と同じ部屋だった。
「あれがダンジョン・コアか」
ダンジョン攻略者の証とも言われるもの。思っていたより小さいのね。
「あれを持ち帰ればいいのか?」
「お父さんはあくまで推測って言ってたらしいから」
この『黒魔の瞳』は以前と姿を変えている。証を取るか宝箱を取るかすると他は消える。
どうして、そんなお宝で仕掛けがあるの?
まるであえて不自然さを際立たせて、選択を絞らせてる気がする。
疲れていると判断力も鈍るし、わたしみたいに、しつこく考えないよね。
「これは偽物ね」
わたしは違和感に気がつけた。
「どういうことだ」
「見てて」
わたしはダンジョン・コアの台座の裏に微かな魔力を感じてそこを見る。
スイッチのようなものがあり押すと壁が崩れた。
「コアも宝箱も、祭壇みたいなものも全部ダミーね。偽物とは言わないけど」
真意はわからない。見切りをつけやすい状況を演出してくれてるようにも見えるし、時間を稼ぐ意図も感じた。
攻略を成したと騙されている間に、ダンジョンは広がっていたのだから。
「ダンジョン慣れした冒険者を逆に嵌める仕組みなのかな?」
アリルが入口が開かれた瞬間、消えた宝箱を見て言う。
「偽物って言ったけど、ちゃんとそれなりの物を置いてるから、冒険者の達成感や満足度を試す罠でもあるのかも」
コアと宝箱を代償に扉が開く仕組みだ。祭壇は何かあると気づかせるためにあえて用意されているのかと思う。
あくまで先達の情報があったからわかるけれど、初見ならわたしも引っかかったと思う。
余裕を持たせてくれた、お父さん達には感謝だよね。
「先へ進もう」
ニルトが促す。わたし達は新しい入口へと進む。
深層で見慣れた通路の先に下へ向かう階段があった。
わたしは風の加護を全員にかけ直して階下へ降り立った。




