理想の姿
『黒魔の瞳』深層は流石に冒険者の姿が見えない。
到達するパーティーはいるらしいのだけど、目当てのものを手に入れられた時点で引き返すためみたい。
深層の魔物はタフで強い。お父さんのように魔物を一撃で倒し切る力と武器があるか、『異界の勇者』達のように強い魔法がないと厳しいと思った。
ここからはわたしが指揮を取る事になった。ナークとベッタは牽制役を、ニルトとアリルは二人の護衛だ。
わたしが自由に動けるようにして、魔法の火力を最大限活かす。
「レーナ、魔力枯渇はしないの?」
何体か魔物を炎で灰にした後でアリルが心配そうに言った。
「魔力は魔物の魔力を消費してるから平気だよ」
「そうなの?」
魔法使いではないので、理解は出来ないようだ。
わたしの認識ではそういう事も出来るというだけで、わたしは自分自身は魔力が最小消費で済むので使い勝手がいい。
一番危ないのは深層での休息時だ。
わたしが眠る間、見張りについたみんなが魔物相手に手早く対処出来るかが問題だった。
相談の結果、見張りは三人となり一人ずつ順に交代して休むことにした。
タウロスデーモンとタウロスキングがあらわれたようだけど、ニルトとアリルとナークの三人で撃退していた。
風の加護でいつもより切れ味上がっていたそうでよかった。
休息を取った後、攻略を再開する。
素材回収はせずに魔晶石だけ回収しているので速度は上がる。
最初の難敵はダークネスヒドラだった。聞いていた話しより小さめで尻尾の数も少ないのは徘徊して成長中だからかな?
大型の魔物は魔法が効きづらいようだ。炎があまり効かなかったので、わたしは噛みつく口のなかに岩の丸い塊をつくり喉元から膨らませた。
呼吸が出来ず苦しむのと飲み込めず膨らむため、ダークネスヒドラの動きが鈍る。
岩の塊の質量で動けなくなった所でニルト達が尻尾に注意しながら斬りつけ討伐した。
「まじか。倒せたよ」
わたしを守るために側にいたベッタが思わず唸る。
加護の力もあるけれど、グリズリーディノスで死地を経験している『鋼鉄の誓い』は自分たちが思っている以上に強いと思うのよ。
みんなずっとあの時こうしていたら、と理想を追い続けている。理想は常に先に行くから気づかないだけなのだろう。
ダークネスヒドラの素材は貴重なので回収した。遠征費用も稼ぐ必要があるので出発前に決めておいたのだ。




