悲しみを覚えて
銀級冒険者が逃げ出して来て、ガウツの砦に助けを求めた。
ガウツはニルト達をどうしたか尋ねる。
後ろめたい事があるのか一瞬表情が動くのをガウツもわたしも見逃さない。
「見捨てて囮にしたか」
銀級冒険者が嘘や言い訳をする前にガウツが真実を口にする。
ガウツの身体が怒りに震える。
ラズク村では知られてなくとも、銀級冒険者ならガウツの話しを少しは聞いているのだろう。
悲鳴を口に逃げ出す冒険者。
「りょ、領兵に報告する!」
体裁のためか、どこに向けさせるつもりなのかわからないが、いずれ魔物がやってくるのがわかっているのか逃げ足は速い。
「レーナはここにいろ」
知り合い以外開けるなと念を押してガウツは斧を持って走る。
ガウツの言葉を信じて待つか、わたしは迷う。
鬼気迫るガウツの気迫に何も言えなかった。
ガウツはわたしを大事にしてくれる。
この砦のようになっちゃった山小屋も、いつ魔物が襲って来ても守れるように作ったものだ。
でもね、わたしももう戦える。泣くことも出来ず途方にくれてた幼子はもういない。
わたしは愛用の狩猟刀を腰に差し、ガウツの進む先へ向かった。
二体のグリズリーディノスの倒れている辺りに、ニルト達とガウツはいた。
みんな酷く怪我をしていて、見る影もない冒険者の身体も散乱していた。
「レーナ」
ニルトが傷だらけになりながらガウツを抱えている。
ガウツは頭から酷い傷を負っていた。
もう目が見えていないのがわかる。
「俺達のせいでガウツさんが‥」
ニルトが申し訳なさそうに言う。
理由なんてどうでもいい。魔物はいつか村へやって来た。
ガウツはずっと気づいていた。
行けば戦いになる。
行けば生命を失う。
行けばわたしは一人残される。
それはガウツにとっての呪いの言葉だ。
生命を落とせばわたしとの約束を果たせなくなるから。
だから、わたしは言わないといけない。
悲しくて辛くて、ずっと言い出せなくて、ガウツの優しさにずっとすっと甘えてたくて‥。
もう大丈夫だから。
ガウツのおかげで一人きりじゃない。
悲しいけど、ホントはもっと一緒にいてほしいから言うの嫌だったけど、
わたしはもう大丈夫だから、安心して眠ってほしい。
「ありがとう、お父さん」
わたしの心は悲しみでめちゃくちゃだ。
涙で顔がぐちゃぐちゃになっているのに、ガウツーお父さんは何故か笑ってる。
わたしと暮らした九年が、お父さんの人生で一番の宝物だったと。




