嵌める魔物
『鋼鉄の誓い』と同ランクの冒険者の肉片とグリズリーディノスが待ち構えていた。
やはり銀級冒険者達は、囮をうまくつかって逃げおおせたらしい。
魔境に挑むのに身軽な格好だったのも、こういう事態を想定していたのだろうと思うと、まんまと騙された俺達が悪いようになるから不思議だ。
いまは思考を弄んでる暇はない。
グリズリーディノスの先にはガウツの山小屋がある。
ガウツさんは知っていたんだ。
あの厳重な壁は丸太と岩を特殊な樹液で固めている。
グリズリーディノスが強くても堅さは砦に軍配が上がる。
レーナの事を考えるとあの銀級冒険者達を助け砦に招き入れる方が危険だが、責任の一端が俺達にもあるので、そうなってないことを願うしかない。
グリズリーディノスは、見ためは白熊だが、腕や足の内側や腹が竜のウロコのように硬い。
使う魔法は氷系で、動きを鈍らせ仕留めに来る。
最悪な事はまだあった。
冒険者を襲いまくった目の前の魔物はまだ子供だった。
俺達の後から悠々とやって来たのは倍近く大きいグリズリーディノスだった。
ガウツがレーナに狩りのやり方を教えるように、グリズリーディノスも冒険者を使って狩りを覚えさせていた。
余裕があったのではなく、ただの練習だった。
銀級冒険者を逃したのは、狩人として失敗だ。
次は逃さない、俺達じゃなくてもわかる。
親らしきグリズリーディノスは傍観する。
子供が危機になれば動くと思うと気が抜けない。
全力で挑んでも勝てそうにない。それでもいくしかなかった。
グリズリーディノスの雄叫びに紛れて二つの手斧が飛ん出来て、グリズリーディノスの硬い背中に突き刺さる。
破られた事のないウロコに傷を負わされグリズリーディノスが怒る。
斧を投げつけたガウツは傍観している親のグリズリーディノスをにらみつけながらオーガの斧でグリズリーディノスの子を切り裂いた。
強者の接近に気づかなかっな時点で失格だったのか、グリズリーディノスの親はガウツをにらむ。
「武器を離すな」
ガウツが怒鳴る。
いうが早いか、グリズリーディノスが魔法の雪氷弾で俺達を吹き飛ばした。
「こいつの魔法は実弾だ。耐えるか弾け!」
「弓は効かん。そいつのを使え」
ガウツの指示でベッタが死んだ冒険者から剣を取る。
「まともに当たるなよ」
あの巨体の一撃は致命傷を与える。
そういうガウツは鎧もなしにグリズリーディノスへと突っ込む。
接近するしか手のない事を知るグリズリーディノスは魔法を使ってガウツに集中攻撃をくらわせる。
ガウツは吹っ飛ばされ額から血を流す。
それでも攻撃を諦めない。
俺達も左右に分かれ攻撃を加えた。
ダメージは通らなくても、一瞬でも時間を奪えばいい。
剣には不慣れなベッタが剣ごと蹴られ吹き飛ぶ。
ナークは槍を折られ腕が変に曲がり悲鳴を上げる。
俺とアリルは爪で触ってないのに切り刻まれるが、血が流れるのも構わずにグリズリーディノスの足元を削る。
煩わしいとグリズリーディノスが吠えた瞬間、ガウツが振るった斧がグリズリーディノスの腕を斬る。
「?!」
今度はグリズリーディノスがガウツを嵌めた。
片腕と引き換えに、もう片方の腕がガウツに深い爪の傷を与えた。
しかしガウツは怯まず、血が吹き出すのも構わずに斧を振るう。
倒せなかった事でグリズリーディノスが怯む刹那に、ガウツの斧はグリズリーディノスの首元を切り裂いた。
致命傷を受けて魔物がはじめて後ずさる。しかし、力が入らずそのまま後ろへと倒れんだ。




