贈り物
····目が覚めると木を叩く鈍く乾いた音がした。これはガウツとの暮らしが始まってすぐの頃のわたしの記憶だと気づく。
わたしは三歳の時に拾われてからの記憶が、ずっと頭に残っている。見ず知らずの子供、それも幼い女の子とあって、ガウツはすごく気を使って育てようと苦労していたと思う。
わたしが眠っている間、幼い子供と一緒に山小屋で暮らすにはどうしたらいいのかを悩み考えていたガウツは、小屋を拡張しようと思いついたようだ。記憶に残る木材の響きはこの時の音だ。
わたしの部屋と、ガウツ自身の部屋をつくり元の小屋とつなぐ。水場近くには湯船まであり、暖炉で焼いた石を湯船に貯めた水に入れれば、温泉のように身体を温められた。暑い夏場でも山の中の気候は涼しくて、水は冷たい。
台所とお手洗いは水場の近くにつくってあった。汚れた水が入りこまないように、川から引いた水路の小川から元の川の下流域へ流す。ガウツは小川を流れるうちに浄化されるようにしていた。ラズク村とは使う川が違うので文句もなかった。
建物が増えたので山小屋は柵で囲い、猛獣の侵入を防ぐようになっていた。柵というより壁かな。
わたしはガウツに慣れ、彼の側で作業を手伝うようになっていた。
伐り倒した材木の枝葉を払ったり、薪になるものを集めたり、飲み水やお風呂で使う水を汲み上げたりと、毎日が忙しい。
ラズク村にいるサンドラが心配していてしょっちゅう見に来ていた。
二人の為に料理を持って来て一緒に食べ、仕事や狩りの仕方しか教えないガウツにかわり、わたしに本を読んだり調理を教えたりしてくれた。
設備の大半はガウツがサンドラに怒られて作ったもので、飾り気のない無骨なだけの山小屋は今や別荘のようになっていたっけ。
ガウツは材木をサラスナへ運ぶ時は、たとえ足手まといでもわたしを連れて行く。
町ではレミールが待っていて、貴族相手にも通じる礼儀作法や文字や魔法の事を教えてくれるからだ。
魔法については、わたしも困惑したのを覚えている。
この時のわたしは魔法の力は誰にでも使えると思っていたし、魔法の言葉など唱えなくても魔法は魔法の力になるのを知っていたからだ。
ただ色々と教わるうちに、世の中にある魔法は呪文の詠唱であれ、魔法の文字であれ、魔法の力を制限したり制御したりする為のものだとわかってからは自分が違うのだと認識するようになった。
ガウツには両手の甲に浮かぶ紋様の事を教えて、見てもらっていた。
その紋様を見たガウツは、他人には見せるなと真剣な顔になった。
同じように表情を変えた父親だった男の顔を思い出し、わたしは震える。
また捨てられる、そう思ってしまった。
ガウツはわたしの頭を優しく撫でながらそっと抱きしめた。
ガウツはレミールに頼み、肌に優しく丈夫な手袋をわたしにプレゼントしてくれた。




