山小屋へ帰ろう
俺は幼いレーナを連れてサラスナの町を後にした。
レミールが俺達の休んでいる間に、着替えの服やお菓子、帰り道で食べられるようにと、パンに焼いた肉や野菜を挟んだものを用意してくれていた。
レミールが馬車で送る事も提案して来たが、川沿いは俺が勝手に道と呼んでいるだけで馬車など通れたものではないんだよな。王国内で正式ルートがあり、ベルク商会も使う道では早くても三日はかかる。
レーナは黙ってついて来た。子供の足に合わせたつもりだったが、山道は大人だってキツイ。
まして川沿いの道は石ころだらけで道ではないし、足場も悪い。転ばないように注意していると、中々前に進めないところだ。
遅れまいと必死なレーナを安心させるために、途中の手頃な岩場に座り休息を多くする。
抱っこか背負おうとすると、首を振る。我慢強い娘なので、自分からは弱音を吐かないのだ。優しい子だから、俺が嫌だとか汗臭いとかじゃないといいが。
本当に駄目な時は、かえって迷惑になるから言いなさいというと頷く。 わかっているのなら好きにさせようと思った。
「このまま川沿いに進んでいくと、木で出来た材木置き場がある。
そこから川の水を引いた小さい川をつたってゆくと山小屋が見えてくる」
俺は川の石を使って、俺とレーナの暮らす山小屋の位置を教える。
賢い子だから、言葉足らずの俺が何を言いたいのかわかりすぐに頷く。
「サラスナの町はわかるな? もし困った事があればレミールに相談するといい」
ラズク村にはサンドラもいるので、帰って休んだ後に紹介しに行くつもりだ。
レーナを連れてゆくと決めた以上、この娘を守る覺悟はしている。
ただ山の暮らしは、何があるかわからない。脅威は魔物だけではないからだ。俺がいなくても、レーナが生きて行くための環境づくりはしておきたいと俺は心に決めた。
俺とレーナが山小屋についたのはサラスナを出て二日後だ。レーナは頑張って最後まで歩き続けた。
途中、貰ったパンやお菓子を食べ、夜はゆっくり休んだ。
レーナには昼寝もさせたので時間は掛かったが、歩き抜いたことによる達成感はあったように見えた。
俺は川から引いて来た水場から、水を汲んで湯を沸かす。レーナに服を脱がさせ、布を湯につけ身体を拭いてやった。
髪の毛も商会のおすすめの薬液をもらったので洗ってやり、清潔な布で手早く拭く。
貰って来た服に着替えさせ、レーナは俺の使っていたベッドで休ませる。
レーナは俺の心配をするが、いいから休めと軽く叱る。
くたびれていたのでレーナは横になるとすぐに眠った。
俺はというとさほど疲れていないので、レーナの寝顔を見ながら今後の事を考えていた。
子供を育てたことなんか俺にはない。ずっと昔に感じるかつての俺の記憶にも、あるはずがなかった。
小屋でしっかり休んだ後、村へ行きサンドラに紹介した。敏い彼女には、一目見てすぐに盛大なため息をつかれた。
冒険者だった彼女も自然の怖さをわかっていたので何も言わなかったが、村や町へ行った時くらいは甘やかしてやれ、とアドバイスをしてくれた。
※ 2023年9月3日、話しの流れの時系列がおかしかったので、サンドラへ紹介のくだりの文章を話しの最後に入れ替えました。




