泣けない子供
途中レーナの視点、心情が入ってます。
川辺で静かに佇む子供は、俺に気づいた。俺が怖いのか、警戒をしているのか、ジッとしゃがみ込んだままだ。
着ている服は比較的良い仕立ての生地で、貴族の子供か? と思った。
年齢は三歳から五歳くらいだろう。
髪の毛は癖っ毛気味で、目鼻立ちが整っていて、愛くるしい女の子だ。迷子かもしれないので放っておくわけにはいかないよな。俺はおそるおそる声をかけた。
「お父さんかお母さんは、一緒にいないのか?」
我ながらぶっきら棒にならないように、なるべく優しく話しかけた。女の子はうなずく。迷子、ではないようだ。
「町の子か?」
幼いが、会話を理解しているようなので聞いてみる。
女の子は首を振る。
「俺はガウツだ。君は?」
「レーナ」
なんというか、はじめて答えられる質問にホッとした顔だ。
自分が理解していない事には答えられないと、わかっているようで、そういう聡いものの顔だよな。
「ここは夜は冷える。町まで歩けるか?」
俺は一旦サラスナの町に戻り、ベルク商会を頼る。今日は帰るとさっさと出て来てしまったため、少し恥ずかしい。
レーナは警戒を解いて俺の後について来た。物凄く利発な子供だと感心してしまった。
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わたしは見知らぬおじさんが話しかけて来たので驚いた。
自分を船に乗せて来たおじさんはわたしを降ろすと、同じその船で帰ってしまった。
わたしは父親からも母親からも恐がられていたのを知っている。それまでは賢い子だ、可愛い子だと撫でてくれたのに。
船で帰ってしまったおじさんは召使いとか使用人と呼ばれていた。
父親と母親に頼まれて、わたしを知らない所へ捨ててくるように言われていた。
なんでそうなったのか、わたしは自分の手を見る。時々浮かぶ模様を父親が見て、しばらくしたある日突然恐がられるようになった。
なにか嘆き悲しんでいた。わたしは自分がいらない子になったことを悟った。
悲しくなって泣こうとしたのに泣けなくてボーっとしていた時に、ガウツと言う名のおじさんと目があった。
おじさんもわたしを見て恐がっていたの、に優しく話しかけてきた。膝が震えているのに、わたしを怖がらせないようにしている。
おじさんは町に戻るというので、ついて行く事にした。
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「サンドラとの娘かと思ったよ」
照れながら戻って来た俺に、レミールが笑って、冗談混じりに屋敷へ入れてくれた。
事情を説明すると、気にしないでいいと言うので頼ることにする。
「行くあてないならウチで預かるよ?
ウチの子より少し上って所かな」
それは助かる。商会のツテで捜せば身元がわかるかもしれない。
俺が頼む··と言いかけるとレーナが俺の後ろに隠れ首を振った。
「懐かれたようだね。ガウツのおじさんといたいのかい?」
レミールの問いかけにレーナはうなずく。
俺は唖然とした。
女の子にモテた事はないが、これは違う。もう余生残り少ないと言うのにいまさら子供の面倒などみれない。
「わたしは捨てられたの」
レーナの発言に、俺もレミールも固まる。悲しいのに賢さが邪魔して泣けない子供。
レミールが思わずギュッと抱きしめる。
「今夜は遅いからウチに泊まっていきなさい。」
泣けない女の子のかわりに、レミールが涙を流す。
冒険者として商人として、俺もレミールも親のいない子供なんて散々見て来たのに、何故か一番悲しい子供に思えたのだ。
俺の人生の最後の瞬間は、この子を悲しませ涙を流す事を教える事になった。




