『海竜の咆哮』の目標
キールスのギルドが躍進を果たしたおかげで、フォルンからだけではなく、一攫千金を夢見る冒険者たちが、キールスを拠点にしようと集まり始めた。
ギルドは『海竜の咆哮』からもたらされたダンジョン攻略のノウハウや、秘匿情報を武器に収益も上がり、ようやくボロいギルドハウスから大きく新しいギルドハウスへ移転出来た。
新しいキールスのギルドは『黒魔の瞳』 とフィールド型ダンジョンに近い場所となるように建築された。
距離的には大して変わらないが気分の問題だろう。
キールスのギルドが安定してきた事で、ラングは次の目標を決める事にする。クランの会議を開き、所属する三つのパーティーのリーダー、副リーダーに意見を問う。
ラング、エルヴァ、ラクト、俺、ウロド、ラニア、ガルロ、ニーシャがこの場にいる。
ガルロは忙しいベルク氏にかわりとして出席している。ニーシャも商業ギルドの薬師所属のメンバーとして、新人側ながら出席していた。
「次の目標を決める前に、ラングさんはどこを目指しているのか聞きたいです」
ニーシャはフォルンやキールスのギルドと比べて、『海竜の咆哮』のレベルの高さを身を持って知った一人だ。
いずれギルドを興す話しは聞いていたが、キールスを潰して新しくギルドを建て直す事も出来たはずだ。
キールスが落ちぶれたのは主力パーティーを失ったのが大きいにしても、ラング達は既にいたし、優秀な冒険者は他にもいた。
わかりやすく言えば、キールスのギルドマスターは力量不足か無能だから、冒険者達に逃げられ落ちぶれた事になるわけだ。
ギルド同士が争う事ももちろんある。実力あるリーダー率いるクランが、古巣のギルドを吸収して新しいギルドになるのならば、所属する冒険者にとって良い面が多い。
「俺達の最終的な目標は、帝国の三大ダンジョンだ。いや今は四になったんだな」
ラングやラクトが南の帝国出身なのは前に聞いた。ギルドを作るのも有力貴族に見返してやるくらいに思っていたが、どうも違ったようだ。
「いや、反発心はあったよ。ただそんな事より、大きな事を達成してやりたくなっただけだ」
集団戦にウエイトを置いているのも、帝国の有名なダンジョンが広大で大規模な編成が必要だかららしい。
役割分担にやたらこだわるのは、どうしても大所帯にならざるを得なくて、規律や統率が取れないと厳しいからだろう。
自由に行動したがる冒険者をまとめるには、とても苦労する。訓練された兵ならば、上の言う事に従ってくれる。しかし冒険者はそうもいかない。
現に、帝国の有名なダンジョンの攻略は、各領土の領主が軍を率いて行っていた。
現状、ダンジョンの攻略はどこも進展せず、足踏み状態が続いていた。




