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逃げた神々と迎撃魔王 第一部 〜 集う冒険者たち 〜【完結済】  作者: モモル24号
おまけの番外編

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薬屋の少女 ③

【海竜の咆哮】としての活動は帝国へ戻った時に終了した。ラングは帝国の新領地ラクベクト領の領都ラグーンの冒険者ギルドマスターとなったものの、すぐにロズベクト公爵領の公都ロドスの冒険者ギルドマスターに任命された。ラングはロズベクト公爵の子供で、いわゆる私生児だった。

 とても優秀な方なのは、一緒に行動して来た私達が一番良く知っていた。


 ラグーンのギルドマスターは弟のラクトが替わりに就いた。ただ彼は正式な公爵の子供のため、すぐにラクベクト辺境伯領として領主となってしまった。立ち上げたばかりの冒険者ギルドが次々に栄転するのは喜ばしいけれど、副ギルドマスターのクォラがリーダーになるのは拒否し、ガウツも嫌がったのでギルドマスターはラクトが領主と兼任となった。


 私はというとフォルンのお店は売却して、ラグーンで薬屋を開いた。仲間達といるのが楽しくて、ラグーンの開発にも協力したかったからだ。きっと両親も許してくれると思う。


 開発はガウツが怪力を活かして働きまくり、鉱山型ダンジョンも見つかり思った以上に早く発展した。ラクトは領主に、クォラが副ギルドマスターに、エルヴァは何故か食堂の女将になった。クロード達も結婚してラグーンに店を構えた。


 肝心のガウツはというと、ラグーンを去り別の国へと旅立ってしまった。サンドラとベルクさんが気づき後を追った。私達の大恩人となったのに何故?

 みんなそう思ったものだった。風の便りに、亡くなった時は街の人々みんなが涙した。ただその死に様は最後まで英雄そのものだったという。


 あれから随分と時が流れた。私はいい歳になったのに、相変わらず独り身だ。老化を和らげ、肌を磨く薬液の研究もしていたので、いまだにエルヴァには小娘扱いされるのが悔しい。

 冒険者の数もかなり増えたのに、常設依頼の薬草が不足していた。新人達は稼げる鉱山ダンジョンへ行ってしまい、簡単であまり稼げない依頼は後回しになったからだ。


 薬屋としては薬草がないとかなり困るけれど、エルヴァのように、飲食店でも調味料や香辛料に使うし、建具屋や鍛冶屋だって塗装や接着に使う。

 薬の需要は高いのに、素材が足りない。物がないのに、薬を寄越せって騒ぐ冒険者達もいるくらいだ。

 そういう時はサンドラ直伝の槍さばきは廃れてない事を見せてあげる。穂先はないから棒術になる。


 あまりにも必要素材が不足するので、ラクトが領兵の巡回中に採取した分を回してくれた。ありがたいけど殆どが納品分で消える。近場の森はラグーンの住民が採りに行くので、本格的に採取するなら少し奥に行く必要があった。


 フォルンにいた頃は、旅の商人や冒険者達がひっきりなしに移動していて近場の森での採取は安全だった。ラグーンはすぐ近くが魔境グローデン山脈という事もあって、獣や魔物が良く出る。冒険者達も鉱山型ダンジョンへ一度行くと中々戻って来ないため、数の割に人々の往来が少ない。


 私は背中に薬草をしまう駕籠、腰に水袋と、薬一式、保存食、それに手鎌を用意しサンドラから貰った穂先の付いた槍を手にラグーンから少し離れた森へ入った。


 ガウツがラグーンを去る少し前に、何やら昔、女神さまだかなんだかから貰った種を実験的に蒔いてみたと話していた。生態系に影響出ないものの、気になった時にでも様子を見て使えと教えてくれたのだ。


 あった。不自然に虫除けと魔物の嫌う成分を発する草木が植えてあるから、見る人が見ればわかる。冒険者達も採取の勉強をしていれば、この薬草の宝箱に気づいたかも。実際は見向きもされてない様子だけど。


 私は入口にあたる木の枝をどかして森の中へ向かう。下草は凄い力で固めてあって何年も草が生えてないみたい。絶対ガウツの仕業だ。あの人、【海竜の咆哮】が危機に陥る時に何度も救ってくれたのに、亡くなった後までラグーンの危機を救ってくれる。まさに英雄だよ。


 必要な薬草だけでなく、希少な植物まで植えてあった。流石に放置し過ぎでいて、薬草畑まで通りやすいように、枝を払い、根を枯らしそうな雑草は抜いて処分する。自生の環境はあまり変えない。頂いて幾分の肥料は少し撒く。

 いくつか薬草園を回ると駕籠いっぱいになる。エルヴァのために調味料用のものまであった。ガウツらしい。


 ラグーンへ戻ると帰りがけに冒険者ギルドの食堂へ寄る。流石に汚れたままだと申し訳ないので、チョロついていたクォラの娘にエルヴァを呼んで貰った。


「森へ行って来てくれたのかい。助かるよ」


 相変わらずエルヴァは豪気で美人だ。ロドスの冒険者ギルドマスターになったラングとは父親違い兄妹で、ラクトが頭の上がらない人物の一人でもある。私がガウツの薬園の話しをすると、彼女が不意に涙をこぼした。この女傑が涙を流すなんて、不吉な事の起こる前触れだと騒がれそうだ。


「本当にあの男は私達の英雄だよ」


 クランのメンバーが口々にそう言葉にするのは私にもわかる。誰よりも今もこうして助けられているから。


 そして、ガウツは新たな救世の主を私達に届けてくれるのだった。

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