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逃げた神々と迎撃魔王 第一部 〜 集う冒険者たち 〜【完結済】  作者: モモル24号
おまけの番外編

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女商人の見立て

 私は都市国家郡で運命的な出会いをした方がいた。彼は寡黙で、謙虚で、およそ商人の私達とは対極の存在だった。


 盗賊団に捕まり、身売りされて知らない遠い街で娼婦になるか、下衆な貴族の玩具になるしかなかった所を助けられた。


 惚れるわよね。濡れるわよね。残念ながら当時の私はガキんちょ過ぎた。


 何よりサンドラって言う名の槍使いの冒険者が私の運命の男に惚れていて、邪魔だった。噛みつこうとしたら凄い握力で顔面を鷲掴みにされ、冗談が過ぎると潰すぞ、と脅された。


 ああいうツンケンしているようで一途な女はヤバいのよ。勝手に惚れた男の女気取りで、近づく女は排除しながら、自分からは何も出来ない。


 婚期を逃した挙げ句、優秀な男の種を後世に残す機会を潰す最悪の女なの。


 見てなさい成人したら押しかけて行って、無理矢理既成事実を作ってやるんだから。



 あぁ、時は無情だ。わたしが成人後ようやく彼を追って帝国まで来て知ったのは、彼の英雄に相応しい最期だった。


 娘達を守るために、銀級冒険者達が敵わなかった凶暴な熊の魔物を倒して亡くなっていた。


 ····娘?



 立ち直るまで私は数週間の時を要した。冷静に考えてみれば、彼もいい年だ。あの恐ろしい女にとっくに襲われ絞られていて当たり前だった。


 私の初恋はこうして終わり、商人として彼の名に恥じぬ立派な商人になって、その偉業に私という娘を助けたという華を添えてやるんだ。

 

 父の跡を継ぎ、近隣の商会を吸収して商業ギルドの勢力を強めて、いつしか私は商業ギルドの金級商人になっていた。


 ええ、帝国をはじめ、サーラズ王国の内情も調べ上げだから知っているのよ。


 あのサンドラは結局は私の最愛の男、ガウツとは何もなかったってね。グスッ、何よ……ちゃんと捕まえておかないから独り残される事になるのよ。


 いつかサンドラと再び会うことが出来たのなら私達が愛した男についてじっくりと語り合いたいものね。


 私、色々調べたけれど、彼と一緒にいたのほんのわずかだったから。



 そう思って飛び回っていたら、賊徒に捕まった。私──これで二度目よ。ガキんちょだったあの時と違い今は成熟した大人。色気は我ながらあるけど、この年で男をしらないから優しくして欲しい。


 縄でグルグル巻きにされてゴミのように捨てられた。


 えっ? 私、気持ち悪いの?


 馬車と船で長期間運ばれて行く間、運び屋の賊徒は誰一人私を嬲るものはなかった。それは助かるけれど、なんか悔しい。水と食事は無理矢理口に詰め込まれ、排泄は縛られたまま。


 時折思い出したように女の賊徒が私を失神させてから縄を解き、身体を洗ってくれた。かぶれたり虫に刺されると薬は塗ってくれるが身動きが取れず、自分が弱っていくのを感じた。


 意識を失い出して何日か過ぎたある日、異変が起きた。


 海賊のアジトまで運びこまれた私は生き残っていた部下と共に、どこかの教団に売られる所だったらしい。


 助け出してくれたのは、子供達を中心とした冒険者だった。


 懐かしい匂いがした気がする。空気が良かったとかじゃないよ。血は繋がっていないけれど、彼の顔に似ていた気がした。


 あの時は彼が私の年齢で、私が助けてくれた彼に近い年齢だったね。

 懐かしいのは当然で、彼らはガウツの娘と孫だった。


 孫····。私、いつの間にかお婆ちゃん世代になるのね。

 

 レーナという娘は、ガウツと最も濃密な時間を過ごした娘だった。あの頃の思い出が懐かしくて抱きしめただけで、もの凄く酷いのよ。


 あの温厚で優しくて逞しくて非の打ちどころのない彼と似ても似つかないと言っただけで、高度千Mの高さから魔力も、身体の自由も封じられたまま放り投げるように捨てたのよ?


 ────ガウツ、可哀想に私が側にいなかったせいで子育てに失敗してるわよ。

 

 レーナは頭が飛んでる。私の言う事にいちいち反抗するのよ。もう、息子までいるのに今頃反抗期? 


 よしよしと撫でようとすると、上下逆さまになり天井と床をぶつからないまま超速で上下に揺さぶられた。魔力酔いと、血流のおかしな流れで吐いた。


「わたしの母はサンドラさんだもん」


 気持ち悪くて嘔吐する私を踏んづけて、去り際に私が一番ダメージを受ける言葉をいって去っていく。


 脳が揺さぶられてめちゃくちゃ気持ち悪い。なんなのあの娘。魔法の気配すらないのに、いつの間にか魔法をかけられこの有り様よ。


 もう、こうなったら根比べよ。ガウツのためにも連れ子の一人や二人まとめて面倒見るよ。


 あぁ、でも本当に死んじゃうお仕置きは止めて。心がどんどん削られてゆくの。私はガウツに代わって貴女達親子を守りたいだけなのに。


 愛情表現の出し方の下手くそな私の娘はようやく心を開いて、私の事を受けいれた。


 何故か、カルジアという召喚師の娘に私は預けられた。


 ────あれ? 人族も魔物扱い出来るの?


 レーナの魔法の(ことわり)は発想が普通の魔法使いと違っていて、理解が追いつかない。


 普通に巨大な船が空を飛んでいるけれど、こんなの浮かばせるだけで魔力がどれだけ消費するかわからないのに。


 飛んでいる間は魔力を殆ど使わないとか、どんな仕組みかさっぱりわからない。


 次々と魔物を眷属化しては、召喚師の娘に押し付けるけど、この娘の本来の魔力では暴走するか、自身が耐えきれず正気を失って死んでしまうはず。


 死なれると、私は解放されるだけで助かるけれど、支配から解き放たれるとヤバいのばっか。

 

 まあ、母としては、娘が次々にペットを拾って来ようと、躾けるだけだけどね。


 古龍は不味いよ。えっ、混沌の神までどうして取り込めるのよ。それに、何故自分まで、召喚師の娘に眷属化させたの?


 娘の気持ちがわからないなんて母親失格ね。まあいいわ。頭のおかしい悪さする偽神は消えたみたいだからさ。


 私の見立てでは、本命はリモニカだと思うの。何の話しをしているのかって? 


 レガトのお嫁さんに決まっている。娘のレーナと、孫のお嫁さんの話しをする日が来るなんて思わなかったよ。


 あぁ、だから消し炭になって影も残らないような炎に包まないで話し合いましょうよ。


 リモニカが大本命なのは、レーナもわかってるよね。あの娘は貴女に雰囲気が似ていて、レガトがなんだかんだあてにしたり頼るのが彼女だからね。


 対抗はシャリアーナね。あの皇女様は不器用なサンドラや現皇帝と根本的に似てるもの。


 惚れた相手にずっと思いを寄せるの。なんだ……私と同じね。


 皇女から皇妹に格落ちしたベネーレはレガトに好意があってもシャリアーナの圧が強いから影も残らない惨敗ぶり。


 このクランでは弱肉強食が全て。肩書きなんて、クソの役にも立たない。


 おほん、失礼。お下品な発言をお詫びするので、続けさせて。次点はメニーニ、カルジア、ファウダー、ミラ、ヒルテね。


 メニーニとレガトは鍛冶と錬金の事になると周りが見えなくなる。趣味が合うと言うのは強い。


 同じ理由でカルジアに対しても召喚師としての魔物収集癖がうずくのか、気をかけているのが見てわかる。


 ファウダーとヒルテは色物枠ね。見た目お子様なファウダーは世間知らずで何を見ても聞いても反応が新鮮で面白い。


 ヒルテはいたずらな悪魔らしく、レガトの冒険者心を刺激するのが上手い。ミラは貴重なお姉さん枠よ。アリルは脳筋過ぎなのと年齢的にきついのよね。


 母親がレーナじゃなければ、とっくにリモニカあたりとイチャコラしていたと思う。双子も公認でね。


 こんな愛らしく、強く、料理以外は完全体とかレガトの亡くなった父親はどうやって落としたのか気になるくらい。


 ゴゴゴッ! 話しが逸れたので後頭部に小隕石群(メテオクラスター)が発動した。おかしいって。上から下に落ちないで下から上に頭の範囲だけ小石が加速してぶつかって来るの。しかも回復しながら。


 強く殴打されたり、締付けられたりするより、苛々する痛みが高速で続くの。


「……ハァハァ、それで、私に見立てさせてどうしたいの」


「候補の者達を中心に、平行世界で戦力を鍛えさせるのよ」


「はい? 意味がわからない」


「フィルナス世界は今、一番実りが大きくて、収奪の旨味が大きいのよ。この機会を狙って来るのは何も偽神(オリン)だけじゃないのよ」


 逃げ出した神達は、残された僅かな縁を頼りに奪いに戻ってくる。搾取され続けた世界がどうなるのかは、想像に難くない。


「平行世界はあくまでここ、レガトを中心とした世界線なの。そこで、一柱の神を起ち上げられれば、この世界を支える柱が強まるわけよ」


「要するに、レガトが選ばなかった未来があって、そこで育った力が元となるこの世界に戻って来るのね。もし、滅んで奪われたら?」


「派生要因の娘が、消滅する事になるわね」


 やっぱりこの女、いかれてる。自己都合でやりたい放題したいだけの偽神(オリン)なんか赤児みたいなもの。


 それだけ、この世界を愛しているともいうのでしょうが、何も知らないあの娘達には酷な話しだわ。


「それなら、私にもレガトとの未来が創れるのよね?」


 うん、平行世界万歳。出来ればガウツの全盛期で私と結ばれる世界が良かったけれど、我慢しましょう。


 ヘビョッ⁉


 刹那の一瞬、私は紙のようにペラペラにぺしゃんこにされた。


「わたしのお父さんと、貴女みたいな変態妄想女の未来を託すわけないでしょ」


 その言い方だと、出来るってことよね。いまの世界は結局の所いくつかある選択の中の可能性の一つに過ぎない。


 ガウツとサンドラが結ばれる可能性、私がガウツのお嫁さんになる可能性は進んで来た道のどこかにあったってことよね。


「変態だけど、無駄に頭がいいわね。ただレガトはともかくお父さんは、貴女に対して何の情愛も結びつきも残していないから、貴女の望む可能性は確率的にはゼロよ」


 僅かな結びつきを頼りに可能性を広げるには、あの一瞬の出会いを気の遠くなる数だけ繰り返し、ガウツの行く道に自分自身の道を結びつけねばならないそうだ。


 心折れずに道を開いてもサンドラという強敵に加えて、やり方を知るレーナ本人という裏魔王が待っている。


 はじめから詰んでる。ガウツではなく、攻略対象がこのレーナとか可能性の芽そのものがなかった事にされそうだ。


 私に残されたガウツとの大切な記憶そのものを失い、ここに至った存在意義さえ消えてしまいそうだ。


「わかったのなら諦めてね。偽神(オリン)と一緒で貴女はしつこいから」


 不味い、本気で存在ごと消されそう。いや、一つだけ私にもガウツとの明るい未来がある。


「この世界で、あなたのお父さんを汚す気はない。でも、偽神(オリン)のいた世界ならどう? あのムカつく勇者達からガウツを守り幸せに導くって選択肢があってもいいと思うの。なんならサンドラも一緒でもいいわ」


 レーナの目が光る。同じガウツを愛した者として、サンドラは同志だ。正確にはガウツであってガウツでなくても、私はガウツの全てを受け入れる。


「あいつの世界は腐っているわよ? それでもいいの?」


 私は頷く。ガウツはきっと困惑するかもしれない。それでも、ガウツがこちらに来た縁で、あちらの世界に紡がれた可能性が生まれた。


 レーナの思惑は逆転移によって、偽神(オリン)の復活の魔力を消耗させてやるつもりもあると思う。


 力のないガキんちょ共に力を与えたように、力あるものが来た際に抑えるためにも魔力を使うみたい。


「リエラはそのままでいいとして、サンドラさんは貴女に合わせないとね」


 余計な真似を。サンドラには年齢による残酷さを逆の立場で味あわせてやりたかったのに。


 人の話しを聞かない女なので、レーナは私を拘束してサンドラのいるラグーンの邸まで向かう。拘束されクロウラーの繭のようになった私の姿を見慣れている街の人は、いつも通りに生暖かい目で優しく微笑むだけだった。


 私とレーナの急な来訪で驚いた様子のサンドラだったけれど、目的を聞いて興味を持ったようだった。


 そりゃ惚れた男とイチャイチャしに行くだけって言われて断るわけないよ。


 ただサンドラは面倒臭い女だから、何だかんだ理屈を述べてうっとおしい。


 私には容赦しないくせに、サンドラにはとことん甘いレーナも悪い。早くガウツに会いたい私はレーナを促す。


 レーナもキリがないと諦めてサンドラの若さを私よりさらに下にした。


 ズルい、それだと完敗する。しかも、レーナがあちらで得た知識なのか服装や装備が豪華過ぎる。


「じゃ、サンドラさんリエラの後始末押し付けて悪いけど、お父さんと仲良くしてあげてね」


 にっこり微笑むレーナ。この女、この世界で私を始末するのを嫌って異世界にゴミのように捨てる気だ。偽神(オリン)が度々そうして来たように、厄介者を押し付ける気なのだ。


 こうして女商人リエラは、その後のレガト達の活躍を見る事なく拘束されたままサンドラと共にガウツのいた世界へ送りこまれたのだった。

 本編は完結しています。おまけの番外編を追記しております。



※ 本編の主人公の一人ガウツとサンドラ、女商人リエラさんの話しは別の作品にて外伝的に掲載開始しました。


※ レガトのお嫁さん候補に関しては、息子を心配するおかんのお節介的な話しとなっていますのでレガトの意思は介在していません。


※ 2023年8月現在、三度目の全話改稿、推敲中です。


 誤字脱字の修正、読みやすいと思える表現や描写、新作に合わせて加筆変更されている場合があります。


 より良い作品作りの為に、温かく見守ってくださいませ。


 8月7日、全話のチェック終了しました。

 

 

 

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