不死者殺しへの道 ①
私を庇う兄の身体に、不吉な狼の両顎が食らいつく。戦闘力の差が大きく数でも優位な狼達は、狂ったように攻撃を続けて来た。
もう無理だ。兄さんもベッタも私も動く事さえ出来ない。あとは数の暴力にただ食いつかれ死ぬだけだ、そう思って死を覚悟した。
私を庇い、腹を食いちぎられた兄さんが襲いかかる狼を弾き返す。強化され狂った狼に傷はない。ただ兄さんの気迫に、狂っているはずが少し警戒心が見えた。
もう兄は死んでいたはずだと、同じような目に合った時にふと思い出した。
絶望を前に、兄さんが何を思って剣を振るい続けたのか、今ならわかる。
リーダーを失った、『鋼鉄の誓い』は求心力を失い解散した。私の兄ニルトはパーティーの仲間を守り、最後は私を庇い死んだ。
兄は結婚して子供が産まれたばかりだった。奥さんのレーナは元パーティーメンバーの冒険者で、私は妹の用に可愛がっていた。
兄と結婚したので、年下の姉になったけれど、私はレーナの事も大好きだった。
だから私のせいで兄を失った時は、どうして私が先に前に出なかったのか、ずっと後悔して泣いた。レーナは幼い子供のレガトを抱きながら、一緒に泣いてくれた。
まだ十五と幼いのに母となったレーナは強かった。本当なら私を庇い死んだ兄にかわり、私の方が慰めないといけないのに。
解散したパーティーメンバーが新しい道に向かい去っていた後も、私はレーナの胸で泣き続けた。情けないけど、心が奮い立たない。
それでもレーナはずっと寄り添い続けてくれた。だから、私は立ち直る事が出来たんだと思う。レーナには、本当はもう一つ借りがある。
私達パーティーが未熟だったために、彼女の父親に助けられ生き延びる事が出来たことがあった。
今も彼女の一番大切な人によって、私は守られてしまった。
だから決意したのだ。この先、私の生命はレーナのために使おう、と。レーナが望むなら、その子のレガトも。
旅立ちを決意したわたしに、レーナが話しがあるからと引き止めた来た。
もう散々泣いたので大丈夫だよ、と思った。
しかし、レーナの用件は違った。ずっと封印していた魔法の御技を、旅立つ私へ贈ると言って、次々に有り得ない付与を施し始めたのだ。
私の装備は、どれもこれも鋼級ではありふれた装備品。レーナのために死ぬつもりだけど、レーナは私を死なせないために、妙な腕環まで渡した。
最後に着ていた皮の鎧にも、強化と幸運と浄化の魔法をかけてくれた。
痛みやすいので買い替えた後は、勝手に鎧の魔法が再現されるという。
もう意味がわからないよ。でも、ものすごく心配してくれて嬉しかった。
この旅は子育てで忙しいレーナのために、色々と調べるために行く。
いつかレーナ達が冒険者に復帰した時に、一緒に冒険者としてパーティーを組み直すための勇気を見つけるための旅でもあるから。
本編は既に完結済みです。
五人目は金級冒険者のアリルさんとなりました。番外編のおまけとして、お楽しみいただけたら幸いです。




