脳筋男の憂鬱 ④
俺は十二歳になった。
正式にシャリアーナ様の見習い護衛騎士に選ばれて、従者してイルミアと共にラグーンへ行くことになった。
正式に見習い護衛騎士というのも変な話しなのだが、シャリアーナ様に選ばれたのは間違いないと思う。
シャリアーナ様は相変わらずで、公爵令嬢としては落ち着かない。
誰よりも賢く聡い方なのに、公爵様のように智慧者として生きるよりも剣で身を立てようと努力する変わったお姫さまだった。
俺の決闘シーンがずいぶんとお気に召したようで、立会人を務めた銀級冒険者のアリルさんに稽古をつけてもらっていた。
いまや【不死者殺しのアリル】として有名になった金級冒険者に認められる腕がどれほど凄いことなのかわかるだろうか。
魔法の力もあって、イルミアが仕事の合間に教えていたな。
天才の一言では片付けられない苦労をしているのは俺やイルミアが知っている。
令嬢に似つかわしくない剣ダコを見ずに、お嬢様のお遊びと冷やかす輩は実際多い。
ロドスの冒険者ギルドに行ったときなどハーレム野郎と絡んで来た輩を何故かシャリアーナ様が一蹴していた。
強いけれど危なっかしい、それが最近のシャリアーナ様の実情だ。
そんな時に【不浄の闇】をたった二人で深層まで辿り着いた冒険者が訪れた。
一人は俺もよく知る冒険者のアリルさんだ。
この人は強い。
いまだシャリアーナ様を軽くあしらうほどの剣士だった。
でも彼女の相棒だという、レーナさんからは彼女以上の圧力を俺は感じ取って怯えてしまった。
剣だけじゃなく、魔法の力もイルミアやシャリアーナ様など足元にも及ばない感じがしたのだ。
どうしてみんなが気にしないでいられるのか不思議なくらい強い存在感だ。
「脳筋に見えるようで、芯の強い良い子ね」
そうにっこり微笑まれた時は背筋がゾッとした。
なんでこんな化け物のような人が銀級なのかわからない。
アリルさんもはっきりとレーナさんの強さを認めているのに。
余計な事を口にすれば殺されると思い、俺はとにかくシャリアーナ様とイルミアを守る事に専念した。
そう覚悟する俺の心情をレーナさんがどう思っていたのか、この時はまだ俺も理解はしてなかった。
ラグーンへの馬車はロズベクト公爵家の専用の馬車で、派手で豪華なものだった。
護衛の兵士の馬車が二台のほかに冒険者の護衛が一台ついて来てラクベクト辺境伯へのお土産を運んでいた。
ラグーンでの不穏な噂は出発前に聞かされていた。
実際街の人々には活気はあるものの、ロドスに比べなくとも冒険者の数が思っているより少ないなと思った。
シャリアーナ様は冒険者として活動すると決めていて、【星竜の翼】への加入という形でおさまった。
リーダーのレガトはふてぶてしい少年だった。
公爵令嬢の護衛依頼やパーティー参加は普通なら喜ぶものなのだが、この少年は貴族が嫌いらしく愛想も悪かった。
シャリアーナ様はレガト達のパーティー加入を諦めず、護衛依頼として一日に銀貨十枚を提示して了承させた。
冒険者など手ぬるい戦闘で強くなった気になり、威張り散らすだけの奴らだというのが俺の感想だ。
子供ばかりの【星竜の翼】も冒険者ごっこに毛の生えたような遊びだとみていた。
しかしレガトをはじめ孤児院の子供達は頭がおかしいのかと思うようになった。
冒険者なら自分より大きい相手と戦うなんてよくある。
だが、このパーティーが相手をするのは十Mを越すような巨大な魔物だった。
シャリアーナ様がいようがいまいが関係なく戦う。
貴族令嬢だからと特別扱いをしない。
毎日の護衛料金を払っているのだから、もう少し考えろよって思わず俺は唸ってしまった。
死ぬかもしれないと何度となく思わされた戦いが続く。
たかがオークでも数の暴力で力押しに来ると手がつけられないくらい怖いのだと知った。
ジャイアントローラーは突然地面ごと食われ飲み込まれ驚かされるが、強引にやつの喉元や腹から剣で切り裂いて出れば粘液臭いが問題はなかった。
レガト達は本当に狂ったように戦う。
俺は決闘の時に死を覚悟して戦ったがレガト達は戦いの度に死を覚悟している。
こんな戦い方を続けて身体が持つのか心配になるくらいだ。
しかし誰一人弱音を吐かず、大きな魔物相手にも立ち向かう。
俺の生きる原動力はシャリアーナ様だが、レガトの仲間達は何を思ってそこまで戦い抜くのか。
俺は自分とは違う仲間たちに初めて興味をもった。
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