冒険者の娘 ③
ズリッチ達もはじめはやる気に満ちていた。でもそれはズリッチとマーズクの二人だけであって、弟妹はというと冒険者になって稼ぐ事よりも、目先の飴に飛びついた。
わたし達が朝早くに集めた依頼を、優先的に選べるのは早い者順に決めたはずだった。
楽出来るものではないけれど領主邸周りの清掃や、貴族区域のお掃除は、冒険者見習いの子供でも収入が良くて人気の依頼だ。
この依頼がある時は、孤児院の仲間だけなら順番に回していた。
でもズリッチ達と組んでからは早いもの勝ちなので、優先権は依頼を集めるわたしやハープ達になり、次いで孤児院の子になる。
今まで通りといえば今まで通りなのだけど、ズリッチ達の弟妹からズルいと文句が入った。たしかに街中から来れるわたし達と、近くの農村から来る彼らでは、移動の際のハンデがある。
冒険者ならズルいとか騒ぐ前にもっと早起きするなり工夫すべきだと、一蹴されるような我儘だ。でも変に仲間意識を持ったせいか、一番遅く来たズリッチ達の弟妹に譲る事になってしまった。
ズリッチ達もはじめは申し訳なさそうにしていた。でも、楽に稼げるとわかってからは依頼があるたびに駄々をこねるようになった。
商店街の小間使いや、食堂の料理運びなど簡単で稼げたり、ちょっぴり美味しい目を見れる仕事まで、弟妹が先に選ぶようになっていた。
幼いから仕方ない幼いから許してくれ、とズリッチもマーズクも甘やかす。
それなら孤児院の子にはもっと幼い子もいるし、早いもの勝ちにした意味がない。わたしがズリッチ達にそれを言うと、逆にキレられた。
君ら孤児院の子は、彼ら農村からもらった野菜やお金で街中に住んで楽に稼げる依頼を独占してきたじゃないか、と。彼らの弟妹は朝早くから大変な思いでギルドまで来てるというのに、と。
そんなに言うなら両親に言って孤児院への支給を止めてやる、と。
好きで孤児院の世話になったわけじゃない。でも身寄りのない自分達を拾ってくれた孤児院には感謝しているし、守りたいから何も言い返せなくなってしまた。
それからはだんだんと弟妹が図々しくなる。何かあれば孤児院の支給の事を持ち出して、脅すようになっていた。
それだけに飽き足らず、彼らはみんなで武装を買うために貯めているお金まで使い出した。
孤児院を人質に取られやりたい放題にされて、わたし達は困窮していた。
救世主さながらに一人のふてぶてしい少年がやってきたのは、そんな時だった。
恰好は凄くボロいマントに、大きな背負い袋を持つ。弓と腰には剣やナイフが差してあり、わたし達と変わらない年齢なのに、ベテランの冒険者のように見える。
変なメイド服を来たお姉さんが後ろにぴったりくっつくように歩き、とても目立つのに動じない。新人冒険者の人達は少ないけれど中堅の方はいる。
腕試しがてら中堅冒険者の一人がメイドさんに絡もうとして、痴漢だなんだと騒がれ大変だというのに、ふてぶてしい少年は受付に登録に行ってしまった。
その少年とは、朝早くからよく顔を合わせるようになった。わたしやハープとホープに、何か言いたそうに見るけれど会話をする事はとくになかった。
奇妙なメイドさんが、いつの間にかギルドの受付嬢になっていたのは驚かされた。




