辺境伯の四男坊⑦
帝都で起きた跡目争いのゴタゴタに僕もその渦中に身を置く事になる。
僕の故郷、ラクベクト辺境伯領は中央貴族の陰謀を排除したため政変に巻き込まれる事はなく平和だった。
父上からはシャリアーナの身の安全を守るように伝言を受けていた。
レガト達の仲間になって凄いとおもとたのは冒険心よりも挑戦心だ。
召喚士の銀級冒険者のカルジアが空を飛ぶ魔物を使役してるのを見たからって、天馬を捕まえて乗ろうなんて考えないよ。
いや乗ってみたいと思ったり、運用しようと考えても召喚士の負荷が半端じゃないからだ。
現にカルジアは三匹のグリフォンを操るので手一杯で暴走させた事もある。
それなのに一匹二匹どころか、十数匹ものペガサスを捕らえて使役とか、どうなっているんだ。
レガトの仲間は、誰も変に感じていない。
ペガサスの所有権を押し付けられたカルジアだけは何か呟いて青い顔になっていた。
考えてみればゴブリン戦隊も召喚された魔物でゴブリンなのに、一体一体が銀級冒険者並、それがラグーンの孤児院と駐屯地に複数いた。
あれほど強く賢いゴブリンをレガトが複数呼んだというけど、魔力維持とかどうなっているんだ?
ハープ達に話しを聞いたがレガトだから、でいつも話しが終わる。
同じ疑問は後から加入した仲間にも見受けられたけど、カルジアのような目にあいたくないからみんなスルーしていた。
政変後、僕は晴れてシャリアーナの護衛騎士に任命された。
今までは形式上で貴族の出だからみたいな適当な理由だったけれど、登録された以上はシャリアーナが僕の主になる。
なぜかリグが喜んでいたけど、君と違って僕は小間使い的な立ち位置なんだよ。
レガトのクラン『星竜の翼』は僕の想像していた以上に忙しい。
レガト当人がとにかく好奇心旺盛で、あちらこちらに行きたがる上に、金級冒険者で皇帝の想い人になってしまったアリルさんや、数多の魔獣と魔物を操るカルジアなどがいて、父上をはじめロズベクト公爵からの信頼が強い。
その上シャリアーナが、ベネルクト皇帝の養女になったためシャリアーナ皇女として帝位継承権まで得てしまった。
元々公爵令嬢なので血筋的には問題ない。
ただ正妃ノイシアとの間に子が生まれなければ、シャリアーナ皇女が女帝の座につく可能性が出来た事を示す。
脳筋は呑気にそうなったら凄いなと笑ってるが、お前の頭の中味が凄いよ、って脳内に直接叫んでやりたい。
シャリアーナからはいまさら護衛騎士の辞退は出来ないわよ、と念を押された。
あぁ、僕は間抜けだ。
こうなって見て初めて自分が責任の重い立場につくことに向いていないとわかる。
どうしてあれほど高慢にレガトに絡めていたのか、今では懐かしい。
胃が痛くてたまらず、グラウの作ってくれる胃薬だけが僕の味方だった。
そして慣れとは恐ろしいもので、レーナさんが大きな船をどこからともなく取り出したり、空を飛ばしたりしようと気にしなくなった。
カルジアは古龍を従者にしたり、古代の魔物を取り込んでいったりする。
まともな常識が通じないし、なんか常に死にそうなくらい危ない目に合ってるのに懲りない面々に、いつの間にか僕も馴染んでいた。
敵とはいえどやむを得ない事情を抱えた冒険者を処分する時は流石にみんな堪えたようだ。
それでも大きな犠牲を払う事なく処理する方法を選ぶレガトは僕らのリーダーなのだなと思った。
僕なら決断出来ただろうか、時々思い出す。
本当は解決出来る手段があったと今ならわかるけれど、それをやるとレガトやレーナさんが今度は人々に縋りつかれ生きづらくなるだろう。
彼らは自分達のために容赦しない決断を取れる。
よくよく考えれば、それは知りもしない他人よりも僕らの方が大事だと言動で示してくれていた証でもあった。
その時は納得しづらいだろうから、事後処理を丁寧にしていたけれど、そこまでする必要も義務もなかったのは確かだ。
父上が、兄ラングが苦しい決断をするのを見て成長したと言っていた事を思い出す。
僕はレガトのおかげであの頃の我儘なだけの子供から成長出来たという自信がある。
あんまり深く考えるなよ、と|脳筋ならぬ同僚の先輩が言うけれど、本当にその通りだと僕は笑い返した。
教団を滅ぼした後も僕はシャリアーナの護衛騎士から近衛騎士として部隊を任される事になったけれど、レガトは僕をずっとクランの仲間として登録し、友達として遊びに来てダンジョンへ連れ出してくれた。
出会いは僕のせいで最悪の形になったけれど、僕は終生の友ってやつを得られる事が出来た。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
本編は既に完結しております。
第八章 夜魔の王女に続き、辺境伯の四男坊もここで一旦幕引きとなります。おまけの番外編は、もう少し続けさせていただきたいと思います。
三人目の追記は冒険者の娘の予定です。
※ 同じ世界を舞台とした続編【錬生術師、星を造る】は、別先品にて連載中となっております。




