辺境伯の四男坊⑤
父上からトロールの駐屯地の開発を認められた。僕はいずれこの地を治めるかもしれないので、勉強をしてくるように言われた。早い話しが、レガト達と一緒にロドスの学校へ入り仲良くなれって事だ。
駐屯地の事やズリッチの事で相談はしていたけれど、高慢な態度で接してしまった事は許されているかわからなかった。
僕はレガト達とは別の馬車でロドスへ向かう。本当は一人で行くつもりだった。あいつがラグーンへ来た時も一人だったようだから、僕も冒険者の一員として試してみたかったのだ。
ただ僕は貴族としての責務がある。
ラクベクト辺境伯爵の息子として、僕はロドスへ行くため専用の馬車と護衛が用意された。
思うようにいかない。少し前なら栄誉ある任務に大喜びしていたと思う。
今はただ役目に対して伴う責任というものを知ってしまって、以前のような馬鹿な振る舞いが出来ない。
これから学校へ通うとなってから知ったのは、帝都から第二皇子がやってくるという情報だ。
わざわざロドスへ来なくとも、帝都にはちゃんと貴族用の学習院があって、皇帝家や中央貴族はそこへ入学するならわしのはずだった。
ロズベクト公爵家を中心とした西側貴族の結束は強い。父上も身内で辺境伯という立場も、帝国全体の中では一番の新参ながら実力は高く評価されていた。
しかしその評判も僕が皇子の前で失態をおかせば、簡単に消し飛んでしまうだろう。そう考えてしまうと今から胃が痛くなりそうだった。
入学式は緊張した。僕の席は上級貴族のシャリアーナと違い、一般人達と近い並びの中だったのでホッとした。
レガトは相変わらずふてぶてしい表情で入学式を見てる。公爵のはからいなのか、貴族の子や騎士の子の次の並びの席にレガト達はいたので、僕の席からはすぐにわかった。
校長の長い話しの後、僕はシャリアーナ達と一緒に第二皇子の所へと呼ばれた。名誉な事だけれど理由が分からなくて戸惑い緊張する。
だいたいシャリアーナとは、まともに話した事もない。
兄さん達は話していたけれど、僕は社交の場ではあまり出しゃばる事が出来ない状況だった。自業自得なので文句を言えない。
駐屯地では近い距離にいた。でもほとんどレガトとしか会話がなかった。
だから余計に混乱する。
僕を呼んで、皇子達が聞きたいような事なんかないと思うのに。
どうも呼ばれた理由はシャリアーナが僕を褒めたためだ。ダンジョンの発見はシャリアーナやレガト達パーティーの実績だけども、それを可能にしたのは、駐屯地を整備して、後方支援を行ってくれた僕たちの存在があったからだと。
発端は僕が罰を受ける意味合いの任務だった。危険もあったし、街中の景色が恋しい事もあった。
父上に認められ、レガトとなんとなく和解出来ただけで充分だったように思う。
まさか第二皇子直々に、声をかけられる事になるなど考えてもいなかった。
もっとも後でわかったのは、皇子や皇子達の側近や取り巻きの相手をするのが面倒臭くなったシャリアーナが、僕をダシに使ってこっそり抜けようとしたらしい。
話題に餓えてる上級貴族の子達なので、現実的で生々しい話しなら何でも食い付くと思ったようだ。実際話しの中味の信憑性などはどうでも良かったのはわかった。
彼らにとっては珍獣を見るのと変わりないのかもしれない。腹が立つけどそれが、上級貴族と田舎の下級貴族の意識の差だ。
シャリアーナは席次は高くて、この場の誰よりも気品があるのに庶民派だ。
流石にその魅力を無視してけなせるものはいない。
血筋的には叔母にあたるけれど、同世代の親戚がかっこよくて僕だって見惚れてしまった。
そして何故か僕はリグと同様に護衛騎士の扱いを受け、シャリアーナによって認められてしまった。




