辺境伯の四男坊③
レガト達の反応から、どうも北の森開拓案の人選は父上からの依頼だったらしいとわかった。そんなに簡単に和解出来るわけない、というかとっくに忘れていそうだ。
父上に後から聞いた話しでは、レガトは乗り気ではなかったようだ。
それでも話せる機会が出来ただけマシかもしれない。
僕の他にもズリッチとマーズクという農村出身の兄妹グループがいた。犯罪を侵したらしい。その相手というのが、父上が領地経営の中でも力を入れていた孤児院の子供たちと、レガトだったようだ。
見習い冒険者として孤児院の子達とつるんでいた彼らは、毎日の仕事の報酬を掠め取り、レガトを街中で囲んで武器を持って脅したという。
一番不味いのが領主権限で行っている孤児院への農作物の支給を、脅しの材料に使った事だろう。
「それで、君らは実際どうしたいんだ」
働く気のない者をわざわざ使って、未開の地の開拓を成功させる自信は僕にはない。
レガトや同年代の叔母になるシャリアーナに、僕だってやれば出来ると見せるなら、暗い表情の彼らよりも引退した冒険者集めた方がいい気がする。
「冒険者になりたかったんだ」
ようやくズリッチが小声で言った。なるほどね、僕と同じで冒険者の華やかな部分だけを見て夢を抱いたんだな。
「わかるよ。剣を振ってバッタバッタと魔物を倒して大金を稼いで、有名になりたい、だろ?」
ズリッチにマーズクも頷く。冒険者を夢見る子供は、物語の英雄のような冒険者になりたいと思っている。
僕だって父上の聞かせてくれる冒険者の話しを、夢中になって聞いていたからわかるよ。
でも冒険者の実態なんて、ただの便利屋か衛兵みたいなものと大差ない。
ダンジョンに潜れば少しは違うのだろうけれど、新人のうちに受けられる依頼なんて雑務ばかりだ。
しばらくやってたからわかる。扉の建付けが悪いのなんて、冒険者より職人の仕事だよ、と怒鳴りかけた。
目がさめたのはレガト達が大型の魔物の素材を倒して引きずって来た時だ。みんな生々しい傷だらけで泥にまみれボロボロだった。
あのシャリアーナも、貴族を嵩に参加したのでないのが一目でわかる有様だった。
僕がパーティーに入れたとして、あんなにボロボロになるまで戦い切れるだろうか。ズリッチやマーズクはまだどこか夢を見ている。
働く気があるのは、ここで頑張れば恩赦で自由になるのが早まるからだろう。僕の質問に、冒険者になりたいと語ったのがいい証拠だ。
だけど後ろに控えているゴブリンを見てみろよ、と言いたい。あんな魔物が相手で僕らのような素人の子供が勝てるはすがない。
妄想は自由だけれども、現実は厳しく容赦しない。貴族だから子供だからと手加減などしないで、勝てる相手にも仕留めてくると思う。
ズリッチ達の弟妹は、逆に大人しかった。毎日こってり絞られて、反抗する気力もなく日々過ごしている。逃げ出さないのは、あんなゴブリン相手に勝てないよ、と思っていそうだった。
現実の辛さを大人達に教え込まれて、ズリッチ達は農村に帰る日まで刑期をしっかり働き通すことは誓った。
レガト達と顔を合わせても、毒気はなく素直に言う事を聞いていた。人間ここまで変わるもんなんだと、珍しくレガトが呟いていた。
それはズリッチ達の事だけではなく、僕の事も言っているのはわかった。
きちんと反省し、態度を改めているのをわかるとレガトはなんのわだかまりもないようで、細かな指示や相談をしてきた。
何故あいつが貴族を毛嫌いしているのか、後に聞いてわかった。出来心で調子に乗ってしまったズリッチ達よりも、僕の方が当たりが厳しかったのは、僕が一番レガトに対して嫌な思い出を思い出させる態度を見せたからだった。
だからレガトとは話すことは出来るようになっても、僕はずっと許されないと思っていた。




