夜魔の王女⑤
人使いの荒いレガトとミラにより、私の優雅なお茶の時間が削られてゆく。荷車なんて使っていない領主邸の馬車から、上モノだけ外せばいいよね。
頭の固い領兵に見つかって怒られた。その間にインプが、ぼんぼん貴族の子供が使っていた、少し格の落ちる馬車を壊していた。
レガトには高級なものを使って欲しかったけれど、考えてみると荷車に乗るわけじゃないから上モノはどうでも良かったわね。
領兵が騒がしいけど、敵襲でもあったのかしら?
後片付けにそんなにむさいおっさん達を何人も呼ばなくてもいいのに、見かけによらずどれだけ綺麗好きなんだか。
荷車をレガトへ引き渡すと、最高にいい笑顔だったわ。探索の帰りに蜂蜜まで贈り物としてくれるし、レガトもいよいよ私を落としにかかって来てるわね。
雑務をやたらと押し付けてくるのはアレね、照れ隠しね。まったくレガトときたら奥手なようで、上級者な立ち回りをするものね。
なんだかラグーンの街が物騒な気配に包まれ、レガトにギルドにいるよう言われた。
エルヴァやクォラ、それにミラとかラグーン所属の中堅パーティー達もいてギルドは安全な場所。
そんな街で一番安全と思える場所にいろだなんて、レガトってば私をお姫さま扱いし過ぎよ。レーナに私達の関係がバレたら恥ずかしいわよ。
仕方ないから指示には従い、アルプ達をレガト達の所へ残す。ギルドにいてもみんなワイワイさわくだけで、誰も受付に仕事の依頼持って来ないのよね。
エルヴァにミラまで鎧を着込んでいるけれど、ドラゴンでもやって来るのかしら。
私としてはドラゴンよりも、レーナの方がヤバいと思うんだけどさ。この件については同意してくれる人っていないのよね。
喧騒を眺めていたら、不意にまたレーナに呼び出された。せっかく美味しいお茶を入れ直したばかりなのに。
呼ばれた先には怒りの気配に満ちたレーナと、座りこんだり這いつくばったりする見知らぬ冒険者達がいた。
どうもレガトがやられて、レーナがキレてる。あの冒険者達、余計な事を。
おかげでカルジアという娘と一緒に、領主邸で騒いでいる新人冒険者を、蹴散らしにいく羽目になった。
ラグーンの城門はさっきレーナに土下座していた連中に壊されたようで、新人冒険者達が酔っ払いのように騒ぎながら領主邸の門へ集まっていた。
カルジアがグリフォンを操り、新人冒険者達を脅す。バカね、ああいった連中は集まると、気が大きくなるから脅しなんて効かないわよ。
それに自分達が正しいと思いこんで、何をやっても許されると勘違いしてる。
いい、レーナが来るまでに騒ぎを鎮めないと貴方達親子諸共丸焼きにされるわよ?私はグリフォンの親に生温いことやるなと、発破をかける。
グリフォンの成体は賢い。私の言う意図を理解して領兵の詰め所を壊し、冒険者達の群れに風の刃で攻撃をした。
突然グリフォンが制御を失い、カルジアは慌てる。グリフォンが賢いのは、幼い主を自分の二匹の仔と同じように守っているのだ。それに真の主が恐ろしいからだね。
新人冒険者達は、恐怖に震えて逃げ出そうとする。しかし退路から、ラグーンギルドの精鋭パーティーを率いたクォラがやって来て、新人冒険者達は取り抑えられた。
ふぅ、危ない。もたもたしていたら新人冒険者達に逃げられ、レーナにお仕置きされる所だったよ。
私とカルジアがホッと一息入れた所に、レーナ達がやって来た。
私とカルジアは仔のグリフォンにレーナとアリルがもう一匹の仔のグリフォンに乗り、Aランクパーティーの連中はロープを掴まされ成体のグリフォンに運ばれて行った。
レーナの魔法で、ロープを握っている間は補正がかかる。自重や風の影響はないけれども、手を離した瞬間魔法が解除される。
バルコスが試しに手を離し、空中から落下してゆく。あいつ本当に金級なの?
レーナは勿論シカト。私の主様は流石過ぎるわ。カルジアが慌ててグリフォンの仔にキャッチさせたけれど、私も乗っているし邪魔だったら捨てていいわよね。
ゼルアス達はずっと移動、戦闘と体力を消耗していたので休息を挟みたがった。
私もお茶を飲む邪魔をされたので休む事を提案すると、魔力でこめかみをキリキリされ涙目になる。睨まれただけでコレよ。
体勢を整える時間を与えては、こちらが不利になるだけでしょう?
そう言われてゼルアス達も黙る。レーナはグリフォン達に加護をいくつも与えて、暴れて来いと命じた。
ゼルアス達もその不意を付いて、乱戦の中に放り込まれる。私はというと乗っていたグリフォンからおっさんと一緒に落とされて、カルジアたけ戦場へと運ばれた。
アホなおっさんと同じに扱われたのが地味に悔しい。
グリフォンの襲来にAランクパーティーの参戦、トドメにレーナとアリルが加わり、鉱山前のクランは壊滅した。
カルジアがこの頃から何かブツブツ言うようになったけれど、レガトが楽しそうにその姿を見るので放っておいた。
私も今後増えるであろう従者達に、助言くらいはしてあげようとカルジアを見て思った。




