召喚神
「わたしは転生前も、いわゆる神という存在ではないわ。偽神は頭があの通りだから、何を言っても自己解釈して理解してもらえないのよ」
母さんが生まれた時の記憶が『忘却』によって刷り込まれたものだと気づいたのは、父さんの亡くなった時らしい。
ガウツおじいちゃんとニルト父さんによって大事な人を失う悲しみを知った事で、『忘却』による上書きされた心とのズレに気がついたという。
「わたしの前世は、おそらくこの世界を築く前のリーア神の世界になるわ。自由神の化身と言われた王の孫娘にあたるのかな」
自由神の血が流れているわけではなく、化身と呼ばれた王の血が流れていたのが前世のレティカという少女。
いまの母さんは人の子として生まれていたので、血筋的にも全く関係なかった。
『異界の勇者』達は異世界転移というものだろう。
母さんの場合、リーア神とフィナヌス神は同じ世界の存在であるため、異世界に転生したとも言えないわけだな。
「オリンとは色々因縁があったわね。
見てわかったと思うけど、わたしの兄達を騙し、大地の娘達を騙して巨人達も騙し、過剰な力を手にした挙げ句にアレなのよ」
手を差し伸べ助けてくれた人々の力を大人しく受けていれば、今頃は本物の創造主になっていてもおかしくなかったそうだ。本性をあらわすまでは、本当に口がうまい詐欺師みたいだ。
「仮にも神に至る存在になったのに、討ち滅ぼされたのなら、異界と言うのはどうなるのですか?」
もっともな質問をリモニカが挙げる。あちらの世界に関わりの深いファウダーも気になるようだ。
「そもそもが神の世界ではないからね。あいつが勝手に自分のものだと主張して奪っただけだから」
本当に迷惑極まりない存在だな。あれに目をつけられた世界は何かしら奪われてダメージを負う。
「リーア世界に運命神、フィルナス世界に自由神がいるように、本来なら大地に連なる存在の混沌の神がつくはずの座を、神が騙して奪ったせいでおかしくなったのよね」
ファウダーがめちゃくちゃ怒っていたのがそれだ。
もう混沌の神ではなく、混沌の魔王としてこの世界に根付くと決めたようだけどさ。
「それって大丈夫じゃないんじゃないのかな」
卒直な感想をハープが述べた。
「そのためにカルジアがいるから大丈夫よ」
母さんがそう言うと、ビクッとカルジアが反応した。
「カルジアが格をあげる、つまり神格化すれば、既に龍神も混沌の魔王もいるもの。余裕で世界の一つや二つ治められるわ」
まさかのカルジア神様が爆誕する。本人は涙目で無理無理絶対無理だと叫んでる。
母さんはずっと前から計画してたみたいだから、カルジアのために今後も従者を加えていきそうだ。
召喚師ってそういうものだったっけ?
二つ名の『神謀の竜騎士』ってそのつもりでつけて広めさせていたのか。
みんな母さんの謎はなんとなく理解出来たようだ。
神様となった召喚神に次々と珍獣やら神獣やら押し付けるレーナの姿が目に浮かぶ。
そして多種多様な存在を受け入れてゆくカルジアの心の平穏が、いつか訪れる事を改めて願った。




