召喚主
神を騙るものが消滅したために、アヴァドンとラードゥンも消えた。いかれた偽神の穢れは、アリルさんが浄化して回る。
「レガト、その何て言っていいかわからないけど」
ハープが悲しそうに僕を見る。他の仲間たちも気の毒な表情を浮かべている。ん? 何か誤解があるぞ。
「レーナさんが犠牲になったから、レガトの力が目覚めたんでしょ?」
シャリアーナまでおかしな事を言い出した。僕の力は僕のものだよ?
「みんな勝ったのに何でそんなに落ち込んでいるんだ? ラードゥンの素材が取れなかったからか」
確かにあれは倒して、リグかラクトスに頼んで皮だけでも採っておきたかった。
「レガト、お母様が亡くなって、混乱しているの?」
イルミアまで何を言ってるんだか。
「なんか誤解してるけど、母さんは死んでないよ?」
「えっ、でも穢れた魔力で腐蝕されてドロドロになってたよ、ね」
悍ましい攻撃にさらされて、穢されたまま消えたと思っているようだ。
「いや、呼べば来るよ。カルジア」
複雑な表情のカルジアに声をかける。
「へ? 何で私?」
そもそもだよ、母さん由来の召喚従者達がそのままでいるのだからわかりそうなものだよね。
「母さんを呼び戻さないと、あの巨人達を連れて来かねないぞ」
力を繋げていた偽神が消えたので無理だとは思うけど、母さんならやりかねない。偽神よりもあきらかに格上の存在だからね。
カルジアはアウアウと慌てながら母さんを呼ぶ。
「ウソ?!」
戦いが終わると、庇ってもらって意気消沈していたスーリヤの側に母さんが戻る。スーリヤが珍しく涙を浮べて、母さんに抱きついた。
「ただいま。なんでみんな口を開けてポカンとしてるのかしら」
そこには傷一つなく、いまだに幼いあどけなさの残る母さんがいた。
「えっと、レーナさんは亡くなってないの?」
リモニカまで半信半疑だ。あの状況下であの胆力を発揮しても、こういう時は素になって驚くんだね。
アリルさんにユグドールあたりは察していたし、カルジアの従者達も共感性を感じていたようだね。
「あぁっ?! なんか契約が勝手にされてる」
今更カルジアは気づいたようだ。母さんは死んではいない。ひとまずカルジアの召喚魔法を経由して、こちらの世界から戻っただけだ。
聖杯を通じてあちらの世界で自らの存在の再召喚を果たし、偽神の根幹をぶっ壊して来たそうだ。
カルジアは嬉しそうに母さんに頭をグリグリされている。召喚主だけが気づいていなかったけど、まあ勝手に契約しちゃう母さんが普通じゃないのは知っていたよね、って話しだ。
勝手に魔力扱うって、そんな事も出来るとかでたらめだよね。
神を騙るものがウッキウキで母さんの事を嘲笑っていたけど、母さんからすると何を言ってるんだこいつって感じなんだろうな。
あっちに逃げたつもりでバッタリ会って、消滅させられるなんて思ってなかっただろうし。
「レガト、あれはしぶといから多分またどこかで復活するわ。相変わらず自分の都合でしか物事を見ないから、次は瞬殺出来ると思うけどね」
母さんがあちらの世界に何か仕掛けて来たみたい。
「ねぇ、レガト。ぼくもみんなも何がどうなったかを説明してほしいと思って見てるよ」
「レーナさんて結局何者?」
「自由神の娘って、神様じゃん」
穢れも晴らされ安堵した仲間達が集まってきた。僕は母さんに先に話しを聞いていたからわかるけど、みんなは聞くの我慢してたんだね。
隠す事もないし、僕は説明を始めた。




