聖杯の使い道
『異界の勇者』には僕、ハープ、リモニカ、ファウダーが向かう事になった。
シャリアーナには、リグ、イルミア、ラクトス、カルナ、バアルト、ティフェネトを連れて一緒に行くけれど戦闘時は待機してもらう。
勇者達はしょせんオマケだ。戦闘になった時に本命に介入されても困らないようにしておく。ホープにはダラク、アウドーラと拠点の防衛に残ってもらうことにした。
『異界の勇者』パーティーは密林へ入り込み、あっさりと古代遺跡の入口へと辿り着いた。
勘というか、聖杯から発する神の力にに導かれているとしか思えないくらいまっすぐに進んでいたようだ。
遺跡群はユグドールが大きな建物だけを残して後はどかした。入ればすぐに聖杯に辿り着く。『異界の勇者』達は、八人いて主力は四人と後は控えだろう。
ファウダーの話しから主力の彼ら四人は、全員が異世界人で、おじいちゃんがいた頃からいるという。
遠目だと分からないけれど、随分とおっさんおばさんになっているはずだよね。
アピスロードを相手に『異界の勇者』パーティーは善戦していた。主力はもちろん、控えのパーティーも四人で一体ずつ相手になるように上手く動いていた。
「長年活躍しているだけあるね」
石像がいない分、攻略難易度は落ちるとは言っても、大型の魔物を連携で上手く補って戦っていた。
年齢を考えると全盛期はもっと凄かったのかもしれない。
僕はアピスロードの半分を後退させた。バアルトとティフェネトをパーティーに加えて、シャリアーナ達には待機して見張っていてもらう。
『異界の勇者』達がこっちに気づいた。後退した十体のアピスロードは聖杯を囲うように待機している。挟撃するつもりはないけど、欲しい物へと向かうより、侵入者に見える僕らを警戒していた。
まして、彼らを召喚した教団の教祖であるファウダーがいたから。
「俺たちを捉えに来たのか?」
勇者達四人は制約で居場所を見つけられたと思っているようだ。
「違います。聖杯に引き寄せられたものと、そこからやってくるものを始末しに来ただけです」
ファウダーの感情の薄い言葉に勇者パーティーのリーダー、カズヤ・ムラキが熱くなりかける。
止めたのはエリカ・シンドウという名の魔法使いで、情報を引き出すのが先だと小声で注意した。
「聖杯はテンベールの宮殿にあったはずのものだろう? それが何故こんな未開のダンジョンにあるんだ」
言葉の感じから、聖杯の事は知っていたんだなとわかる。それに聖杯がどんなものか、使い道を理解している気もする。
「それは貴方達のいた世界の神を呼び出すための餌だよ」
「あのクソ神を? 誘き出して倒してくれるのなら嬉しいが、それでは俺達が困るんだよ」
呼べるという事は戻れる可能性があるという事になる。壊されるわけにはいかないのだろう。
「元の世界に戻った所で随分昔の話しなんだろう?呼ばれた事象と状況が変わっているから、その瞬間へ戻ったとしても元の生活が戻るとは限らないと思うけど」
僕も時の絡みに関する事はよくわかっていない。ただ彼らが真に戻るには呼ばれた時点でのパーツがとっくの昔に欠けている。
多分、彼らの中ではいた事すらも忘れ去られている男が。母さんのとても大切なお父さんとなった男の姿はここにはない。
彼らからしてみれば、きっと道端の石ころのような存在だったのだろう。
だけどそんな石ころのような存在も大切なものを見つけ、最後まで輝き続けたんだ。
この時の僕の思いが後に母さんにも伝わり、おじいちゃんの為に仕返ししてやったとほくそ笑んでいたっけ。僕には何の事か、さっぱりわからなかったけどね。
「やってみないとわからないだろう。
邪魔をするなら、力ずくで排除するまでだ」
言うが早いか、カズヤの後ろに控えていたユイ・カシマが仲間に防御力上昇の魔法をかけ、ハヤト・サエジマが弓矢でファウダーを狙った。
控えの冒険者パーティーは全員銀級で、リーダーの宣言ですぐに武器を抜き陣形を整えた。
こちらも負けていられない。既にハープが大地竜の盾をかざして、仲間に防御効果を付与している。
リモニカはハヤトの矢を撃ち落として、バアルトとティフェネトは跳んでいた。僕はファウダーを庇う形で勇者パーティーを正面に見据えた。
「オレの矢が弾かれた!」
弓使いとしての腕は何かしらの能力のあるハヤトよりも、リモニカの方が上だったようだ。
エルフ達にも驚かれたけど、リモニカはゴブリンと戦ってた頃から何気に凄いんだよ。
冒険者経験年数は勇者パーティーの方が上だろうけど、修羅場の戦闘経験は勇者達の三十年より上な気がするよ。
それに僕はともかく、仲間達は借り物の力じゃなくて自分達で磨き身につけた力だからね。




