一つ目竜の目玉
キールスに戻った翌日、『海竜の咆哮』のメンバーは談話室へと集まった。報酬の配分や、探索で得た素材や宝石の類など、戦利品をどうするか話し合うためだ。
クランの運営資金として、今後の遠征費用などの必要経費はレミールに頼んでいる。帳簿にして、クランメンバーの誰もが確認を出来る形にする事になっている。
収支に関していい加減なギルドもあるが、ラングはなるべく公正を重んじるつもりだった。
報酬については最終的には、クランメンバーの頭割りに決まった。遠征に参加していなくても、準備や留守を守るなど、影で働くもの達がいるから成功に繋がったというのもある。
素材等の売却額は、身体を張った遠征参加メンバーで分ける事になった。
「そう伝えたのだが、素材売却の配布についてはもう少し待ってほしい」
ラングはキールスのギルドの懐事情が、芳しくなかった事を伝えた。
キールスのギルドが主力パーティーを失って以来、ダンジョンの深層到達者は出ていない。
依頼は来ていたものの、失敗続きだったためキールスギルドへの依頼も少なくなった状態だ。ギルドとしては依頼がないのに報酬や買い取りの予算を立てる事が出来ない。
人口の多い都市ならばギルドも大きく、そういった緊急時の予備費の貯蓄もある。予算がなくてもその規模の街なら商業ギルドが変わりに立て替えしてくれるものだ。
「まぁ、これからじゃないか。俺達の実力は知られたんだろうし」
自分達が籍を置くギルドが思った以上に凋落事実を知って、クランメンバーが沈み込むのをラクトが盛り上げた。
一つ目竜の素材が売りに出されれば、キールスのギルドは再び注目されるのは間違いない。
「で、本当にいいのか?」
ラングが俺に問う。
一つ目竜を倒したのは俺だと、ここにいる全員が思っている。俺はというと、動きを封じられながらもラングの指示で諦めずに仲間達が攻撃をしてくれたから自分の力に気づいたと思っている。
いい子ぶりたいわけじゃない。俺としてはむしろ欲を張らず、余力ある内に引き返す決断を出来る仲間達を大事にしたい。
遠征の準備をしてくれたガルロ達がいるように、俺は自分の役割を果たしただけだ。だから目の前の一つ目竜の目玉を俺に所有させようとしないで、と心から思った。




