意外と貴族は気が長い
情報収集は母さんとカルジアが帝都まで飛んで向かった。自分の騎獣が喜んで母さんに従う姿に複雑な表情をしていた。
カルジアと対象的に、メイドが晴れやかな表情をしていた。母さんにだいぶ絞られて、この所ずっとへばっていたからね。
僕達は余剰分の食料や素材をギルドへと卸し依頼報酬を受け取る。
戦争や災害になると、街の流通は止まり多くの人の生活に支障が出る。
冒険者や狩人などは自分で狩ったり他所の地へ移ったり出来るから困らない。
でも、お世話になった人達や守りたいものがある場合は自分達だけ逃げるわけにはいかない。
「噂だけでこんな状況だから、実際内戦になったとしたらどうなるか読めないよね」
「友好的な領地の中ならまだマシかもね。敵対勢力と接している所はもう小競り合いがはじまっているそうよ」
アリルさんも情報を得る為にシャリアーナとイルミアを連れて公爵邸へ行って来た。
「ある意味安泰なのは辺境伯の所だけね」
領都ラグーンと近隣の農村は全て友好的な貴族の領地に囲まれた辺境の地だ。気をつけるのは帝国軍より魔物であるため、通常通りとも言えた。
そのためラクベクト辺境伯は近隣の友好的な領主に食糧支援を行なっている。
農村の収穫に加えて、北の森や新ダンジョンで得られる食糧調達が順調な証しだった。
「ただ、公爵領はまったく安全かと言うとそうでもないのよね」
「王国だね」
「そう。レーナやレガトが言うから公爵もすぐ動いていたわ」
中央貴族達が隣のサーラズ王国の貴族と親交があるのは確かだ。
この時の為にずっと前からサーロンド侯爵と密約を交わしていたとしても驚かない。
陰謀に長けた貴族達は長い年月をかけて下準備をしている。
ロドス冒険者ギルドマスターのラングさんの話しでは、都市国家群での画策もあったという。
ラングさんは、この時に北から攻め込ませる勢力づくりを考えていたのではと、僕は推測していた。
「僕らが生まれる前から計画されて、実行に移していたって事でしょ?」
冒険者に矜持があるように、貴族にも家を保つ上での何かがあるんだと思う。良いか悪いかではなくて、その時にどう転んでも生き残るために。
いくつかの計画は僕のおじいちゃんや母さんが潰したようだけど、それは一部に過ぎないし、そうした事態も想定して二重三重に用意をしている。
「私には無理だわ」
シャリアーナがぼやく。僕にも無理だ。
もはや人間の種類が違う生き物だと思うしかない。
ムカつくけれど、それも才能だと認めるしかなかった。
ロズベクト公爵からローディス川の流域の情報が入った。予想された通り王国でも戦闘の準備が静かに行われていた。
帝国の内戦の被害に合わないためという名目にしては反応と、準備が早過ぎる。
帝国の動きによっては、ロズベクト公爵領を裏から突くつもりなのが見てわかる。
「船の準備が異様に早かったそうよ」
戦いに備えるのは守るより攻めるためだと、それだけでわかった。
「西部で一番強敵になるのが公爵だから、背後をつかせて勝てないまでも縛りつけたいのね」
歴史を勉強したおかげもあって、僕も帝国近隣の関係はよくわかる。
南西の沿海州国家群とは友好的な関係なので、海側から進軍はないと思いたいけれど、母さんは気にしていたな。
「レーナの勘は当たるから、公爵には伝えておくわ」
アリルはそう言って伝言を持って来た公爵邸の使いと再び公爵に会いに戻る。
母さんたちが戻って来たら、海側を一度偵察してもらった方が早いかもしれない。
戦禍の匂いにバタバタして来たけれど、戦争などさっさと片付けて早く冒険に出たいものだと思った。




