爆弾発言
面会の場所は学校の中の談話室の一つを借りて行われた。
アリルさんがいるとバレたら騒ぎになるので、母さんが魔法で姿を隠していた。
アリルさんと母さんと僕に加えてシャリアーナとイルミアが先に部屋に入っ座る。リグとラクトスは入口で立って皇子達の到着を待つ。
ベネルクト皇子もすぐにやって来た。付き添いは一番近しい側近テンベクト公爵の息子リキッド、カロデス公爵の娘ノイシア、ナンベクト公爵の息子ザンクト、ドランガード公爵の息子バレキアの四人だ。
歴史を習って来ていたけど中々領土名が覚えられない。ただ、取り巻きの中に中央貴族の名がないのはわかった。
「前にお会いした時よりも大きくなりましたね、殿下」
余計な知恵が回るようになりやがって、と僕はアリルさんの心の声を自分の心の中に代弁する。
アリルさんは嫌がっていたけれど、懐かしくはあるようだ。
「ご無沙汰致しております、アリル様」
皇子の方も取り乱すような事はなく、挨拶を交わす。
「御手紙は拝見いたしました。殿下も御立場があるでしょう。戯れに冒険者に会うのはこれっきりにするのが良いですわ」
「いえ。私の惚れた御方には側にずっといて欲しいと思っています」
「はっ?」
「えっ?」
僕らは何か聞いていた話しが違うような皇子様の言葉に変な声を出してしまった。
「騎士として生涯使えよ、と言っていましたね。それはハッキリお断りしたはずですが」
「それが、誤解なのです。私が幼さ故に間違って伝えてしまった事をお詫びしたいのです。そして今度こそ、本当に伝えたい事を言うためにお会いしたかったのです」
不味い。これは皇子様が公開処刑を自ら行おうとしている。僕は側近達に目をやる。帝国の名だたる大家の子息子女が目をそらす。
「私はアリル様と結婚しようと思っています」
皇子様の騎士になってくれ、はアリルさんへのプロポーズであっていたらしい。
守る守らないの概念が当時の皇子様にはなくて、殿下なりの求愛だたようだ。
上位貴族の子供達の面前でまさかの結婚宣言に、アリルさんはため息をついた。
「お気持ちはとても光栄で嬉しいですが、お断りします」
少し照れたようにアリルさんは断った。
「理由を聞いても?」
皇子様、動じていない。強い。
「一つは年齢です。自分で言うのは悲しいですが私はもう結構な年です。もう一つは身分です。例え金級になろうとも私はたかが冒険者なのですよ。最後に私はこのレーナの為に生きると誓いました」
真面目に皇子様の言葉に答えるアリルさんは綺麗だと思った。側近の方々もアリルさんの解答には助かった感じを見せた。
「そうですか。でも私は諦めませんから」
「いや、殿下諦めて下さい」
「そうです。ノイシアか、そちらにいるシャリアーナ嬢が殿下の正妻の候補なのですから」
「アリルもいい年なんだから貰ってもらえばいいのよ」
側近達が慌てる中で何か母さんがボソッと言った。
「‥失礼、貴女は?」
「アリルの義姉よ」
アリルが生涯をかけると誓った少女にしか見えない女性が、まさかの義姉だった。
その人、僕の母さんですとは言えなかった。
皇子様は唯一の味方を見つけた表情で母さんを見ている。
アリルさんは何を言ってるのと、真っ赤になって母さんに訂正を求めている。
「ねえ、私達必要なくない?」
シャリアーナが凄く冷めた表情で僕にぼやいた。
僕もそう思ったので、二人で深くため息をついた。




