新パーティー誕生
ギルドの食堂でおばちゃんと話しながら食事を楽しんでいた。今日は休みなので皆がいない。一人寂しくカウンター席かい、とからかわれた。
リモニカ達とパーティーを組む前は一人でこうして食べに来ていたし、今も休みの日は一人だって知っているでしょうが。
この食堂のおばちゃんも凄い冒険者だったみたいで、領主様やロドスのギルドマスターは今でも頭が上がらないという噂だ。
貫禄もあるし何で食堂で女将をしているのかは謎だ。こうして僕みたいな初心者を見つけては指導するのが趣味なんだそうだ。
からかう事が多いのも冒険者としての耐性をつけてくれているのかも、と良い方に解釈しておく。
おばちゃんと話していると、また貴族の子供が食事の邪魔をしに来た。
なんだかまた怒っているけど、こっちに来ないで欲しい。
「なんで来なかったんだ?」
「何の話だ、ですか?」
「邸に招待しただろう」
許可証は招待状も入っていたらしい。紛らわしいし、どっちにしても行く理由はなかったけどね。
「怪しい者は通せないって怒られたからね。仕事熱心で親切な良い門衛さん達だったよ」
行かなかった理由に使ったので、門番達が悪くない事も伝えておく。
貴族の子供がどれだけ偉いか知らないけれど、お前らはクビだぁとか言いそうだった。
おばちゃんはなんだか凄く楽しそうに見てる。あと、いつも僕らが座る席の後ろに座るメイドも。
「まあいい、許してやる」
「それはどうもありがとうございます」
何が悪くて許してやるのかわからない。なんか一人で物語が出来ているのだろう。
「お前を呼んだのは、この僕がお前達のパーティーに入ってやると伝えるためだ。手続きとかはお前に任せる」
何か寝言のような事を言っている。
偉そうにそれだけ言うと、護衛の騎士を連れて帰って行った。
「あんたも災難だったね」
そう言いながらも、おばちゃんはニヤニヤしてるし。
「どこの誰かもわからない輩を、パーティーの仲間に相談なく入れるわけないじゃないですか」
名前も名乗らず、冒険者登録料も払わず何がしたいのか僕には理解出来なかった。
「あれは領主のバカ息子だよ」
「領主って辺境伯の? 大丈夫なのこの領地」
冒険者としてどうこうの問題じゃない。一方的に頼み事をするのに、自分の事は知っていて当然と思っている。
知らなかったからといって、首でも刎ねるつもり?
「あれは四男坊だよ。放っておいても長男達は優秀な子だから大丈夫さ」
さすがおばちゃん、情報通だと思っていたよ。冒険者ごっこがしたいお年頃なのだろうと勝手に推測する。
向こうも一方的に勝手な事をのたまっていたからおあいこだよね。
「ねぇ、おばちゃん。冒険者登録って貴族や騎士も出来るの?」
「出来なくはないよ。ここの領主も貴族のまま冒険としてたからね」
「他人が登録は?」
「それは無理だよ」
「さっきのみたいなやつの場合は?」
「難しいけどなくはないね。入れてやるのかい?」
おばちゃんが意外そうな顔をした。
まあ冒険者になってパーティーになりたいのなら、自分達で作ればいいだけの話しだ。
「へぇ、面白いね。ならあたしが保証人と登録料払ってやるから、いちから新しく作ってやりなよ」
すっとぼけた悪巧みにおばちゃんが乗ってくれた。悪巧みというか社会のお勉強だね。
ちょうどいい所に受付嬢もいたので、領主様の四男坊ラクトス君の冒険者登録とパーティー申請はすぐに出来た。
騎士二名はたまたま順番に護衛についただけだろうけど、僕も災難にあったのでわかってくれるだろう。
嫌なら自分達で手続きして欲しいものだよ、まったく。
「これで一件落着っと」
こういう時だけ新人受付嬢は、仕事が手早くて頼もしいね。
階級証や書類等をまとめて、おばちゃんのサインと共に領主様に送った。
勝手に話しをして確認せずに帰ったのだから、誤解して伝わる事もあるよね。
保証人が保証人なので、領主様も冗談では済ませないだろうし。
なんか四男坊なりの思惑があったのだろうけど、僕にはもう関係ない話しだ。
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ラクベクト辺境伯は頭を抱えていた。
中央貴族の差し向けた大規模クランの冒険者達により、帝国法ギリギリの妨害工作を受けている中で、ロズベクト公爵の三女シャリアーナがラグーンへとやって来ると言うのだ。
表向きの理由は、ラクベクト辺境伯の長男を除いた三人の息子とのお見合いだ。
しかし公爵には自分の息子の子、つまり孫と自分の娘を結ばせる気はないだろう。
公女シャリアーナは活発な娘だ。
お付きの護衛と侍女と共にダンジョン探索に出ている程だ。
歳の離れた妹ながら、お転婆過ぎる。
シャリアーナの狙いは最近耳にした冒険者の少年なのではと考えている。
『不死者殺し』アリル、たった二人のパーティーで、ロドスのダンジョン『不浄の闇』の深淵到達の情報は届いている。
ロドスだけじゃなく、帝国中が驚きの声を上げている。
未攻略の中でも特に難しいとされる帝国の四大ダンジョン。
その中でも『不浄の闇』は浅層から広大な大地が広がり、中層以降は不浄の地へ変わる。
広すぎて探索が大変な事や、魔物の数も群れ単位な上に、中層以下は死者の魔物ばかりで、素材もろくなものがない。
また補給がきかないのも地味に痛い上に、眠らない死者達の攻撃に絶えず晒されるのだ。
大勢で行けば補給が続かず、少数だと休息が難しい。
そんなダンジョンの最高到達記録を、アリルという金級冒険者は二人だけで挑んで塗り替えていた。
『双炎の魔女』レーナ。
冒険者二なったのが十二歳、結婚して引退したのが十五歳の時という超天才だ。
同じ天才的な魔法使いと剣を扱う元冒険者にエルヴァがいる。
しかし、レーナという冒険者の場合、金級の剣士に剣を教える程の腕が立つ、銀級の魔女なのだ。
狩人としても優れているようで、弓とナイフの扱いも一流という話しだ。
槍の名手サンドラ直伝の槍の使い手だとも言われている。
二人だけで、ではなく二人で充分なのかもしれない。
そんな天才魔女レーナの息子がレガトという少年だ。
年齢はまだ八歳。お転婆公女が冒険者をはじめたのと同じ歳だ。
今の所、そこまで非凡さは見えない。ただ冒険者としての才覚でラグーンに関わる問題を一つずつ解決してくれている。
シャリアーナが公爵に厳命されたのは、アリルやレーナらとの繋がりを持ちたいが為なのは明白だ。
だが、レガトという少年は才覚をあえて隠しているようにしか見えない。
兄達を出し抜こうとしたラクトスなど玩具扱いだ。
エルヴァを保証人にした以上、相当な理由がなければ、パーティーを解散する事も、冒険者を辞める事も出来まい。
まして領主のもとへ届けられた以上、形だけても冒険者を続ける必要がある。
わずか八歳でどこまで見据えているというのか、恐ろしい少年だ。
後半は辺境伯となったラクトの視点を追記。




