七度の死
公都ロドスには冒険者が多く訪れるため、宿屋も数が多い。
後でみんなと合流する宿屋は、ベルク商会の経営する宿になっている。
冒険者よりも行商人や隊商の利用する事の多い宿だ。
商人達が商談に使えるように応接室のついた部屋や、隊商の護衛の大部屋と一緒になってる部屋などロドスの中でも個性的な宿屋だった。
僕は母さん達と宿の中の応接室の一つを使わせてもらう。
四人程が座れるソファが二つ置かれた部屋に僕は母さんと、反対側にヒルテとアリルさんが座った。
まずは母さんがこちらへ来た経緯を話す。それからずっと音沙汰のなかったアリルさんが旅に出た後の話しをしてくれた。
「というかレーナ、貴女の魔法どうなってるの」
旅の話しを始める前に、ずっとそれを言いたかったアリルさんは剣をテーブルへ置いた。
「どう見ても普通の剣だし、鑑定士も鋼鉄の剣だって診断したわ。なのに、やたらと斬れるしアンデットとか浄化までしちゃうのよ」
性能があり過ぎるのに見た目がただの鋼鉄の剣なため、アリルさんが特別な力があると思われたらしい。
「だってアリル一人で行くって言うんだもん。義姉としては心配するでしょ?」
やり過ぎた事はとっくに開き直っているので母さんは気にしない。
年下の義姉の言葉にアリルさんは頭を抱えた。
他にも大魔法使い級の魔法付与された装飾品の力で、アリルさんは自分自身が伝説や国宝級の付与能力を自覚しないまま、危地を乗り越えてしまった。
そして気づけば銀級になり、単独単身でダンジョン『亡者の迷宮』を踏破したことで、金級に昇格した。
「それでも七回も致死に至る攻撃を受けたみたいだけど、何で?」
母さんはアリルさんの腕環の色の変わった数に気づく。黒ずみを塗ったような宝珠の数が七つだった。
「帝国東のナホビアで異界の勇者達にやられたのよ」
「わたしの大事な義妹に『異界の勇者』達が?へぇ~」
母さんから怒りと、まだ能力が足りなかったかと言う声が漏れる。
アリルさんはまだまだ強化されるようだ。
『異界の勇者』達は男女二人ずつの四人組だった。
「噂通り性格は最低で、いきなり誘ってきたから断わったのよ。それが気に障ったらしくて」
街の外で一人になった時にアリルさんは襲われた。
「あっちは動けなくして私を嬲るつもりだったみたい。でもすぐに回復するからキレちゃって」
母さんの渡した腕環は致死を防ぐ。
母さん本人はどこまで意図していたのかわからないが、首を跳ね飛ばさても復活するようだ。
魂が消滅するような一撃からでも復活を果たしそうだ。
四対一と状況は不利だったけど、何度致命傷を与えても死なないアリルさんに『異界の勇者』達が恐れをなしたらしい。
アリルさん自身も何故自分が死なないのかよくわからなかったらしいが、 原因が母さんの魔法にあるのはアリルさんもわかって来ていた。
「戦闘中の会話でわかったのは、彼らはこの大陸から離れた別な大陸の国で召喚されたようね。初めて呼ばれた時、彼らは五人いたそうよ」
「それって、お父さんも?」
「もう少し詳しく聞かないと確定出来ないけれど、可能性としては高いと思う」
『異界の勇者』達があらわれた時期とガウツ、僕のおじいちゃんが世に出た時期は一致するという。
「『異界の勇者』が一定の土地に居付かない理由もわかったよ。どうも召喚時の制約とかで、常人を越える力を得るかわりにその国の要人からの命令に逆らえないようだったわ」
異界の勇者達は力を発揮する時に手の甲に紋様が浮かんだという。
それが彼らを縛る鎖にもなっているようで、派手に力を使い過ぎると見つかると言っていたとか。
「制約はともかく、強いのね」
「ええ。『黒魔の瞳』も全力なら攻略出来たのかも」
母さん達が深淵部を発見したダンジョンは『異界の勇者』も挑戦していた。
かなり中途半端な攻略に母さん達は疑問に思っていたようだ。
素行の悪さも元の性格や、力を得た事で傲慢になったからだろうけど、腹いせにあえてやりたい放題して評判を下げている気がする。
そうでなければあえてそういう連中を呼んだのかも。
良心の欠片もないなら街の人々を皆殺しにして逃げる方が簡単だろうから。
母さんも僕も、自分達にも何者かの制約があるのかだけは気になった。




