『不死者殺し』のアリル
帝国のロズベクト公爵の領土は帝国南西にありローディス川を境にサーラズ王国とセイラス港国と面した要衝の地としても知られている。
公都ロドスには有名なダンジョンもある為、多くの人々が集まる。
「うわぁ、凄い人だね」
僕は思わず幼い子供のように声を出した。
「そうね。前に来た時よりも増えているんじゃないかしら」
一行の中では母さんが一番直近で公都ロドスに来訪している。
「帝都インベキア、公都ロドス、東都テンベクト、帝国三大都市は皆ダンジョンを囲むように都市化されているんだよ。」
サンドラおばさんが帝国の都市の特徴を教えてくれた。
都市の中に未攻略ダンジョンがあるため、攻略を夢見てやたらと冒険者が集まり、それをあてに商人や娼婦などがさらに集まってくる。
滞在しやすいのと稼ぎやすい事もあって、いっそう人がやって来やすいというのが帝国内で三大都市へ至った理由だった。
その都市の中に大きな建物が並ぶ一画がある。
冒険者ギルドなど主要ギルドの集まる区間で、サンドラおばさんが所属していたクラン『海竜の咆哮』の盟主ラングが今もギルドマスターの座についていた。
ベルクおじさんとレミールおばさん、それにガルロ爺もクランの仲間で彼らを昔から商人として支えていた。
都市国家群で出会い、それからずっと縁があるという。
三人が挨拶に行くと、すぐにギルドマスターの部屋へと案内された。
「年寄りの話しは長いから今のうちにあんた達の登録済ましておいで」
サンドラおばさんは別な仲間達に話しに行くので、あとで宿屋で合流する事になった。
僕は母さんとヒルテと受付に行く。
母さんは元銀級だけれど、僕が産まれる頃から活動を休止している。
ヒルテは冒険者は初めての登録になるらしい。
少し古いものになるけれどサンドラおばさんがラズク村の役場で、僕や母さんにヒルテの登録書を作っておいてくれた。
「こちらは有効期限が過ぎてるので、保証人の方はおられますか?」
住人登録証明の発行期限がやはり過ぎていたらしい。
それに自国のものと他国のもので期限も違うようだった。
「それならギルドマスターの所にベルク商会のベルク夫妻がいるので確認してもらえますか」
母さんがそういうと受付嬢は渋い顔をした。
僕にもわかる。ギルマスの接客中にそんな用件でそのお客さんを保証人だからと呼べるか、と。
「昔来た時も挨拶断られたのよね。
受付の子と相性が悪いのかしら。」
今もそうだけど、冒険者時代の母さんはきっと冒険者に見えなかったと思うよ。
僕といると、見た目は母と子というより姉と弟だし。
「あーもういいです。
お金払うので三人分の住人登録証明書と冒険者登録お願いします」
面倒になってヒルテが言った。
後で確認すればいい事なのだし、登録さえしておけば帝国内を自由に動ける。
ただ訳ありと察して不審に思ったのか受付嬢がそれも渋る。
「そう言えばラグーンでエルヴァさんが怒ってたっけ」
手続きが面倒になった理由に、母さんには心当たりがあったようだ。
ラグーンだけかと思ったが、人がやたらいるロドスでやると時間かかって大変になるだろうに、と僕は逆に感心した。
受付対応の人数を増やし、空いてる日や時間帯は休憩する事で英気を養っているようだ。
サンドラおばさんも、書類は同じなので僕らは困ってしまった。
「あっ、ならアリルがいるわ。多分ここで登録してるわ。わたしの義妹なの」
いや、いるかどうかわからないなら駄目だよ、母さん。
僕とヒルテは額に手をやる。
そもそも義妹っていっても信じてもらえないと思う。
何度も心の中で言うよ。
僕はともかく、二十歳のヒルテより若く見えるんだから。
「アリルって金級冒険者のアリルさんですか?今はロドスにいますが、身元の怪しい方と会わせるわけにはいきません」
金級に昇格したアリルさんは、ロドスでも有名な剣士になっていた。
僕が産まれたばかりの頃、お父さんが亡くなり妹のアリルさんは一人旅に出た。
母さんが何かやらかしたみたいだけど詳しくは知らない。
金級冒険者のアリル、二つ名が『不死者殺し』になっていた。




