第36回配信 クマさんフルボッコ配信 その6
「とりあえず。僕がクマを倒せばいいって事だね」
「本当にいるわね」
放置したはずのゴブプリは気づいたら白桜の隣にいた。そして全く話を理解していない。
さっきまともな事を言っていたのはなんだったんだ?
「だから言ったろ」
本当に何故かは分からんがこいつは気づくとそこにいるんだよ。
「一度ゴブプリを見たら30匹いると思えってやつだな」
真面目な顔で虎ちゃんが言う。
30匹のゴブプリ……想像しただけでカオスだ。
「いやよ。何そのGみたいな例え」
「実際Gだから間違いではないという…」
「G並の生命力があるのは事実だな」
話題の中心のゴブプリを見ると何故かドヤ顔をしている。こいつ絶対俺たちの話聞いてないよな。
白桜と虎ちゃんが絶対零度の視線を向けてるの理解してないんだろうな。
「とりあえず次狼に遭遇したら練習するか」
「はぁ、そうしましょう」
ため息を吐く白桜。正面からゴブプリの相手をすると疲れるぞ。
「雑魚をやってやるぜって思ってるとさ、ボスが出てくるってよくあるよな」
「そうだよな」
「今じゃなくていいのにね」
狼で練習だ!と移動していた俺たちの視線の先にクマくんが現れた。
今じゃないんだよなって3人で思ってたら竜子さんが見つけてやったのに何か文句あんのか?という感じの目で見てきた。
いや、竜子さんは何も悪くありませんよ。本当に。
「しかもあのクマなんだけど、私が知ってるクマより大きい気がするんだけど?」
「そうだな。あれはクマくんじゃなくてクマさんだな」
俺たちの視線の先にいるクマさんは以前俺が戦ったクマより二回り以上大きかった。
「ここに出るクマって本来はグラスランドベアだよな」
「そうね。私もそう聞いてるわ」
へぇ、ここにいるクマくんってそういう名前なんだな。知らなかった。
「あれは明らかに違うよな」
虎ちゃんがクマさんを指差す。
「あれがグラス何ちゃらかどうかは知らんけど俺が前に戦ったクマくんとはサイズが違うな」
「レアボスってことかしら」
白桜が頬に手を添えて首を傾げる。
自然とこういうポーズが取れるこいつはやっぱりRPガチ勢だ。俺には無理だ。幼女のRPとか絶対無理だ。あんな屈辱2度と味わうものか。
「狼で練習しようと思ったらボスを通り越してレアボス発見とかどんな確率なんだよ」
虎ちゃんが深く息を吐く。俺もそう思うよ。
「ところであのクマさんはなんて名前なんだ?」
草原のクマさんにしては随分と禍々しいんだが。明らかにイっちゃってる目とか、爪とか牙とかから滴る血とかさ。
「調べればすぐにわかるでしょうが。ちょっと待ってなさい。えっと……」
そう言って白桜が調べ始める。うん。調べるばすぐにわかるのは知ってる。だがその調べる行為が面倒になる時があるんだよ。言ったら怒られるから言わないけど。
「あったわ。ブラッディベアね。グラスランドベアより攻撃力と速度が高いわね。他は一緒ね」
白桜の説明に俺は衝撃を受けた。だって今の説明から導き出される答えは一つじゃないか。
「赤くて攻撃力と速度が高いって…それは大佐の専用機じゃないか」
「でもあれ角ついてないぞ」
虎ちゃんがクマさんの頭を指差す。確かにクマさんに角はついていない。
「つまりは旧型って事か」
Ⅱ型よりも旧型の方が好きだって人もいるからな。納得だ。
「クマ狩りを誘った俺が言うのもなんなんだが、俺は大佐に勝つ自信はないぞ」
何をしても全部避けられるイメージしかねぇ。
「それはそうだ。そもそも勝てる奴なんてほぼいないだろ」
虎ちゃんが腕を組んで頷く。
大佐に勝てるのは白い悪魔ぐらいだろ。俺たちには絶対無理だ。
これはあれだな。幸いにも向こうからは見つかってないみたいだからここは見なかった事にして別のクマくんを探すか。
「あれはそんなぶっ壊れ大佐じゃ無いわよ。ただの何処にでもいるレアボスよ」
何処にでもいるレアボスとは一体……。
しかし大佐じゃないならやりようはあるか。よしここは一発ぶちかますか。
「でも強敵なのは間違い無いから油断は禁物よ」
「それはクマな上にレアボスだからな」
虎ちゃんが頷く。
そうだった。あれは大佐ではないがレアクマさんだもんな。
何も考えずに突っ込めば間違いなくやられるな。
「じゃあ、戦う前にどうやっ……」
「レアボスとか燃えるじゃないか!」
作戦会議をしようとしたらゴブプリがいつもの発作を起こしたしまった。
棒っ子を振り翳して走っていってしまった。
「ちょっ…、バカ!!」
「またやりやがった!あの野郎!!」
ゴブプリの行動を見て2人が叫ぶ。いつもの事ではあるが毎回飽きずによくやるよな。
しかし今回のゴブプリの行動には気になることがある。
「あいつなんで騎獣に乗らないで走っていったんだ?」
俺たちの横にはゴブプリの騎獣がいる。
「そうね」
「人馬一体!!とか叫んでたのにな。思いっきり分離してるな」
3人でゴブプリの騎獣を見る。騎獣は「俺も知らねぇよ。勝手にあいつが突っ走って行ったんだ」と言いたそうに首を横に振っている。こいつ意外と頭良さそうだな。
「ホォウォォアアアアアァァア!!」
ゴブプリがクマさんに向かって奇声を発しながらバタバタと走っていく。あんな奇声を発して行ったら本来気づかないヤツも気づいてしまうだろうが。
「本当はどう叫ぼうとしてたんだろうなあいつ?」
どっからあんな声出してるだろう。
「とりゃああ!とかやあ!とかじゃないの?」
「本人はそのつもりでもあの叫び声はなぁ」
「アーカイブで見たときにイジってやろうぜ」
「「賛成」」
よい酒のつまみが出来たな。
案の定クマさんがゴブプリの存在に気づいた。気付く範囲はそんなに広くはないか。
クマさんはゴブプリを一瞥してゴブプリに向けて腕を払った。
「スマーッぶらべらゔぁー!!」
クマさんの手にダイレクトに当たってゴブプリが吹っ飛ばされた。
あの威力だと俺は確実に一撃死だな。
「軽く振るってあの威力か」
「かなり力はあるわね」
ゴブプリを使って相手の能力を確認すると思えばあいつのゴブリンムーブにも意味があるか。
吹っ飛ばされたゴブプリにクマさんが駆け寄る。そしてゴブプリを持ち上げて。
「あっ」
クマさんがゴブプリを頭から噛みついた。
そしてそのままゴブプリは光になって消えていった。
ゴブプリが死んだのを確認してクマさんはその場に座った。どうやら俺たちはまだエンカウント判定になっていないようだ。
「クマ、ゴブプリマルカジリ」
衝撃的な映像を見てしまったな。2人が見ちゃいけないものを見たて感じの表情にになってるし。
普通に衝撃映像だもんな。しかしだ。
「クマさんよ、ゴブプリ食ったら腹壊すぞ」
「あの衝撃映像を見て出た最初の発言がそれなの?」
それ以外何を言えと?ゴブプリぞ。あんなの食したら100%腹壊すぞ。
「まぁ、今の出来事は一回忘れよう」
虎ちゃんがゴブプリがいた場所を遠い目で見つめている。
「「賛成」」
3人で数回頭を振る。
よし。俺たちは今あった事は忘れた。
改めてクマさん対策を考えよう。
「最初に澪のアーツを使ってみるのはどう?」
「そうだな。最初にバカデカいのをぶっ放すのはアリだな」
2人は初手デッドエンドを考えているようだ。
「ダメだ」
2人は良いアイディアのように話しているが俺は否定する。
2人は俺が否定した事を理解出来ない表情で俺を見てくる。
「お前のあのアーツは使い所が難しいから初手で使うのが一番だろ」
「そうよ。あのタメ時間をどうにかするには相手が気付いていないタイミングから使うのが一番よ」
2人は俺を説得しようと初手で使用する重要性を説明してくれる。
「お前らの言いたいことをよく分かる。だがお前らは大事なことを忘れている」
2人の顔を見る。こいつらは重要なことを忘れている。
「初手もしくは序盤に必殺技を使用するとそれは必ず防がれる」
俺の発言に2人は驚愕の表情を浮かべる。思い出してくれたようだ。
全員が様々な物語で見てきたはずだ。序盤に主人公が必殺技を使った場合、その後に砂塵の中から無傷の敵が出てくるシーンを!!そうなったら大抵主人公サイドはボロ負けする。
2人とも無言になっている。どうやら俺の言ってる事に納得してくれたみたいだな。
ここは更に追い討ちを仕掛けるか。
「あと初手で必殺技は風情がない。必殺技っていうのはここぞという時に出してこそのモノだろう。だからそこに浪漫があるんだろ!!」
俺の熱い説得を聞いて2人が顔を見合わせている。
「まぁ、いいか」
「そうね。まず澪のやりたいようにやらせましょう。それでダメだったら初手で使わせましょう」
あれ?あんまり理解してない?
「とりあえずゴブプリが復活したらだな」
「そうね。また飛び出してったらどうする?」
ゴブプリ復活→突撃→死ぬ→ゴブプリ復活→(以降ループ)
あり得るなぁ。ゴブリンムーブ決めてくるだろうな。
「そん時はまた虎ちゃんに止めてもらおう」
俺と白桜で虎ちゃんを見て2人で頷く。
「はぁ、まぁそうでもしないと止まらないよな。そん時は俺が止めるか」
虎ちゃんがため息を吐きながら頭を掻く。頼むぞ。虎ちゃん。
「本当にどうしようもなかったらゴブプリはいないことにして3人でやりましょう」
白桜が最悪ゴブプリを捨てる事を提案する。
「まともな意見を言っても行動がまともじゃないからなぁ」
3人でため息を吐く。まずはゴブプリが復活するのを待つか。




