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第24回配信 イベントが終わってもゲームは続く

 視界が暗転する。数秒経って視界が戻ると冒険者ギルド前の広場にいた。イベントに参加したプレイヤー全員が来たのかな。スゴイ人数いるんだけど。一昔前のゲームなら処理落ちするなこれ。

 プレイヤーが冒険者ギルドの中に流れていく。ギルドに入れってことなんだろうな。でもこれギルドの中は今満員電車もびっくりの人口密度になってないか。そういう所はあまり行きたくないんだけど行かないといけないんだろうな。


 あっ、配信切れてるなこれ。アイコンなくなってる。イベント終わって強制終了的なやつか?まぁ、そういう仕様なんだろう。はい、これにて配信終了。

 それよりもだ。ちょっと確認しないといけないことがあるよな。

「最後に運営がぶっ込んできたけど。あれは何だ?」

 いきなりYOU、NPCと交流しなよみたいな事言われたけど。

「あれは何だってそのままでしょ。NPCともっと交流しなさいってことでしょ」

「何でまたこのタイミングなんだ?」

 周囲を見渡すが他のプレイヤーも騒ついてる。イベント終了後の興奮とはまた違った雰囲気だ。


「ん〜。私の予想でいいなら聞かせてあげるけど」

 随分と勿体ぶった言い方だな。

「あ〜。うん。俺も何となく予想がつくんだが」

 なに?虎ちゃんもだと。取り敢えず二人とも教えるんだ。


「虎紳士ちょっと向こうに行きましょう。そこで予想を教えて」

 白桜が虎ちゃんを手招きする。

「そうだな。俺もお前の予想が知りたい」

 虎ちゃんが白桜と共に少し離れた位置に移動する。

「えっ?何?なんで二人で行くんだ。ここで言えばいいだろ」

「まぁ、あなたはそこで待ってなさい」 

「そうだ。大人しく待っとけ」

 なんだよ。俺にも教えろよ。


「つまり……だから……」

「だろ。………やっぱり………」

 二人で話し合ってるな。何で時々こっちを見るんだ?


 二人は納得したのか戻ってきた。二人とも微妙な表情をしているのが気になるがそれよりもだ。

「さぁ、俺にも教えるんだ」

 二人だけで話すとかずるいぞ。あれか?俺も適当に予想して話に入れば良かったか。


「取り敢えず私たち二人の予想は同じだったわ」

 なんだと。一体どんな予想をしたんだお前たち。


「私たちの予想はね。澪………」

 なんだ随分溜めるな。いつからそんな勿体ぶるキャラになったんだお前は。


「あなたが原因よ」

「は?」

 お前はなにを言っているんだ?いや、虎ちゃん何でお前も頷いているんだ。


「分かってると思うけど、私たちはこのゲームを始めてそんなに時間は経っていないわ」

「そうだな」

 まだ1ヶ月経ってないもんな。


「そんな僅かな期間にあなたは何をしたかしら?」

 何をしたかだと?何したっけ?


「え〜、ゴブプリを処して姉御に鍛えてもらって。それからゴブプリを処して親方から装備を買って……。あ〜、後はゴブプリを処して狼くんと戦った事もあったな。熊くんに殺されて……ゴブプリを処したな。あ〜、某と余麻呂朕はキャラ濃いよな。ルピルピのマッスルラビッツもインパクトデカいよな」

 何があったか指折り数えてみる。うん。このゲームのプレイヤーって濃いのが多いな。薄味がいない。


「濃い人がいたり、随分とゴブプリを処しているけど。それは今回はどうでもいいのよ」

 あいつらはどうでも良くないだろ。あれを語らなかったら何を語るんだぐらいの衝撃はあっただろ。

「いいかしら澪。あなたの今までの行動だけどね」

 あっ、流すんですね。分かりました。


「誰も知らないアーツとかお店を知ってたのよ!これだけはとんでもない事なのよ!というか澪!あなた最後のあのおかしな威力のアーツは何よ!!あれは普通プレイヤーが使っちゃダメなやつでしょ!」

 いや、ダメと言われましても。教えてもらったんで使いました。

「極め付けは魔法使いギルド、神殿ギルド、騎士団といったギルドの情報よ!あれがプレイヤーに与えた衝撃をあなたは理解しているの!?」

 いや、衝撃言われましてもねぇ。そんなんがあるんだぐらいしか。

 そんなに興奮すると血圧上がるよ?肩で息してるし。


「お前はその情報を誰から入手した?」

 虎ちゃんが続きを言い始める。まぁ、白桜は興奮し過ぎて稼働停止状態だな。

「まぁ、姐御だな」

 大体姐御から教えてもらったよな。うん。姐御ありがとう。サンキュー姐御。フォーエバー姐御。出来れば特訓の時はもう少し手加減して欲しいです。


「俺らよりも先にプレイしてる奴らはたくさんいるだろ。だけど誰もお前が周りに流した情報を知ってたプレイヤーは誰もいなかったんだよ」

 そうだな。誰も知らなかったな。


「これの重大性がが分かってない顔だな。お前ゲーム結構やってるのになんで分からないんだよ?」

 なんで言われましても。なんでだ?

「そうだな。今の状況は例えばFPSとかで他のプレイヤーは武器が無くって全員チョップしかしてないんだよ。それなのにいきなりお前がそこにマシンガンやら火炎瓶やらを持って現れて暴れ回り始めたみたいな感じなんだよ」

「それはダメだ。みんなでチョップでキャッキャッウフフしてるところにそんな空気を読まない奴が現れるのはダメだ」

 そんなやつには俺がリアルに黄金銃をぶっ放してやろうか。遊びだからこそモラルは必要だ。

「マシンガンどころか今のあなたは黄金銃を持って暴れてるようなものよ」

 黄金銃はあかん。あれは一発で終わってしまうじゃないか。黄金銃のみ使用も面白いといえば面白いけど。

 いや、チョップ空間にいきなり黄金銃野郎が来たら大問題だな。そんな輩がいたらギルティだな。


「だけどだ。運営的には黄金銃含め武器をもっと使って欲しいんだよ」

 まぁ、本当なら色々使えた方が楽しいよな。

「問題なのは黄金銃の存在を知ったのに他のプレイヤーは武器を探さずにいまだにチョップしかしてないって現状なんだろうな」

「武器の使い方知ってて使わないのと武器の使い方が分からないで使わないのでは意味合いが大分変わるな」

 いきなり縛りルールで遊ぶのはちょっとな。縛りプレイも面白いが最初は自由に遊ぶ方が俺は好きだ。

「で、運営がお前ら武器の事知ったんだろ。いつまでもチョップしてないでいい加減武器使えやって思ったからさっきのコメントになったんじゃないのかって事だ」

 

 そ、それは………。

「それだと今回の運営のぶっ込みは俺が原因みたいじゃないか!!」

 俺はただ全力で趣味に走ってるだけだぞ。

「みたいじゃなくてあなたが原因だって言ってるのよ!」

「原因とは言わないまでも大きなきっかけのひとつだとは思うぞ」

 うおっ、白桜復活。復活したけどまだ興奮してるな。落ち着け。あまり興奮が激しいと作画が劇画タッチに変わるぞ。


 うん。これは一プレイヤーの俺にはどうしようもないな。よし。もう考えないようにしよう

「これからゲームの幅が拡がるってことだから問題ないよな」

 うん。そうだ。全く問題なし。ゲーム的にはむしろウエルカムだろ?


「結構な事を起こしてるのになんでこんな緩い感じなのかしら」

「むしろ何かが大きく動くって時はこういう奴が原因な事が多いんじゃないんだろうか」

「えぇ、きっとそうよね」

 何か二人で言ってるが俺は気にしないぞ。俺は悪くない。


「なぁ、そろそろあの処理落ちしてそうなギルドに入らないか?」

 さっきからスゴイ数のプレイヤーが中に入っていってるけど。

「入らないといけない……のよね」

「まぁ、入らないと先に進まないよな」

 二人がギルドに入るのを躊躇している。うん。その気持ちは分かるぞ。


「俺も入らないかとは言ったが普段だったらあの中に入るのは嫌だな」

 ギルドの中がどうなってるのか分からないが普通だったら人口密度過多で軽く死ねるな。

「人混みは嫌いなのよね」

「あれを人混みで済ませられるのか分からないがあれは俺も嫌だ」

「だからと言ってずっとここにいる訳にはいかないだろ。ほら行くぞ」

 二人を押していく。あぁ、サイズが違いすぎて押しにくいな。


「ちょ、ちょっと押さないでよ。自分で歩くわよ」

 押されて嫌だったようで白桜がギルドに向かって歩き始める。ちなみに虎ちゃんは押しても動かなかった。流石メインタンクだな。虎ちゃんはすぐに察してくれて今は普通に歩いています。


「本当に白桜は嫌そうだな」

 スッゴイ拒否感が全身から出てるし。よくここまで感情を全身で表せられるな。

「人が多い所って本当に嫌なのよ。なんでこんなに集まるのかしら意味がわからないわ」

「仕方がない。そんなお前にこの言葉をやろう」

「なに?碌でもないものだとは思うけど聞いてあげるわよ」

 失礼な。これは俺が尊敬する偉大な人物の言葉だ。

 

「この道を行けばどうなるものか。危ぶむな……」

「あなたそれよく言うわね。名言かもしれないけど何度も言うと効果薄れるわよ」

 おぉい!!最後まで言わせろよ。ここ大事!途中で邪魔しちゃいけないやつ!聞くって言って聞いてないじゃないか!!

 発言を邪魔されて思わず地団駄を踏む俺は悪くない。


「白桜。貴様今の行為は特撮やら魔女っ子やらの変身途中で殴るような暴挙ぞ」

 貴様の今の愚行許されるものではないぞ。


「確かに今のは白桜が悪いな」

 だよな虎ちゃん。俺の中の虎ちゃんの好感度が上がったぞ。

「でも澪の発言が今言うのに適切だったかは疑問があるけどな」

 なんだと?今言うのにピッタリじゃないのか?ここに疑問を呈する虎ちゃんの好感度ダウンです。


「まぁ、どうでもいいわ。行くと決めたらさっさと行きましょう」

 白桜が俺と虎ちゃんを無視して先に進み始める。

「聞いてあげると言ったけどあなたの望む反応をするとは言ってないわよ」

 な、なんという事を言う奴だ。お前ちゃんと聞いてないだろうが!

 虎ちゃんに白桜を指差して対応を促すが首を横に振るだけだった。

 覚えてろ。今度人の多い物産展に無理やり連れってってやるからな。そして色々買わせてやる。


「なぁ、ちょっと気になることがあるんだが言ってもいいか?」

 虎ちゃんが立ち止まる。

「どうした虎ちゃん?そんな急に改まって」

 虎ちゃんが周囲を見渡して頷く。

「ゴブプリいなくね?」

「「あっ!?」」

 ほ、本当だ。ゴブプリがいない。俺も周囲を見渡すがゴブゴブ言ってる奴がいない。白桜も周囲を見渡している。こいつもゴブプリの存在を忘れてたな。


「どうする?探すか?」

 いないと静かいいんだが、知らない所でとんでもない事してそうだからいないといないで心配になるという。

「その前になんでパーティ組んでるのにいないんだ?」

 確かに普通パーティ組んでたら一緒になるよな。実際に俺たちは一緒にいるもんな。

「パーティ情報確認したけどちゃんとゴブプリの名前はあるわね」


「ふむ、ゴブプリはパーティにいる。だけどここにはいない。これが示すことはつまり……」

 わかったぞ。この事態が何故起きたか。

「つまり、どういう事だ?」

 ふ、虎ちゃんは分からんか。ならば教えてやろう。

「今までは行動がバグだったゴブプリだったが、ついにゲーム上の正式なバグとなったんだ」

「「な、なんだってぇ!?」」 


 白桜も驚いているな。しかしこれ以外考えられないだろう。もう一度言おう。

「あいつは運営からも正式にバグとして認められたんだ!!」

「……………………」

「……………」 

「………」

 あまりの衝撃に二人とも黙っているな。うん。これはかなりの事だぞ。


「いや、2回も言わなくていいから」

 あれ?思ってたのと反応が違うぞ?そこはもう一度某出版社ミステリーレポート的な「な、なんだってぇ!?」の返しだろうが!

「なんか変な反応してるけど今のあなたは放置するわよ」

 白桜が額に手を当てて考え始める。考えるのは良いけど放置するとか凄い残酷な事言いおったぞ。このカマエルフ。


「虎紳士どう思う?」

「確かにあれはバグみたいな存在ではあるけど、流石になぁ」

「そうよね。じゃあ何であれはここにいないのかしらね?」

 白桜が虎ちゃんと話し始める。こやつ本当に俺を放置して話始めおったぞ。

 そしてゴブプリがあれ扱いされてるのが何とも。

 しかし、もしあいつが運営からバグ認定されたらこれからは何て呼ぼうか?バグプリ?ゴブバグ?

 プリンス要素よりもゴブリン要素の方が強いからゴブは外せないよな。また相談して決めるか?


「考えても分からないから取り敢えず予定通りにギルドに行きましょうか?」

 おっ?二人の話し合いが終わったか。本当に俺を放置しおってからに。

「あいつを探さなくて良いのか?」

 優しさに溢れる虎ちゃん。

「ここにいたとしてもまたすぐに暴走してどっかに行くんだから探さなくて良いでしょ。結果は同じだもの」

 残酷さに溢れる白桜。


「まぁ、確かにゴブプリがいてもいなくても結果は変わらないか」

 白桜の言葉に納得してしまう虎ちゃん。優しさ対残酷さ。この勝負は残酷さの勝利となります。

 はい。僕らはゴブプリを探さずに放置することにします!!


「本当に人混みって嫌なのよね」

 白桜が死んだ魚の目をしている。本当に嫌なんだな。まぁ、あの無限にプレイヤーを飲み込んでいくギルドに入るのは勇気がいるよな。本当に中どうなってるんだろ?

 他のプレイヤーの流れに乗る。


「まさに誘蛾灯に向かってく蛾状態だよな。俺たち」

 虎ちゃんがボソリと言う。

「ちょっと嫌な例えをしないでよ」

「本当に誘蛾灯みたいなもんだったら俺たちはこれからどんな目に遭うんだろうな?」

「碌な目には会わないわよ」

「違いない」

 だけど流れに乗ってギルドに向かう俺たち。だってそうしないと話が進まないからな。分かっていても止められないんだよ。


「おや?」

 冒険者ギルドに入ってすぐに違和感に気付いて立ち止まってしまう。

 あんなにプレイヤーが入っていたのにギルドの中は大混雑!みたいな感じにはなっていない。

「ちょっと澪。入り口で立ち止まったら他の人の迷惑になるわよ」

「ん?おぉう。すまんすまん」

 白桜に注意されすぐに歩き出す。


「なぁ、プレイヤー少なくないか?」

 二人に気づいた違和感について話してみる。

「そう言やそうだな。あの人数が入ったんだから普通なら中はとんでもない事になってるはずだよな」

 虎ちゃんがギルドの中を見渡して言う。

「そうね。普段よりも人はいるけど、それでもこの程度だものね」

 うん。やっぱり入ってった人数全員はいないよな。


「これはあれか。ゲーム特有の不思議空間か?」

 もしくはサーバー的なやつか?

「まぁ、そう考えるのが普通ね」

「本当に誘蛾灯で先に入ってった奴らがやられてたらどうする?」

 まだそのネタ引っ張るんか虎ちゃん。

「……………」

 ほら白桜が凄い嫌そうな顔で見てるぞ。

 人の流れは受付カウンターに向かってるな。受付でなんかするのか?まぁ、流れに乗って行くけどさ。


 受付カウンター周辺は人が多いな。さて、ここでなにがあるんだ?

 カウンターに近づくと姐御が集まってるプレイヤーたちを誘導しているのが見えた。

「おっ、澪達じゃないか。お疲れ様。ここでクエスト終了の手続きをしておくれ」

「おぉ、姐御。お疲れ様」

 姐御に向かって手を振って近づく。


「この人混みの中小さい澪を見つけるとか凄いな」

「えぇ、普通見つけられないわよ。隠れて見えないもの」

「あれが澪に色々教えてるNPC(姐御)だろ」

「そうね。確かリオって名前だったと思うけど」

「あぁ、騎士団の人に言われた街の中で絶対に逆らっちゃいけない人の中に入ってたな」

「奇遇ね。私も魔法使いギルドに同じ話を聞いたわ」

「その人を姐御呼ばわりか」


 二人が立ち止まって真剣な顔で何かを話している。人が増えたせいで周りがうるさくて何を話していたか聞こえなかったぞ。

 まぁ、いいや。真面目な顔してても中身のないくだらない事でも話してるんだろう。こいつらはそういう奴等だからな。今は姐御の所に行こう。

「お〜い、何話してるか知らんけど、行かないなら置いてくぞ」

 置いてく宣言をしたら二人が話すのを止める。

「お、おう」

「今行くわ」

 そして慌てて二人がやって来た。よし。それじゃ姐御の所に行こう。

 

「よし。来たね。じゃあ、こっちで手続きをするよ」

 ギルド内にはかなりの人数がいたが何故か姐御の周囲には人がいなかった。まぁ、移動が楽だったから別に良いんだけどさ。

 姐御って自分の周囲何mかにダメージを与えるみたいなオーラ持ってないよな?聞いたら「そんなの持ってるに決まってるだろ?」とか言われそうだから怖くて聞けんけどな。

「あれだファビュラスな人が某祭典に来た時とか人の集団が割れたとか言ってたけどこんな感じなのかな?」

「まぁ、結果的には同じ事だと思うわ」

 ファビュラスな姐御の誘導で周囲のプレイヤーが悉く道を譲ってくれたのですんなりとカウンターに着いてしまった。なんか順番飛ばしたみたいですまんな。

 プレイヤーのほとんどが姐御から目を背けてるのは何なんだろうな?


「で、手続きって俺は何をすれば…………」

 それを見つけた要因は姐御パワーで周囲から人がいなくなった事。俺がパーフェクト幼女であるために視点が低い事が大きかったのだろう。 

「どうした澪?」

 途中で発言を止めた俺を不思議に思ったのか虎ちゃんと白桜が近寄ってくる。こいつらからは見えなかったようだ。


「いや……、あれ」

 俺は目に入ったものを指差しそれだけを言うのが精一杯だった。

 それほど俺の目に入ったものは衝撃だった。

「「ん?はぁ?」」

 二人もそれを見て唖然とした表情をする。


 それはそうだよな。俺たちの視線の先には猿轡を噛まされ縄で縛られたプレイヤーの集団がいた。なんかウゴウゴ動いてるし。

 あっ、目があった。なんかウゴウゴが激しくなってるんだけど。ちょっ、集団で激しく動かれるキモさが青天井なんですけど。

「………………」

 言葉を失っても悪くないと思うんだ。

「あぁ、そいつらかい?」

 姐御の視線が鋭くなる。心なしか声が低い、というか気温低くなってないか?


「さっきの戦いで巫山戯た真似をしてくれた奴らさね」

 さっきの戦いで?

「あっ……」

 白桜が何かに気付いたようだ。何に気付いたんだ?

「あっ、あ、あ〜」

 続けて虎ちゃんも気付いた。ちょっと待って?本当に何があったの?


「澪。お前本当に気付いてないのか?」

 いや、だから何をよ。

「本当に澪って人の顔とか覚えるの苦手よね」

 白桜が残念な子を見るような目をしている。やめろ。そんな目で俺を見るな!


「……って顔?」

 顔ってなんだ?顔に何かあるのか?相変わらずウゴウゴ動いている集団の顔を見てみる。

「………………」

「……………………」

「………………………………」

「誰だ?」


 ウゴウゴが止まり、二人が崩れ落ちる。

「本当に分からないのか!?」

 虎ちゃんに詰め寄られる。

「いや、うん。分からん」


「澪。こいつらベガ立ちしてた奴らよ」

 白桜が額に手を当てている。

 ベガ立ち?ん?ベガ立ち?ベガ立ち………だと。

 ウゴウゴが激しくなる。成る程。このウゴウゴーズがあいつらか。我が尊厳の仇か。


「澪達は知ってるか。まぁ、街の重大な依頼を受けたにも関わらずに随分と舐めた真似をしてくれたからね。何でそんな事をしたのか。ちょっとお話をしないといけないだろ?」

 姐御の口角が三日月の様に上がる。これはあかんのではないだろうか? 姐御からのOHANASI。想像しただけで冷や汗が止まらない。

 姐御が冷めた目でウゴウゴーズを睨む。あれは人を見る目ではない。白桜がゴブリンムーブをしているゴブプリを見るのと同じ目だ。そしてそんな姐御に睨まれたウゴウゴーズは固まっている。


「澪とも関わりがあるみたいだけど。何か言いたいことあるかい?」

 こっちを見る目は普段通り……。いや、目の奥にはもの凄い怒りに燃えているぞ。

「言いたいことっていうか。姐御って街にいたんだよな。俺たちが何やってたか何で知ってるんだ?」

 そう、これはちょっとした疑問。何でイベントフィールドにいた俺たちの行動が分かるんだ?


「ん?今回の事は街にとっては存亡の危機にもなることだよ。神は私たちに討伐に行く事に対しては手を出すなとは言ったけど街を防衛するなとは言ってないからね。何かあったら私たちは街を守らなきゃいけない。そのためにはあんた達の状況は確認しておかないとダメだろ」

 うん。そう言われればそうだけど。どうやって見てたんだろ?不思議魔法道具的なやつか?


「お前達は街を防衛するという大事な依頼を受けたんだよ。分かるか?街を防衛するって事はそこにいる住民を丸ごと守るって事だ。そんな依頼なんだよ。受けたんなら命張るのが普通だろうが」

 姐御がウゴウゴーズの一人の顎を足であげて睨んでいる。睨まれてるプレイヤーはウゴウゴではなくガクブル状態になっている。お顔が真っ白から真っ青になってるな。


「そこで巫山戯た真似をするなんてのはこの街に対する裏切りだろう?なぁ、そうだよなぁ?」

 強烈な怒りが姐御を包んでいる。姐御の背後に般若のオーラが見える。そしてよく見ると周囲にいる何人かの冒険者達も似たような感じだ。おそらくNPCの冒険者だな。姐御には劣るけど周囲の冒険者もくっそ怖いんですけど。

 

「おい、何だあれ?」

「あれだよ。途中で初級エリアに行って混乱させて、最後の方で戻ってきて美味しいとこだけ持ってった集団がいただろ。あいつらがNPCに簀巻きにされて説教されてるみたいだ」

「あぁ、あの迷惑な奴らか。自業自得だな」

「そうだけど、周りのNPCかなり怖くないか?」

「あぁ、夏休みの宿題をギリギリまでしなかったのがバレた時の母ちゃん並みに怖いわ」

「あれ並みに怖いとかお前の母ちゃんどんだけだよ」

「言うな。あれは恐怖の権化だ」

 周りのプレイヤーも異常な雰囲気に気づいたのかざわつき始めたな。っていうかお前ら他のプレイヤーから見たら大分最悪な事をしてたんだな。


「同志達…すまんでござるよ」

「うおっ!?」

 急に隣に悲壮感漂う某が現れた。吃驚するから突然現れるな。


「と言うか何でお前は簀巻きになってウゴウゴしてないんだ?」

 俺からしたら某も有罪(ギルティ)なんだが。

「いや、何故と言われても某は本能の赴くままに行動しただけであって何も悪いことしてないでござるよ」


「……………」

 こいつは何を言っているんだ?某の言っている事が理解できないんだけど。

 えっ?某が何を聞いてくるでござるかみたいな反応何ですけど。何?俺が変んなの?


 ちょっと不安になるから白桜に確認しておこう。

「白桜。俺は某が何を言ってるか理解出来ないんだけど、お前理解出来るか?」

「何言ってるの理解出来る訳ないでしょ。あれは常人は理解しちゃいけない存在よ」

 うん。白桜も理解出来てないな。


「虎ちゃんは………」

「しっ、見ちゃいけません」

 虎ちゃんに聞こうとしたら目を手で覆われた。これはあれだな。奇行する変人から遠ざける親の行動だな。

 これは虎ちゃんも理解出来てないやつだな。


「ん?あぁ、そいつかい?そいつは自分の実力以下の所に参加したけど、それは冒険者の自己責任の範疇だから問題ないね」

 姐御が説明してくれるが問題ないんか。

「まぁ、そこで何もしなかったらシメる(教育)対象になってたけどこいつはしっかり働いていたからね。今回は何も言わないさ。今回はね」

 姐御が某を見る。今教育という言葉が違う意味に聞こえた気がしたが気のせいか?

 あっ、某がガクブルしてるからこれは間違いじゃないな。某今回は命拾いしたな。


「ん?なぁ、おい。あれってゴブプリじゃないか?」

 虎ちゃんがウゴウゴーズの一人を指差す。

「「あっ…」」

 一人ウゴブウゴブしてる奴がいる。

「ゴブプリだな」

「ゴブプリね」

 生きとったんか!?我ぇ!

 虎ちゃんが指差したのは所在不明になっていたゴブプリだった。まさか簀巻きになって現れるとは。

 いつも斬新な登場の仕方をするよな。きっと普通に現れることが出来ないんだろうな。


 俺たちが残念な目で見てるのに気付いたの様で何かゴブゴブ言い始めた。猿轡してるから何言ってるか分からんのよね。

「あまりにもなゴブリンムーブで遂に運営から鉄槌を受けたか」

「今回の所業は酷かったもんな」

「擁護出来ないわね」

「「「ゴブプリ有罪(ギルティ)」」」


「!!!!!!」

 ゴブプリの動きが激しくなっている。

「キモいな」

「人がする動きではないわね」

「さすゴブ」


「あぁ、これはね。私等の範疇だったら問題なかったんだけどね」

 姐御が若干困った表情で言う。

「私等?」

 どういうこっちゃ?

「まぁ、あれだよ。澪は冒険者ギルドに所属してるけどこいつは…………」


「失礼致しますわ」

 そんな声と共に大勢の人間が冒険者ギルドに入ってくる。

 ダルマティカを着たマッスル集団が来た。ダルマティカ着てるのに分かる筋肉量ってどんだけよ。祈りの代わりに筋トレでもやってるのか?

 しかしそれよりも目を引くのはそのマッスル集団の先頭に立つ女だ。


「失礼致しますわね。私そこの者を回収しに参りましたの」

 プラチナブロンドの美女だ。ダルマティカっぽい衣装着てるけど何故か体にフィットしててボディラインがばっちり見えるんですけど。ライダースーツ的なダルマティカか?フェロモン150%増し的な感じなんだが。とても全年齢のゲームでは出せない様な衣装を着てやがる。コンプライアンスはどこに行った?あれはジャンル分けするならけしからん系聖女やな。


「ねぇ黎。私貴方の事は比較的気に入っているのよ?」

 けしからん系聖女がゴブプリの前でしゃがんで視線を合わせる。一部のマニアからはご褒美と言われそうな状況だがなんか小刻みに震えてるな。どうしたんだ?ここからだとけしからん系聖女の顔が良く見えんからちょっと立ち位置を変えるか。

「それがあんな醜態を晒すなんて。私残念でしてよ」

 うわぁ、けしからん系聖女笑顔だけど目だけは極寒だ。普通に怖いわ。これは震えるな。そしてけしからん系聖女越しに見える周囲のマッスル僧侶団は逆に暑苦しいな。筋肉をピクつかせるのやめてもらっていいですか?


「でも大丈夫でしてよ。そんな貴方を私が一から教育し直して差し上げますから」

 教育とはどういう意味なんだろうか。ゴブプリが何か言ってるけど猿轡してるからさっぱり分からん。

「何か言いたい事でもあるのかしら」

 けしからん系聖女がマッスル僧侶団を見るとマッスル僧侶の一人が頷いてゴブプリの猿轡を外している。

 よくあれだけで理解出来たな。マッスル僧侶。


「その口にあったものは外してあげたわ。さぁ、貴方は私になにを語ってくれるのかしら?」

 ゴブプリの顎を触って軽く持ち上げている。仕草は色気たっぷりなのにな。狂気が見え隠れしてる気がするのは俺だけか?ゴブプリずっと震えてるけど何か喋れるか?

 

 震えるゴブプリの様子を見てけしからん系聖女が笑みを見せる。

「連れて行きなさい」

 けしからん系聖女が立ち上がって言うとマッスル僧侶団がゴブプリを担ぎ上げた。

 ゴブプリが全く抵抗してない。なされるがままだ。怖かったんだな。側から見てた俺も怖かったもん。当事者はもっと怖いだろうな。


「…………」

 ふぉっ?けしからん系聖女がこっちを見とる!

「貴方も来ますか?」

 いやいやいや。何よその急な勧誘は?俺にその狂気を孕んだ笑顔を見せるのやめてくれません!?


「あぁ、テリサ。悪いがその子は私の妹分だ。あんたにはやれないね」

 姐御がけしからん系聖女との間に入ってくれる。

「……………」

「………………」

 って二人でなにもの凄い視殺戦してるんですか!?

「これはあれか私のために争わないでって間に入るべきか?」

「本当にそれが出来たならお前は今日から勇者だ」

 虎ちゃんがやるのか?と目で訴えてくる。

「うん。言ってみただけだ。実際には出来んわ」

「それをこの状況で言えるだけでもすごいとは思うぞ」


 けしからん系聖女が視線を緩める。その瞬間周囲の緊張感も緩まった。

「そうですの。では仕方ないですわね。貴方も随分と楽しそうですのに」

 なに?楽しいってどう言う意味?

「手出すんじゃないよ」

 姐御が釘を刺してくれる。手を出すってどんな手が出てくるんですか?

「ではご機嫌よう」

 そう言ってけしからん系聖女はマッスル僧侶団を引き連れて帰って行った。ついでにゴブプリもバッチリ連れてかれた。


「……………」

「………………」

 周囲が沈黙に包まれている。まぁ、この状況でなにを言えばいいか分からんよね。


「あぁ、どこまで話したっけかね。そうそう、澪は冒険者ギルド所属だろう。だから今回のあんたの行動に対する判断は私たち冒険者ギルドが行う。だけどあいつは神殿ギルド所属だ。そうなるとあいつを判断するのは神殿ギルドになる訳だ」

 姐御が空気を変えるべく話してくれる。これは俺たちも話に乗るべきだな。白桜と虎ちゃんを見ると頷いている。


 白桜が考え込むように顎に手を当てる。

「つまりは澪を含めて私たちは問題なかったけどゴブプリは神殿ギルドの判断で有罪(ギルティ)となった訳ね」

「まぁ、そう言うことだね」

 姐御が頷いて同意する。ゴブプリ君は変な奴だったよ。恨むなら君の所属ギルドを恨みたまえ。


「ところで姐御あのけしからん系聖女はなんだ?」

「ちょっ、澪。けしからん系って」

「確かにあれはけしからん系だな」

 虎ちゃんも同意してくれる。あれはけしからん系聖女だ。

 

「あぁ、あれはテリサ。テリサ・アリアード。この街の神殿ギルドでも上の人間になるね。その聖女の実力はギルドの中でも断トツだね」

 姐御が真面目な表情で答えてくれる。

「あんな破廉恥な衣装なのに実力者なのか」

「破廉恥って澪。あなた歳誤魔化してないでしょうね」

 お前と同年齢だ白桜。


「あの衣装はテリサしか着てないね。というかテリサしか許されてないと言った方が正しいね」

 なるほど。あれは特殊例か。よかったあれが神殿ギルドのデフォルト衣装じゃなくて。あんな破廉恥なのがたくさんいたら世の風紀が乱れてしまうところだった。


「ちなみに周りにいた僧侶はテリサの親衛隊だね」

「「「親衛隊?」」」

 何それ?驚愕の事実なんですけど。

「聖女に親衛隊っているの?えっ?この世界の聖女ってアイドルみたいなものなのか?」

「まぁ、アイドルって偶像とも書くしな。あながち間違いではないんじゃいか?」

 偶像(アイドル)崇拝する宗教団体って怖くねぇか?


「なんであんなにマッスルなんだ?」

 全員がハリウッドに出てきそうな筋肉を標準装備してたけど。

「それはあいつ等の戦い方が理由さね」

 戦い方って力を貯めて殴る的なやつか。とても良い戦い方だよな。


「親衛隊が前に出てテリサが後方で回復する。これが基本的な戦い方なんだけどね」

 なんだけどねってそれ以上に何があるんすか?

「テリサの聖女の実力はとんでもなくってね。即死しなきゃすぐに前線に復帰出来るぐらいの回復魔法をバンバン使ってくるんだよ」

 安心しろ。致命傷だ!で普通に突っ込んでくるゾンビ行軍を地で行く集団って事か?そんなのギャグじゃなかったら恐怖以外の何ものでもないんだけど。


「これがどれくらい恐ろしい事かあんたらはしっかり分かってるみたいだね」

 姐御に言われて周りを見ると白桜と虎ちゃんも青い顔をしていた。

 視線が合うと二人とも頷いてくる。いや、本当に怖いよね。


「そんな集団にゴブプリは連れてかれたのね」

 白桜の言葉にハッとする。そうだったゴブプリはそんな恐怖の集団(ゾンビマッスル団)に連れてかれたのか。

 3人で頷き合いゴブプリが連れて行かれた方角に体を向ける。そして全員で合掌。

 ゴブプリ達者での。


「よし。これで問題は解決だな」

「えぇ、ゴブプリの事はこれでいいわね」

 ゴブプリ案件はこれにて終了となります。考えてもどうしようもないことは考えない事が一番だってばっちゃが言ってたしな。俺たちは未来に向かって進むぜ!


「あんたらあれは仲間なんだろ?」

 姐御が心配するような目でこちらを見てくる。

「いや、まぁ仲間…か?」

「一応そうなるかしら?」

「分類上はそうだな」

 うん。俺たちのゴブプリの分類はこんな感じだよな。


「あれを見て心配じゃないのかい?」

 心配と言われましても。

「現状何も問題はないよな」

「ないわね」

「ないな」

 ゴブプリが連行された事で困ることはないな。

「でもあれだな。連れてかれたゴブプリが変な性癖に目覚められたら困るな」

 あぁ、それは確かに困るやつだ!虎ちゃんナイス指摘。

「今でさえ手遅れだっていうのにこれ以上変な状況になるのはちょっと……」

 いろんなパターンのゴブプリに進化する可能性がある訳か。3種類のゴブプリから1体選ぶのとは訳が違うな。 

 ちょっと色んなゴブプリがいるのを想像したら眩暈が……。

 3人で想像したら空気が重くなってしまった。なんでゴブプリ如きでこんな空気にならなきゃいけないんだおい?


「はっ!!」

 そうか、根本的な事があった!

「どうしたの澪?」

「色んなゴブプリを想像して頭がおかしくなったか?」

 二人がこちらを見ている。こいつ等はまだわかっていないようだ。こいつ等にも早く気づかせてやらないと。


「確かにこれから色んなゴブプリの派生が出てくるかもしれない」

 二人に理解してもらえるようにゆっくりと説明する。二人とも俺の話を頷きながら聞いてくれている。

「でも所詮はゴブプリだ。多少属性が増えたところで俺たちのあいつへの対応が何か変わるのか?何も変わらないだろ?」

 俺の説明を聞いて二人とも目を見開く。そして納得したように頷き始める。

「確かにそうね」

「結局はゴブプリだもんな」

 そう結局はゴブプリなんだよ。

「つまり、あいつがどんな性癖に目覚めても対処方は変わらない。現状と何も変わらないって事だ」

 

 3人で今のゴブプリの状況を確認する。

「問題はあるかもしれないけど心配することではないわね」

「心配してもどうしようもないしな」

 はい。意見一致しました。

「うん。姐御。心配ではないわ」

 姐御に問題はあるけど問題はない事を伝える。


 俺たちの行動を見て姐御が苦笑している。

「それで良いのかい?」

 そう言われても結局はゴブプリだしな。これ以上やる事はないしな。うん。


「まぁ、あんたらがそれで良いなら良いさね。さて…」

 和やかな雰囲気から一転。姐御の纏う空気が変わる。

「こっちの奴らも処理しないとね」

 姐御がウゴウゴーズを睨む。周囲のNPC冒険者も睨んでいる。これは無事には帰れないやつだな。

 姐御がNPC冒険者に視線を送るとNPC冒険者達がウゴウゴーズを担ぎ始めた。


「姐御?こいつ等どうするんだ」

 どんな処理をされるのかちょっと気になるんですけど。

「こいつ等には冒険者とはどういうものなのかを理解してももらわないといけないからね。理解しやすいようにうちのギルドの熟練者(ベテラン)にもちょっと協力してもらうのさ」

 あ〜、これは肉体言語的なやつも含まれるんだろうな。

 周囲のプレイヤーがウゴウゴーズに憐憫の眼差しを向けている。


「澪。悪いけどあんたの頼みでもこれはやめられないよ」

 うん?別に俺はこいつ等が処される事に対して何も思ってないぞ。むしろ推進派です。

 姐御の発言を聞いてウゴウゴーズも何か期待してような目で見てるし。

 何に期待してるんだよお前等は。

「いや、止めようとは思ってないから」

 俺はウゴウゴーズが処されるのを止める気は全くない事をはっきり伝える。それを聞いたウゴウゴーズが驚愕に目を見開いている。

 いや、お前等は俺の尊厳の仇なんだから、なんで俺が庇わなきゃいけないんだよ。


 お前達が俺に何をしたのかよく理解しいないみたいだな。

「姐御。こいつ等に一言だけ伝えも良いか?」

「ん?止めないんだったらそれぐらいなら良いよ」

 ウゴウゴーズがこちらを見ている。何かを期待するような目をしているがきっとお前等の期待通りにはならんぞ。


 ウゴウゴーズに近づきしゃがんで視線を合わせる。なんかキラキラした目をしててムカつくんですけど。

 まぁ、いいや。お前等の未来は決まってるいる。

メメント・モリ(死を想え)

 俺の言葉を聞いてウゴウゴーズが絶望の表情を浮かべる。よろしい。意味は分かるみたいだな。

 俺の尊厳の死並みの苦痛をお前等も受けると良い。

 俺の発言を聞いて姐御が悪い笑みを浮かべ頷く。

「連れて行きな」

 姐御がそう言うとウゴウゴーズが屈強なNPC冒険者(強面筋肉)に様々な方法で担がれる。

 ………担がれるって言って良いのかあれ?


「持ち方が酷いな……」

 虎ちゃんがボソッと言う。

「ゴミでももっと大事に持つわね」

 俺もそう思う。だってNPC冒険者(腕力でものをいう輩)はウゴウゴーズを襟首もって引き摺っていたり、足首を掴んで吊るされた感じでだったりと。うん。人の持ち方ではないな。

 やり方にNPC(街に住む者)の怒りを感じる。いいぞ、もっとやれ。

 そして奥の訓練所に連れて行かれた。


「ゴブプリも良い未来が見えなかったけど、彼らの未来も悲惨なものになりそうね」

「むしろ悲惨なものになってしまえと俺は思う訳ですよ」

 俺の尊厳分は死ねば良いと思う。


「さて、あんた達は食堂の方に行ってもらうよ。今回の報酬ってことで街の奴らが旨い飯を振舞ってくれてるよ」

 おおぅ。UMAI MESIとな。大変素晴らしい響きだ。

「そういえばこのゲーム(世界)での食事ってどうなのかしら?」

「確かに食った事はなかったな」

 二人が考えるように首を傾げている

「なんだ?お前等は食べた事なかったのか」

 白桜なんて色々体験してそうだから食べてないことにちょっと驚きだ。


「そう言う澪は食べた事あるの?」

「おぅ。前に姐御にクッキー貰ったのを食べたぞ」

 あの缶入りのやつ。田舎のばあちゃん家に置いてそうなやつ。

「お前本当に色んな所で凄いことやってるな」

 ん?凄いことって何だ?クッキー美味しかったぞ。


「NPCにものを貰うってあるのか?」

「聞いたことないわよ。普通に考えて貰えるとしてもそのNPCの好感度がよっぽど高くないと無理でしょ」

「そうだよな。こいつ一人の時にどんな行動したらこんな事になるんだ?」

「分かったら止めてるわよ」

()の教育はお母さんに任せてるだろ」

「あら?そんな事言うならゴブプリ(愚息)の面倒はお父さんに全て任せるわよ?」

「いや、本当にすまんかった。あれの面倒を一人で見るのは無理だ」

「二人とも一人で面倒を見るのは無理よね」

「そうだな。俺たちがしっかりしないといけないんだよな」

「この子もゴブプリも行動が斜め上すぎるのよね」

「本当にな方向性は違うけど斜め上なのは同じなんだよな」

 二人して小声で何言ってるんだ。そして俺を見てため息を吐くな。良いこと言ってないだろお前達。


「ほら。行くよ」

 姐御が促して食堂に向かう

「はいはい〜」

 姐御の後ろについて食堂に向かう。二人も首を振ってからついて来る。なんか二人とも諦めたような表情をしているのがムカつくのは何故だろう?


 食堂に入ると凄い数の冒険者がいた。

「すっごい数だけど、これ全員プレイヤーか?」

 各テーブルにプレイヤーが座っている。座っている人数が違うのはきっとテーブルがパーティ単位で準備されてるからなんだろうな。カウンターもあってそこに座ってるプレイヤーはきっとソロなんだろうな。

「プレイヤーの数もそうだけど、こんな広いスペース普通無理よね」

 確かに。白桜が指摘するように建物の外観からしてこんなスペースは普通作れないな

「これはあれだ。ゲーム特有の不思議空間ってことだな」 

 虎ちゃん良い事言った。ゲームなんだそんな細いことはいいんだよの精神は大事だ。


「ほら、あんた達の席はここさね」

 姐御に案内されたテーブルにはすでに料理が所狭しと並べられていた。

 これは見ただけでUMAI MESIなのが分かるぞ。


 テーブルには席が4つある。俺たちは今3人だつまり残りの1個は。

「これは余った席にゴブプリの遺影でも置いておけば良いか?」

 あいつのSS(スクリーンショット)あったかな?

「そうだな。とりあえずなんか置いておくか」

「虎ちゃん良いSS(スクリーンショット)ある?」

「何時のだか忘れたがゴブプリがアホ面してるのなら幾つかあるな」

「よし。それを適当に置いておこう」

「時間で映像が変わるようにしておくか」

 虎ちゃんに余った席にゴブプリのSS(輝ける瞬間)を置いてもらう。これでよし。

 3人で席に座る。


「職員に言えば好きなだけ料理を食べられるから遠慮はしなくていいよ。酒もあるから好きに注文しな」

「酒もあるのか!?」

「それは良いな。こっちの酒ってどうなんだろうな?」

「これは飲むしかないわね」 

 こっちで酒は飲んだ事ないから興味深々ですよ。


「待ちな。澪。あんた酒を飲もうっていうのかい?」

 姐御が若干ドスの聞いた声で聞いてくる。

「えっ?いや、飲む…けど」

 何?なんか悪いことした?


「あんたみたいな子供が酒飲んで良い訳ないだろうが」

 姐御が真剣な表情で言う。

「いや、姐御。俺はこんな形だけどちゃんとお酒が飲める年で…」

「他の世界のことは知らないけど、こっちではあんたはまだ子供だ。酒は飲ませないよ」

 まさかの禁酒宣言!?えっ?マジで?


「あんた等も澪に酒を飲ませるんじゃないよ」

 姐御が二人に凄む。二人が青い顔をして多量に汗をかいている。

「「はい。了解であります!!」」

 なんか凄い良い返事してるんですけど。裏切りおったな貴様等!!

 

「よし。節度ある範囲であれば何も言うことはないよ」

 姐御がいい笑顔です。そんなに俺に飲ませたくないのか。

「それじゃ、楽しんでおくれよ。私はさっきの奴らに教育してこないといけないからね」

 姐御の笑顔の質が変わる。同じ表情でも見える感情って大きく変わることがあるよね。

「「「はい。行ってらっしゃい」」」

 姐御が手を振って去っていった。


 姐御が見えなくなったのを確認して二人を見る。

「貴様等裏切りおったな」 

「いや、あの状態のリオさんに反論なんて出来る訳ないだろ」

 いや、してくれよ。白桜も頷いてるし。


「まぁ、今日は澪は禁酒ね」

「恨むなら幼女のアバターを作った自分を恨め」

 くっ、まさか幼女にこんなデメリットがあるとは。

「しかし俺は幼女を止める気はないぞ」

 この姿は俺のポリシーだ!!

「言葉だけ聞いたらど変態ね」

 うるさいわ。お前だって釜エルフじゃないか

 

「澪ってそんなに酒飲めないだろ。別に飲めなくても大して困らないんじゃないのか」

「飲まないのと飲めないのは大きく違うんだよ」

 ちょっとぐらいなら飲みたいじゃないか。


「まぁ、今更言ったところでどうにもならないわよ。それよりも折角なんだから料理も食べてみましょう」

「くっ、確かに料理も気になる」

 酒も気になるが目の前の料理も気になる。今は食べることに集中するか。


「あっ、すみません。ビール下さい」

「私は赤ワインで」

 二人が近くを歩いていた職員に酒を注文している。これはあれだ俺も注文すればいけるんじゃないか?自然な形で言うのがポイントだ。

「俺は杏露酒で」


 あれ?なんか3人から無言で見つめられてるんですけど。

「リオさんからダメって言われてますよね。お酒はあげられませんよ。はい、ジュースをあげますよ」

 職員の姉ちゃんからジュースを渡された。うん。これはオレンジジュースだな。

「澪。流石に無理だろ」

「諦めなさいよ」

 普通に止められてしまった。


 注文してすぐに二人に飲み物が渡される。

「じゃあ、イベントお疲れさんでした」

「「お疲れさんでした」」


「おっ、ちゃんとビールしてるな」

「ワインもしっかりしてるわね」

 くそぅ、旨そうに飲むじゃねぇか。ちなみにオレンジジュースは果汁30%ぐらいのやつの味がした。

 大丈夫だ。まだチャンスはある。俺は酒を飲むぞ!


 結局色々な手を使って酒を飲もうとしたが他のプレイヤーにさえも止められ飲めなかった。その間ずっと二人はその様子を見ながら旨そうに酒を飲み続けやがった。覚えてろよ。 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 真面目に攻略に参加してなかった連中が軒並みペナルティ食らっていた事。 まぁ、ゲームなんだからペナルティ上等で変な事するのは自由だと思うんですが、レイド戦で他の人に迷惑かけるのはダメだと思い…
[一言] イベント終了後、ゴブプリはシステムから正式にゴブリンプリンセスと認識されて、ゴブリンの巣穴にリポップすると思ってましたw
[良い点] お帰りなさい! [一言] ゴブプリは出荷された( ˘ω˘ )
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