第23回配信 イベント ゴブリン王の帰還 ⑥
パパンを倒した事で俺の初イベントが終了した。決して無事とは言えない。俺はこのイベントで失ったものは大きい。
だがしかぁし!!今からわくわくドキドキの報酬タイムだ。ゴラァぁ!!これによっては俺は救われる可能性がまだあるかもしれない!
「澪。気合を入れてる所悪いけど、いつまでそれ続けるの?流石に絵的にどうかと思うのよ?」
白桜が俺の足元を見て言う。表情が引き攣っているけど。俺の足元がどうしたって?
「あっ…」
足元を見たら白桜が言っていることが理解できた。知らず知らずのうちに足元に倒れているゴブプリ(の顔面)を踏みつけていたらしい。
「流石にずっと幼女が見た目だけは爽やか王子の顔面を踏みつけてるのはどうかと思うぞ」
まぁ、見た目は虎ちゃんの言う通りだな。しかしこいつは見た目は爽やか王子だが中身はゴブリンぞ。俺の尊厳を奪った原因の一つと同種族じゃないか。もっと分からせた方がいいと思うんだ。
「それにこれ以上続けるとあなた更に傷を負うことになるわよ」
ん?どう言うことだ?
「コメント見てみなさい」
コメントがなんだって言うんだ?
『澪ちゃんに踏まれるご褒美があるんですか?』
『お兄ちゃん呼びを超えるご褒美なんだが』
『あの冷めた目で見て欲しい』
『いや、流石にそこまで性癖拗らせるのはどうなんだ?』
『俺ゴブリンになろうかな』
『人間を止めるのは勇気がいるがあのご褒美が貰えるなら一考の余地はあるのか』
『俺は人間をやめるぞ!』
はい。すぐにゴブプリから退きます。これは良くない流れだ。すぐにやめよう。いじめよくない。
「一人石仮面被りそうな奴がいたな」
「勝手に人間やめてどうぞ」
究極生物の餌にされてしまえばいいんだ。
「貴方たちしっかりとやってるんでしょうね?これで失敗でもしたら社会的にも人をやめさせてやるわよ」
『不味い!白桜軍曹がお怒りだ』
『急げ!野郎ども!ここで失敗すると俺たちの明日がない!!』
『白桜軍曹の逆鱗に触れるな!!』
「そう言う事を言うのね。それがお望みならその通りにやるわよ?ウジ虫ども」
白桜が真っ黒な笑みを浮かべている。不味い。白桜の新たな性癖の扉が開かれるぞ!!
「白桜があれ系の軍曹だったら持ってるのは鞭だよな」
「あぁ、絶対競馬とかで使う短鞭だろうな」
虎ちゃんが頷きながら言う。想像してみると物凄いハマり役な気がする。
「まぁ、コメントは取り敢えず置いておこうや。おい。ゴブプリ起きろ」
「そうね。ウジ虫どもの調教は後日でも出来るからね」
あぁ、白桜完全にロックしたな。これはダメだな。うん、コメント諸君さらばだ。君たちの明日は暗い。新たな扉が開かないことを願う。
虎ちゃんがゴブプリに手を貸して起こす。優しいな。俺だったら蹴って起こすけど。
「いやぁ、すまないね虎紳士」
起き上がって髪をかき上げるゴブプリ。頬に俺の靴跡が残ってるから格好がつかないけど黙っておこう。他の二人も黙ってるし。しかしこのゲームって細かい所まで表現されるんだな。この業界の技術も進歩してるな。
「最後は油断したけど上手く討伐出来てよかったよ」
最後は油断?終始ゴブリンムーブかましてた奴が何を言ってるんだ?
ほら、二人とも俺と同じ考えみたいだぞ。ゴブプリを奇怪なものを見るような目で見てるぞ。まぁ、奇怪なものであることは間違いないけどな。
「ところで僕の活躍は見てくれたかな?僕と某君がゴブリンたちを華麗に倒していく様を」
こいつ俺たちを見てないのか?この状況で言うことが自分の活躍の確認か。こいつは行動だけでなくメンタルもゴブリン級だな。
しかし、活躍ねぇ。こいつ一人で突っ走って逝ってただけだよな。ゴブリンムーブという観点からみれば活躍の場しかなかったとは思うんだけどさ。
虎ちゃんは腕組んでそれを見上げてるな。白桜は頤に手を当てて俯いている。ポーズは違うが二人とも何かゴブプリが活躍したことがあったかを考えているのが分かる。
俺?俺は考えてないよ。ゴブプリが真っ当な活躍をするわけがないじゃないか。そんなあり得ないことを考えるなんて時間の無駄だ。
「君たち何を黙ってるんだ。僕の活躍なんて沢山あっただろ?」
いや、沢山って言われても。一つも思い浮かばないんだが。
「虎ちゃんなんかあるか」
「いや、何も思い浮かばん」
「そうだ。あれゴブプリ弾とかどうだ?」
「あれはゴブプリが人様に迷惑をかけた結果の産物だからダメだろ」
確かに。あれはダメだな。ゴブリンムーブとしたら一級品なんだけどな。
「白桜。お前はなんかないのか?」
「私に振らないで。今回ゴブプリは活躍してないでしょ」
はい。一刀両断いただきました。
「コメント諸君は何かあるか?」
『…………………』
『…………………』
『…………………』
『…………………』
「黙るなや」
しかもご丁寧に………って入力するなし。
うん。これはあれだ。ゴブプリは活躍しなかったという事でいいな。
白桜と虎ちゃんを見てみると二人とも頷いてるな。
これははっきり介錯してやった方がいいな。
「ゴブプリ。よく聞け」
「おぉ、澪。僕の活躍を思い出してくれたかい。さぁ、僕の活躍を讃えてくれたまえ!!」
ゴブプリがキラキラした目でこっちを見つめる。なんでこんな承認欲求の塊みたいになってんだこいつ?現実ではまだマトモなのに。
そして今更だけどゴブプリ呼び受け入れたのな。これでお前は立派なゴブリンだ!YOU ARE GOBLINだ!!
「これは俺たちの総意だと思ってくれ」
虎ちゃんと白桜の二人を見る。二人とも頷いて首を掻っ切るジェスチャーをする。
よし。では介錯してやろう。ゴブプリ恨むならお前のゴブリンムーブを恨め。
「お前は全っっっく活躍なんてしていない」
「えっ?」
ゴブプリがポカンとした顔をしている。あれ?ストレートに介錯してやったつもりだったが理解できなかったか?峰打ちにしたつもりはないんだが。ならば仕方がない。
「いや、だからお前活躍なんてしてないから。やってることはゴブリンムーブばっかりだったろ。人様に迷惑かけて白桜からガチ説教されたのによく自分の活躍なんて人に聞けたな。なんなの?馬鹿なの?死ぬの?あぁ、人としては死んでたな。ゴブリンだもんな。すまん。この発言は俺が悪かった。お前はゴブリンだもんな。やーい。お前の父ちゃんイベントの討伐対象」
「澪ストップ。もうやめてあげて」
虎ちゃんがタオルを投げてくる。
「流石にもうやめて上げてゴブプリのHPはもうゼロよ」
ゴブプリを見てみると枯れ木みたいになっている。仕方がないな。
バトルアックスを構える。
「ちょ、ちょっと澪?何をしようとしているの?」
白桜が表情を引き攣らせながら聞いてくる。何をしようとって決まってるじゃないか。
「いや、枯れ木になってるからウッドブレイカーで伐採してやろうかと」
「メンタルとフィジカルも流石にやめて差し上げろ」
虎ちゃんから止められてしまった。
「どうせFF出来ないんだから大丈夫だって。先っぽだけだから。ポーションで流せば大丈夫だから」
「その発言は色々アウトだからやめておきなさい」
ちっ、本気のトーンで注意されてしまった。
「おい、ゴブプリ。そういうことだからお前は活躍はしてないからな」
「しっかりとどめ刺すなよ」
とどめは念入りに刺す方です。よろしくお願いします。
「おっ?」
目の前が光り始める。周囲を見るとプレイヤー全員の前が光っている。つまりこれは。
「お約束の報酬タイムだ!!」
光が消えると目の前には宝箱があった。見た目は古き良き宝箱って感じだな。
「報酬だよ!さぁ、宝箱を開けようじゃないか!!」
ゴブプリが復活したな。特殊能力で復活速度UPとか持ってるんじゃないのかこいつ。
いいや。今はゴブプリよりも報酬が大事だ。
「この宝箱を開ける快感が堪らないぜ!!」
まぁ、今まで宝箱なんて開けたことないんですけどね。
宝箱を開けると中には色々なものが入っていた。
「一つじゃなくて詰め合わせセットとはお得感満載だな」
では一つずつ確認しようじゃないか。
「まずはこちらから」
取り出してみたるはこちら!!
【ゴブリンの折れた剣】
OK。OK。まだ慌てるような時間じゃない。最初はジャブさ。これからが本番だ!
【ゴブリンの破れた盾】
まだだ!まだ終わらんよ!!
【ゴブリンの汚れた腰布】
……………………
【ゴブリンの汚れt………】
【ゴブリンの………】
【ゴブr………】
「フォブゥオ?!」
宝箱ごと思いっきりゴブプリに投げつけてやった。宝箱は綺麗にゴブプリの顔面に当たった。
なんだこのなりきりゴブリン詰め合わせセットは!!流行らねぇよこんなもん!!
いらねぇよ。なんだよ、あのボロい折れた剣と貧村の鍋蓋みたいな盾、牛乳雑巾みたいな布きれとか!使い道なんてねぇよ!イベント報酬?アイテムボックスの肥やしっていうか本当に肥やしを寄越しやがった!
この恨みは忘れんぞ。許さんぞ、運営ェェ。
「これが報酬って………」
「初級だからってこともあるのかしらね」
「まぁ、初級の報酬は基本しょっぱいけど。これはいくらなんでもなぁ……」
「それにしても澪が投げた宝箱がゴブプリに当たったわね」
「宝箱って投げられるんだな」
「普通投げないわよね。まぁ、それもあるけどね。私が気になるのはこのゲームのFF判定よ。どう言う基準なのか謎だわ」
「まぁ、確かによく分からんな」
二人が何か言ってるがそれどころではない。俺の尊厳を生贄に捧げて出たのがゴブリン装備って……。あぁ、ダメだ。思い出したら凹んできた。
チクショウ、俺の尊厳返せよ!返せよぉ……。
確認したら投げつけたゴブリン装備一式はしっかりアイテムボックスに入ってたさ。もう一度投げてやろうか。
「澪。凹んでるわね」
「すっごい凹んでるな」
「虎紳士。あなたフォローして上げなさいよ」
「えっ?俺が!?」
「だって一応私は澪の尊厳を殺した原因でもあるし。私がフォローするのはちょっとおかしいでしょ」
「その自覚はあるのな」
「まぁ、一応はね。で、あなたじゃなかったらゴブプリがやることになるけど。あなたあれに任せられる?」
ゴブプリは澪に投げつけられた宝箱の下敷きになってピクついている。
「…………俺がやるしかないか」
「お願いね。大丈夫。あなたが行ったら私も行くから」
「絶対だぞ。一人であれのフォローは面倒だ」
「無理とは言わないのね」
「まぁ、澪だしな。じゃあ行くか」
「よろしくね」
「まぁ、澪元気出せよ。お前なら大丈夫だ」
虎ちゃんが近づいて肩を叩く。
「雑な慰めはいらねぇよ。俺なら大丈夫ってなんだよ。大丈夫じゃねぇよ」
俺の尊厳はもう帰ってこないんだ。
「あぁ…、うん。ドンマイ?」
疑問形で言うな!
「くそぅ。強い心が欲しい。勢いに流されない鋼のような精神が」
上司が任意と言う名の強制参加をさせてくる現場ではクソの役にも立たないキャリアアップ研修(自費、休日参加)を毅然と拒否できるような最強のメンタルが欲しい。
「イベントの報酬は正直がっかりだったわね。みんな変な報酬みたいだから初級エリアだからなのかもしれないわね」
白桜もやってくる。正直がっかりだと?そのがっかりのために俺の尊厳が…。
貴様がっ、貴様がぁぁ……!
「そんな血の涙を流しそうな表情をされても困るわよ」
ぐぬぬぬ、許さぬぞ。許さぬぞぉ。
「はぁ、今度スイーツ買ってくるからそれで許して」
ん?スイーツだと!?それはあれだよな。
「駅前のやつだぞ!勿論季節限定のやつだよな?ホールじゃないとダメだぞ!」
俺に献上するならば一流の品でなければダメだぞ。
「分かったわよ。はぁ。全く痛い出費ね」
白桜が額に手を当てているがしっかりと頷く。むふぅ。ならば許そう。ホールで諭吉先生が飛んでいくあのスイーツならばよし。
「一気に機嫌が良くなったな」
「本当にね。これが見た目通りなら可愛いって思えるのにね」
「中身の話は無しじゃなかったのか?」
「そうなんだけど。流石にこれはねぇ」
ヒャッホー!久しぶりのホールだぜ!これは小踊りしてしまっても仕方がないというもの!
「本来ならチョロインとか言われるんだろうな」
「実際はチョロインじゃなくて詐欺に騙されて身包み剥がされそうな馬鹿なおっさんだしね」
「……そうだけど、随分辛辣に言うな」
なんか二人で話してるな。
「どうした不景気そうな顔をして?他人の金で食うスイーツは美味いぞ!あぁ、白桜の金だったか!!まぁ、でも美味いことには変わりないからな!!」
明日はスイーツ祭りじゃあ!!
「…………一発殴ってやろうかしら」
「落ち着け。今回はお前の要因が大きすぎる。しかも自分から奢るって言ったんだから受け入れろ。そうじゃないと後で余計に面倒になるぞ」
「はぁ、そうなのよね。分かってる、分かってるわよ」
「なら良かった」
〈全エリアでのイベントが終了しました〉
おっ、全部終わったか。
〈初級エリアSランククリア〉
まぁ、パパン倒したしな。街への被害もなかったしな。
〈中級エリアSランククリア〉
〈上級エリアSランククリア〉
うん。ちゃんと他もクリア出来たみたいだな。これでダメだったら白桜がブチ切れるけど、その前に俺の尊厳が一度死んだんだ。ダメだったら白桜の前に俺がブチ切れたけどな。
〈トータルイベントクリアランクSを達成しました。一部プレイヤーを除きプレイヤーに対するNPCの好感度が上昇します〉
「NPCの好感度が上がるねぇ。これが今回の報酬か?」
物じゃないんか。NPCの好感度プライスレス。
「そうみたいね。まさか好感度とはね」
ん?白桜は知らんかったんか。
「全体のクリアランクで報酬が変わるのは知ってたけど何が報酬かは知らなかったわよ。どこにも書いてなかったもの」
なるほど。ん?待て、という事はこいつはよく分からん報酬のために俺の尊厳を売ったのか?
ぐぬぬぬぬ、本来であればこれはホール一つでは足りぬぞ。
〈NPCの好感度を上げることによってこの世界の謎に近づきます。よりこの世界を満喫するために積極的にNPCとの交流をオススメします〉
は?おい。いきなりとんでもない事ぶち込んできたぞ。白桜もキョトン顔になってるぞ。
〈これにてイベントを終了します。イベントフィールドから冒険者ギルドに移動します。イベントの参加ありがとうございました〉
おぉい!?もうちょっとさっきの事説明しようか?そして無機質音声でありがとうございますとか言うな。全然嬉しくないわ。




