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第22回配信 イベント ゴブリン王の帰還 ⑤

白桜の所に行くと虎ちゃんもいた。ゴブプリは某と一緒にゴブゴブしているようで安定の不在。

「虎ちゃんも呼ばれたんか?」

「おう。いきなり呼ばれた。あの笑顔で呼ばれたら来るしかないよな?」

「そうだよな」

 あの笑顔は怖いもんな。あれを無視して来ていないならゴブプリ。お前の未来は暗いぞ。


「さっきの話は聞いてたわね!」

「ん?お、おう」

 あまりの剣幕によく分かってないけど頷いてしまった。さっきの話ってコメント君の事だよな?きっとそうだ。うん。

「いきなり迫真の演技が始まってびっくりしたな」

 メーデー、メーデーって実際に聞くとは思わなかったな。


「まぁ、あれも驚いたけど私が言いたいのはそこじゃないのだけど」

 えっ、違うの?あれじゃなかったら何なんだ?他に驚くことあったか?

 虎ちゃんも違うの?って顔してるけど。 


「あそこにいるロリコンドリア達の所為で他のエリアがマズい状況になってるのは分かる?」

「それなら分かるぞ」

 流石にコメント君が言ってたからな。

「他のエリアがクリア出来ないとなるとイベント参加者全体の報酬のランクが落ちるのよ」

 虎ちゃんもここには頷いている。はぁ〜、そんな事実があったのか。


「知らなかったって顔してるわね。自分が参加するイベントなんだからしっかり見ときなさいよ」

 何となく見て何となく理解してたんだがダメだったか。

「まぁ、今はそれはどうでもいいわ。いい?このままだと報酬のランクが落ちるのよ!」

 そんな拳を握って力説しなくても理解しとるよ。


「報酬が下がるのは嬉しくないけど俺たちに出来ることはないだろ」

 うん。虎ちゃんナイス発言。俺もそう思った。思ったけど怖くて言えなかった。言ってくれてありがとう。

 白桜は虎ちゃんの発言に頷いている。


「そう、私や虎紳士には出来ることはないわ。だけど澪!あなたは違う!!」

 いや、そんなビシッと指を刺されても困るんだが。俺に何が出来るっていうんだ?


「あそこにいるのはロリコンドリア達よ。だったら澪の言う事は聞くはずよっ!」

 いや、はずよっ!って言われても。

「あぁ、そうかもな」

 えっ?虎ちゃんもそう思うの? 


「何だ?取り敢えずあそこにいるベ○立ちロリコン共に戻れって言えばいいのか?」

「そういうことよ」

 力強く頷かれたな。まぁ、取り敢えず言ってみるか。


「あぁ〜。周囲に集まってるロリコン共。元のエリアに戻ってくれないか?」

『澪ちゃんが戻ってくれないかと言っているぞ』

『でも戻ったらこれ以上澪ちゃん見れなくなるぞ』

『これは審議案件だ』

『AA(略』

 これはどうなんだ?戻ってくれるのか?


『澪ちゃんのお願いではあるがやはり澪ちゃんを見ていたい!!』

『今ここに居る事が俺たちのご褒美!』

『ここから移動することなんて出来ない!!』

『『『という訳で移動は出来ません!!』』』


「何がという訳でなのかはさっぱり理解できんが断られたぞ」

 まぁ、コメント君は白桜達も見えてるから報告するまでもないとは思うけどな。


「……………」

 おぉう!白桜が俯いて固まってる。しかもプルプル震えておるぞ。これはよく無いのではないか?

 虎ちゃん。これどうするべきだ?あぁ、虎ちゃんもマズいと思ってるのかゆっくり白桜から距離取ってるし。

 うん。そんな顔でこっち見られても俺にはどうする事も出来ないぞ。虎ちゃんどうにかしてくれ。

 えっ?お前が話しかけろって。やだよ。虎ちゃんがやれよって、もうスッゴイ距離取ってるし。

 これは俺がやらないとダメなやつか?くそぅ。虎ちゃん後でなんか奢ってもらうからな。


「あの、白桜さん?彼らは戻らないと言っておりますがどうしましょうか?」

 ヤベェ。プルプル震えてるだけで反応がないよ。どうしよう。

「あのぅ、白桜さん?聞こえてます?白桜さん?」

 白桜が勢いよく頭を上げる。すっごい顔してるんだけど。コメント君白桜の顔見えてるよな。見えてるんだったら戻ったほうがいい気がするぞ。むしろ俺を助けるために戻ってくれ。


「ふふふふふ、成程そう言う考えな訳ね。わかったわ」

 なんかスッゴい黒いオーラが出てるんですけど?そんなエフェクトありましたっけ?それとも俺だけが見えてるの?何?幻覚ですか?

 虎ちゃんの顔色が悪いな。白虎が青虎になりそうな勢いだ。うん。これは虎ちゃんにも黒いオーラが見えてるな。


「澪を見ていることがご褒美と言っていたわね。ならばそれよりも強力なものを出せば良いだけの事よね。あいつらの言動をみれば何が効果的なのかは自ずとわかって来るものよ」

 白桜が俯いてブツブツ言ってるんですけど。これは面倒事に巻き込まれる前に逃げたほうが良いのではないか?


「虎ちゃん。今のうちに逃げないか?」

 一人だと怖いけど虎ちゃん。君となら乗り越えられる気がするんだ。

「魅力的なお誘いだがなぁ。逃げた後が怖いんだよな」

 虎ちゃんは逃亡には消極的か。

「でもここにいるともっと恐ろしい事になるんじゃないか?」

「逃げても逃げなくても恐ろしい事が起こるって事だな」

 もしかして俺たち詰んだか?


「そうだわ!これでいけるわ!」

 白桜が顔を上げて叫ぶ。

「澪。どうやら俺たちは逃げられないようだぞ」

「あぁ、そうみたいだ」

 白桜の爛々とした目がガッツリとこっちを見ているからな。これは逃げられんわ。


「二人とも私はね。やれることはやる主義なのよ」

 殺れる時は殺る主義……だと?何?俺たち処される?

「澪。多分お前の思ってる漢字とは違うと思うぞ」


「澪。報酬(わたし)のために犠牲になりなさい」

「虎ちゃん。犠牲って言ってるぞ!完全に処されるやつじゃないのか!?」

 虎ちゃんは黙って明後日の方を見ている。こいつ気付いてやがる。白桜は俺の名前しか呼ばなかった事を。

「テメェ!犠牲が俺だけになるって分かったからってその態度はないだろ!!」

 

「HAHAHAHA、ダイジョウブ。コワイコトナイYO。トテモアンゼン。ミンナヤッテルYO」

「胡散くせぇ外人の真似はやめろ!全然安心出来ねぇよ!」

 こいつ自分の安全が分かった瞬間から遊びに入りやがった。


「それじゃあ、ロリコンドリアにも説明しましょうかしら」

「おぉい!ロリコンドリアにもじゃねぇよ。まず俺に説明しろ!それに俺はやるとは一言も言ってないぞ」

 勝手に話を進めるな。


「うるさいわね。今大事な所なのよ。虎紳士。ちょっと澪を黙らせておいて」

 虎ちゃんは黙って敬礼して俺を羽交締めにする。

「ちょ、虎ちゃん!?お前裏切りやがったな!」

「スマン。澪。俺も自分の身が可愛いんだ」

「最低な理由だな!どこが紳士だこの野郎!」


「それでは説明しましょうか」

 ダメだ。誰か白桜を止めてくれ!ゴブプリはどうした?こういう時にあいつがバタバタしながら現れて得意のゴブリンムーブをカマして全てを掻っ攫うのが流れだろ!なんて使えないゴブリン何だ!


「あなた達は今の状況がご褒美と言ったわね。それ以上のご褒美があるとしたら……どうする?」

『それ以上のご褒美……だと?』

『澪ちゃんを眺める以上のご褒美だと?』

『そんなんものがこの世にあっていいのか?』


「どうする?もしそれが貰えるとしたらあなた達は本来の場所に戻る?」

『今以上のご褒美があるというのであれば戻ろう』

『おい。勝手に約束するな。澪ちゃんをこれ以上見れなくなるんだぞ!』

『馬鹿野郎!今以上のご褒美だぞ。それを手に入るなら問題ないだろう』

 遠くにいるベ○立ちしながら円陣を組んでる奴らがいるな。あれが今コメントしてる奴らか。


『よし。今以上のご褒美があるなら俺たちは本来の場所に戻ろう』

「言ったわね。約束よ」

 白桜の目が怪しく光る。完全にイケナイ生業をしている人に見えるんだが。法には触れるような事はしてないよな。

『ロリコンドリアに二言はない』

 武士みたいにいうなよ。


「それじゃあ言うわよ。あなた達へのご褒美。それは……」

 周囲が緊張に包まれる。他のプレイヤー達は必死にパパンを殴っているが俺はそれどころじゃない。

 ロリコンドリアへのご褒美。そして俺を犠牲にすると言った白桜の発言。間違いなく俺に不幸が訪れる。


「澪がこの場であなた達をお兄ちゃん呼びすることよ」

「はぁぁああああ!」

『よぉっしゃあああああ!!』

『時代だ!俺たちの時代が来るんだ!!』

『もう、怖いものなんて何もないぞ!』

『マジでござるか!?これはゴブリンを狩ってる場合ではないでござるよ!』


「おい。俺はやるなんて言ってないぞ。あぁあ!勝手に盛り上がるな!」

 ちょっと待てや。なんで俺がそんなことをしないといけないんだ。

「あぁ、澪。これはやらないとダメなやつじゃないか?」

「はぁ!?なんで俺が?嫌だぞ。いいか、俺の中身知ってるだろ。それがお兄ちゃんって冗談じゃないぞ!」

 そんな可哀想なことを見るような目はやめろ。


「澪。中身なんてないのよ。あなたは澪。いいわね。中身なんてな・い・の・よ!」

 白桜ドアップ。恐怖のあまり黙って頷いてしまった。

『澪どのは澪どのでござる』

『そうだな。そこに疑義は何一つない』

『澪ちゃんは澪ちゃんだ!』

『そんな子にお兄ちゃんって言われるんですよ!』

『oh yeah!!!』


「嫌だ!俺はRP勢ではないんだ。何でそんな罰ゲームをしなきゃいけないんだ!」

「澪?RPが罰ゲームってどう言うことかしら?」

「ひぃっ?」

 そこには1匹の鬼がおったそうだ。


 まずい。このままだと俺の尊厳(HP)がゼロになる。誰でもいいから助けてくれ!

「澪。お前が助かる方法が一つあるかもしれない」

「えっ?この状態から入れる保険があるんですか?」

 虎ちゃん早く言ってくれ。俺を助けてくれ!


「心に壁を造るんだ」

「それって俺助からないよね?」

「大丈夫だ。心に壁を造ればお前の心は守られる」

 いい笑顔でサムズアップする虎ちゃん。

「助からねぇよ!これ配信されてるんだぞ!俺の黒歴史が電子の海に永劫残るんだぞ!この年での生産される黒歴史は嫌だ!!」

「まさに凄惨な黒歴史だな」

「やかましいわ!!」


 白桜が俺を見て笑う。とても嫌な笑い方だ。効果音つけるならニチャア一択だ。

「澪、あなた怖いの?」

「は?怖いに決まってるだろ」

 おっさんが知らない奴らをお兄ちゃん呼びとか。何?修羅の国か何かですかここは?


「自分のキャラクリに自信がないから怖いんでしょ?」

 キャラクリに自信がないだと?俺のこの気合いの入ったボディに何を言うか。

「外見は気合を入れたみたいだけど声は適当に設定したんでしょ。だから声に自信がなくて怖いんでしょ」

「馬鹿野郎!声もしっかり作り込んだわ!声だって重要なキャラの要素だ!アニメを見ててちょっとこのキャラCV思ってたのと違うんだよなぁ…って萎えた事がある俺が!この俺が妥協するわけないだろ!」

 声優の皆様は本当に凄いと思います。はい。


「あなたの外見からいったらお兄ちゃん呼びをしても問題ないわよね。でもあなたはそれをしない。それは声に自信がないからでしょ。私は出来るわよ。あなたと違ってキャラクリに妥協はしなかったからね」

 何を勝ち誇った顔をしているかこの腐れエルフは。

「はぁ!何言ってやがる!俺はキャラクリに妥協などしとらんわ!」

「あ〜、澪。この流れは良くないやつだぞ。ちょっと冷静になれ」

「大丈夫だ虎ちゃん。この腹黒エルフに思い知らせてやるだけだ」

「思い知るのはお前になると思うぞ」


「でもお兄ちゃん呼び出来ないんでしょ。声に自信がないから。ほら正直に妥協したから声には自信がないって言いなさいよ。そしたら言わせるのは辞めさせてあげるから」

「妥協なんかしてないって言ってるだろ!いいだろう、お兄ちゃん呼びでも何でもしてやろうじゃないか!!」


「あちゃ〜。言っちゃたよ」

 ん?周りの空気が変わった気がするぞ。虎ちゃんが残念な子を見る目になっている。

「言質取ったわよ」

 白桜がニヤリと笑う。


『キタァァぁ!!』

『ご褒美タイムだ!!』

『これは体を温める必要があるぞ!』

『スクワットだ!スクワットをするぞ!!』

 ベ○立ち集団がスクワットをし始めた。ベ○立ちのままスクワットする集団は非常にキモいという事だけ説明しておこう。


「澪。もう後には引けないぞ」

 虎ちゃんが肩を叩く。

「俺のキャラクリが雑な訳がないだろう!声が飾りなんて言う奴は俺が粛清してやる!」

「宇宙空間での足は飾りだと言われても仕方がないとは思うがな」

「俺はパーファクトなあのモビルスーツも好きだ!」

「知らんがな」

 

「さぁ、澪。それじゃ言ってもらうけど、ただ言うのは芸がないわよね」

「俺のキャラの声も魅力的だと言うことを教えてやろう!」 

「そう?それは楽しみね」

 見ていろ。貴様のその余裕を崩してくれるわ!


「澪、お前状況が理解できているのか?」

「状況だと?しっかり理解しているさ。俺のキャラクリに一片の隙もないという事を知らしめてやるのよ」

「いや、そうじゃなくてお前があのベ○立ちに向かってお兄ちゃん呼びをするという事実をだな」

 オニイチャン?ベ○ダチをオニイチャンとヨブ?俺が?あいつらを?


「虎ちゃん。俺は謀られたのか?」

「見事に雑な罠にハマったな。猿でもあんな見え見えの罠にはハマらねぇよ」

 こ、これはマズイのではないだろうか?


「ククククク、これは滾るな。このシチュエーションでのセリフだろ。インパクト重視になるよな」

 白桜がブツブツ言い始めた。RPの仮面が剥がれてるけどいいのか?

「虎ちゃん。これはさっさとお兄ちゃんと呼んで終わりにするのではどうだろうか?」

 このままあいつに任せたら俺の尊厳が死んでしまう。


「無理だろ。下手な事するとお前の尊厳以上のものが死ぬぞ。ここは大人しく尊厳を捧げろ」

「尊厳を捧げろって結局俺死ぬってことじゃん」

「受け入れろ。そうじゃないと死んだ方が良かったという状況になるかもしれんぞ」

 恐ろしいことを言う。だけど逃げるとそうなりそうな気がする。


「内容は単純な方がいいな。この場で小難しい言葉なんていらねぇ!」

 白桜から黒いオーラが漂い始めている。あかん。これあかんやつだ。


「よし!これしかねぇな!」

 白桜が顔を上げる。こっちを見てニチャァと笑いながら近づいてくる。

「止めてくれ…。俺はまだ死にたくねぇ」

「醜悪な笑顔で近づくエルフと恐怖で命乞いする幼女。ゲームならではの光景だな」

 冷静に解説しないで助けてくれ。虎ちゃん。


 遂に白桜が目の前に来た。俺にはもう逃げ場はないのか。俺に何をさせようっていうんだ?

「澪。あなたこう言いなさい」

 白桜が耳打ちする。

「ば、馬鹿な。お前俺に死ねっていうのか?」

「何を言ってるのとってもいいセリフじゃない。あなた声に自信があるんでしょ?澪」

 悪魔は笑顔で近づいてきて一瞬で絶望に落とす。多分白桜の事を悪魔と呼ぶんだろう。いや、悪魔の事を白桜と呼ぶのかもしれない。


「勿論ただ言うだけじゃダメよ」

「お、お前はこれ以上俺に何をさせようって言うんだ?」

 ここは地獄の一丁目ですか?

「大丈夫。軽い演技指導みたいなものよ」

「演技指導だと……?」


「ちょっと向こうで練習しましょうか。虎紳士。少し澪を借りるわね」

 虎ちゃんに同意を取るんじゃなくて、まず俺に同意を取ってからにしてくれ。

「あぁ」

 頷く虎ちゃん。貴様裏切りるのか!?


「澪。達者でな」

「売られたの?ねぇ、俺は売られたの!?」

「イイから行くわよ。時間だって有限なのよ」

 白桜がローブの襟首を掴んで引っ張っていく。

 

『これは期待していいな』

『こんなご褒美が待っているとはな』

『スクワットが進むな!』

『『ハハハハハハハハハハ!!』』

 スクワットの速度が速くなるベ○立ちロリコンドリア。視界の暴力がすごい。


「ほら、あんなにスクワットが速くなってるじゃない。あれだけ期待してるんだから早くやりましょうか」

 いや、期待値が上がるとスクワットの速度が上がるとか化け物以外の何者でもないだろ。

「ど、どうしてもこれを言わなきゃいけないのか?」

「自分の声に自信があるんでしょ?だったら問題ないじゃない」

 ムカつくほどいい笑顔だな。おい。


「いいかしら澪?今回はお願いがテーマなのよ」

 白桜の演技?指導が始まる。熱い指導だ。正直俺の精神は耐えられそうもない。ここに味方はいないんだ。俺の精神はここで死ぬんだ。


「お待たせ。準備できたわ」

 演技?指導が終わり白桜に元の場所に連れて来られる。帰りは襟首を掴まれる事はなかった。

「あぁ。一応聞いておくがどんな指導をしたんだ?」

「どうって普通よ」

「それにしては澪の目が死んでるのが気になるんだが」

 虎ちゃん知ってるか?地獄は生きていても経験できるんだぜ。


『畜生!援軍はまだか!?』

『畜生、畜生!俺は行くぞ!止めてくれるな!』

『待て!今動くべきじゃっ!』

『ギャアアアあああ!!』

『エリーック!!』

『俺たちは捨て駒だったていうのか?司令部のクソッタレめ!!』


「あら、そろそろやらないと大変ね。澪さっき練習した通りにやるのよ」

「………」

 本当にやらなきゃいけないのか?これ以上の地獄を見なきゃいけないのか?

「澪?やりなさい」

 白桜の圧が強い。なんで、どうして俺がこんな目に……。

『フンフンフンフンフンフンフンフン』

「意味のわかんねぇB級映画風のコメントに戸惑う澪を脅迫する白桜。そして遠くでスクワットする変態。十分地獄絵図だな」


 やるしかないのか。俺にはもうそれしか選択肢はないのか?

「言わなくてもいいのよ。澪」

 なに?まだ俺の尊厳が助かる道があるのか?

「自分の声に魅力がない事。自分のキャラクリに粗があったことをこの場で認めるなら……ねぇ」

 白桜が嫌な笑いをする。

「うわぁ、この後に及んで息の根を止めようとしてるよ」


「くそう!言ってやる!言えばいいんだろう!!」

 もう、後には引けない。引けないんだ!涙を拭け。恥を捨てろ。前を見るんだ!行くしかないんだ!さらばだ。俺の尊厳!!

『……………………』

「コメントもスクワットも止まってるし。どんだけ楽しみにしてるんだよ?」 

 刮目しろ!これが俺が作った妥協なきキャラクターだ!!

 手を胸の位置で組む。そして上目遣いになり、少し首を傾げる。


「お兄ちゃん。澪のお願い……聞いて?」


 言い切ったぞ。俺は言い切ったんだ。

 言い切った瞬間足から力が抜けて崩れ落ちる。怒涛のように自分の内に流れ込んでくる。後悔と羞恥心。覚悟は決めても無理なものは無理だよ。今俺の尊厳はここで死んだんだ。


『『『シャアアアアア嗚呼嗚呼嗚呼あああ!!』』』

『お兄ちゃんいただきました!極上のお兄ちゃんいただきました!!』

『俺たちは無敵だ!』

『騎兵隊だ!騎兵隊が来たぞ!!』

『なんでも聞いちゃう!むしろなんでも言ってください!なんでもやります!』


「今なんでもやるって言ったわね?」

『なんでもやります!やらせてください!!』

「よろしい。ならばお兄ちゃんと呼ばれる実力があることを澪に見せなさい!」

『『イエス!マム!!』』


「お前ら盛り上がるのもいいけど崩れ落ちた澪をもう少しは気にしようや」

 いいんだ虎ちゃん。むしろ今は放ってほいて欲しいんだ。君のその優しさだけは覚えておくよ。


「ならば分かっているわね。本来の自分達のところに行ってゴブリンキングを倒してきなさい!」

『『イエス!マム!』』

「澪が望むのは完璧な勝利よ。中途半端な成果はいらないわ!」

『『イエス!マム!』』


『我々はお兄ちゃん!』

『お兄ちゃんへのお願いは叶えなければいけない!』

『お兄ちゃんとは一体何か!?』

『それは雄々しいもの!!』

『それは猛々しいもの!!』

『そして慈愛に満ちたものなり!!』

『行くぞ!お兄ちゃんたちの戦場へ!!』

『『オウ!!』』

 ベ○立ちしていたロリコンドリアが光に包まれて消えていく。本来いたはずの戦場に戻って行った。


 これが後にプレイヤーからいろんな意味で一目置かれるプレイヤーズギルド【ロリコンドリア】、その中の精鋭部隊。通称お兄ちゃん誕生の瞬間である。


「そういえばゴブプリは呼んでも来なかったわね?あれは何をしてるのかしら?」

 白桜が周囲を見渡す。

「あぁ、ゴブプリは向こうで某さんとゴブリン狩りをしてるぞ」

 虎ちゃんがゴブプリのいる方を指差す。

「どれどれ?あ〜、あそこのアレね。」


「ゴブプリ殿。某はここまででござるよ」

 某がゴブリンを狩るのを止める

「某君。君は行くんだね」

 某は黙って頷く。

「止めはしないよ。行くんだ某君」

「ゴブプリ殿……、忝い」

 某の装備が落武者スタイルから源平武者スタイルに変わる。


「それが君の本気かい?」

「望まれた故。某は修羅となるでござるよ」

 某が光に包まれて消える。

「頑張るんだよ。某君」

 光が消えた場所を見つめるゴブプリ。

 そしてその後すぐにゴブリンに囲まれボコられて光となって消えるゴブプリ。


「さて、これで向こうも大丈夫でしょう。私たちもゴブリンキングを倒しましょうか」

「うん。そうだな」

 二人はゴブプリの事を見なかった事にしてゴブリンキング討伐に向かった。



 白桜と虎ちゃんは俺を置いてパパンのところへ行ってしまった。

 コメントは大盛り上がりだ。そりゃ俺の新たなる黒歴史が出来たんだ。盛り上がりもするだろうよ。

 でもよ、お前ら。崩れ落ちてる俺を無視して先に進むのはどうなんだ!?

 俺頑張ったんだよ?で、お前ら喜んだじゃん?それで終わったらすぐ次とか何なの?俺を労わるとかいう気持ちはないわけ?

 

 自分の中の感情を表現することが出来ないよ。この感情をどこにぶつければいいんだよ?

 何で俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ?そうなんでだ?

 顔を上げると冒険者とパパンが戦っている。そう今回はパパンが街に来るからそれを倒せってイベントだったな。

 そうパパンが来るから……。ってことはこれは全てパパンが原因て事か?


 うん。そうだ。これは全てパパンが原因なんだ。つまり俺の尊厳を殺したのはあのパパンってことだ。

 なんだ。この感情のぶつける先がちゃんとあるじゃないか。なら俺のやることは一つだ。


 バトルアックスを握りしめて立ち上がる。猫耳フードを被り直す。

「よし。ヤルか」


 パパンに近づく。パパンは冒険者と戦っているからタゲは俺には来ない。ゴブリンズも他の冒険者に押し止められて俺のところには来ない。

 まだパパンとの距離があるので歩いて行く。


「あら澪?復活した……のね?」

 白桜がいる魔法使い集団の位置まで近づく。

「ちょっと澪?」

 バトルアックスを握る手に力が入る。もう少し距離が必要だ。逸る心を抑えて歩を進める。

「あ〜、これは不味いわね。ちょっとふざけ過ぎたわね。これは手厚いフォローしないと後が怖いわね」


 魔法使い集団を越えてパパンに近づく。近距離職ではまだ遠い。パパンの射程距離からは少し外れている位置。

「これぐらいの距離でいいな」

 普通なら届かないけど俺には届くアーツがある。


 力一杯バトルアックスを振り被る。振り被った姿勢で止まり力を貯める。ため時間が長いのがこの技のネックではあるが今は問題ない。俺の力と感情を全て乗せてぶつけてやる。


『なんか澪ちゃんがやってるぞ』

『近距離にしては遠い位置で振りかぶってるな』

『真剣な表情の澪ちゃんも可愛い』

『あの時の澪ちゃんも良かったけどな』

『あれは最高だった。切り抜き待ったなしだな』

『大丈夫だ。もう作成済みだ』


 俺の黒歴史は電子の海で永遠の存在になった。そんな罰を何で俺が受けなきゃいけないんだ!

 パパンが俺に気づいて何か叫んで近づいてくる。


『澪ちゃん逃げてぇ!!』

『表情がキリッとしてて良い』

『今お兄ちゃんが助けに行くからぁ!!』


 うっさいわ!誰がお兄ちゃんだ!コラァ!!

 こうなったのも全部お前のせいだ。パパン!バタバタ走って来てるけどなぁ…。


 お前はもう俺の間合いにいるんだよ!

「テメェは俺を怒らせた!この腐れパパンがぁ!!息子共々迷惑掛けやがって!死に晒せぇ!!」

 目の前まで近づいたパパンに向かってバトルアックスを振り抜く。

「デッドッ!エンドォ!!」


『えっ……?』

『ちょ……、へ?』

『マジでか?』


 デッドエンドをくらったパパンは崩れ落ちてゆっくりと光になって消えていった。

 ついでに衝撃に巻き込まれたらしく周囲にいたゴブリンズも綺麗に消えていた。

 パパン、ボスだから消え方も特殊なのな。


「あれよね。ゴブリンキングの体力が減っていて偶々ラストアタックが澪のあの攻撃だったのよ……ね?」

 顔色の悪い白桜に虎ちゃんが近づく。

「まぁ、ゴブリンキングの体力は減ってたと思うけどあのアーツの威力はおかしいと思うぞ」

 白桜と虎ちゃんは消えていくゴブリンキングを眺める。

「魔法でもあの威力はなかなか出ないと思うのだけれど」

「プレイヤーが出していい威力ではない気がするけどな」


「あの子これからどんな方向に成長するのかしら?」

「分からんけど。予想できない方向に成長することは間違いないな」

「それは間違いないわね」


 バトルアックスを肩に担ぎ周囲を見渡す。

「ちっ、もうゴブリンはいないか」

 残ってたら残らず駆逐してやろうと思ったのに。


〈イベント ゴブリン王の帰還 初級エリア クエストクリア!!〉


 無機質なメッセージが流れる。その直後に周囲のプレイヤー達が勝利の雄叫びを上げている。

 うん。嬉しいんだろうよ。だけど俺にはそんな気力は残ってないよ。

 はぁ、最悪な終わり方だよ。この年で黒歴史生産とかどんな罰ゲームだよ。


 肩を落としていたところ目の前に光が集まって来た。

 ん、クエスト報酬か?こんな辛い思いをしたんだ。それ相応の報酬を寄越せよ。


「澪!待たせたね!ここからは僕が助太刀するよ!!」

 俺が無言でゴブプリに攻撃したのは悪くないと思うんだ。こいつはさっきのメッセージ聞いてなかったのか?

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― 新着の感想 ―
[一言] これは仕方がない犠牲だったんや……(尊厳的な意味で) これは仕方がない反応やな……(お兄ちゃん的な意味で) ゴブプリはいつもどおりの犠牲やな!(いつもどおりだった)
[一言] 主人公が推しに弱いと良いように使われてストレスが溜まって、強すぎると壮大に何も始まらなくって話が動かないってジレンマの見本みたいな話でした。 まあ付き合い長いんだからここからフォローくらいは…
[一言] 1回やったら、後は何回やっても同じですよね?
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