第14回配信 ひあ かむず にゅう ようじょ
今日は黎とタイミングが合ったので黎と遊ぶ事になった。何気に黎と2人でやるのは初だな。2人でやろうかっていうのがあったんだよな。だけどあのゴブリンはその時に神殿ギルドの情報教えたら俺を置いて神殿ギルドに突撃しやがったからな。今回は大丈夫かな。不安に思っても仕方がないと思うんだ。
集合場所は街の広場だ。ログインしたそこが集合場所だ。移動する手間がなくてとても便利だ。しかし広場が結構デカいから結局ログインした後に探さないと行けないんだけどな。
おっ、すぐに発見。しかし側から見たら本当に乙女ゲーに出てくる王子なんだよなぁ。なんでこんなキャラにしたんだか。中身とのギャップが激しすぎるんだよな。この場合はギャップ萌えはないと俺は考えている。
「うい、お疲れ〜」
「ん?やぁ、澪。お疲れ様」
RPは結構しっかりしてるのにな。益々中身が残念だな。
「今日はどうする?」
「今回は2人だけだからね。あまり遠出はしない方がいいと思うんだよ」
そうだな。俺もゴブリンとの2人旅は不安が大きいからな。安全第一で行こう。
「澪はイベントの情報は見たかい?」
「おぉ、見た見た。休みだったから参加するぞ」
「じゃあ4人とも全員参加だね」
おっ?いつの間に確認してたんだ?
「一応確認しておいたんだよ。そしたら2人とも参加するって言ってたよ」
「いいね。全員参加ならついでに配信でもするか」
イベントだと普通と違った状況になるからな。楽しみだな。
「流石にイベントではゴブリンムーブは止めろよ」
「ふっ、状況によるね」
いや、状況によるってどういう意味だよ。
「君たち以外にも他のプレイヤーがいたなら僕だって弁えるさ。迷惑はかけられないからね。だがしかし君たちしかいないのならば僕は本能の赴くままに行動するのさ!」
いや、俺を指差してポージングしてまで言ってると悪いんだが自分の言ってる言葉の意味が分かってるのかこいつは?
「大分なクズ発言をしている事をお前は理解しているのか?」
「君たちなら多少迷惑かけても大丈夫だと分かってるからね。信頼の現れさ」
「親しき中にも礼儀ありって言うだろうが」
まぁ、見てて楽しいけどね。でもだよ黎や。
「頼むよ。この前も言ったけどさ。最近仕事でストレスが強くってさ。お前たちとじゃないと流石にああいう事出来ないんだよ。なぁ、頼むよ」
急に黎がしがみついてきやがった。えぇい、幼女にしがみつくな。大分絵面がマズいから。おい、泣くな。泣く様な事じゃないだろうが。RP崩れてるぞ。どんだけ心病んでるんだお前は!
黎を引き剥がすがまたしがみつこうとしてくる。
「分かった。分かったから。ある程度は許容してやるから。だからしがみつくな!!」
「本当かい?ありがとう澪!」
スッゴイいい笑顔だな。なんだろう。俺はお前が可哀想になってきたよ。うん、いいよ。お前がゴブリンムーブをしても俺は止めない。止めないさ。だけどな。
「そのムーブの後に必ず何らかの制裁を加えてやるからな」
どんな事をしてやろうか。今から考えるだけでも楽しくなってきたぞ。
「何だい?今何か言ったかい?」
「いや、何でもないさ。お前は好きにやればいいって事だよ」
「何か黒い笑顔をしているけど本当に大丈夫かい?それ幼女がしていい笑顔じゃないよ」
気にするな。お前が楽しむなら俺も楽しむだけだからな。
「まぁ、ここで話しても何だから草原にでも行くか」
「まぁ、腑に落ちないところもあるけど、確かにここにずっといても仕方ないからね」
よし。取りあえず東の草原に出て適当にモンスターを狩るか。
東の草原に行こうとしたら丁度進行方向から小さいのが歩いてるのが見えた。
しかも真っ直ぐこっちに向かって来てるな。
「澪。君って幼女の知り合いとかいるかい?」
うん。黎にもしっかり見えているようだな。
「生憎俺には幼女の知り合いはいないな」
「奇遇だね。僕も君以外には知り合いはいないはずなんだけどね」
知り合いではないんだけどなぁ。でもだんだん近づいてきてるよな。
「僕にはこっちを見ているような気がするんだけどね」
「俺にもそう見えるな」
俺たちの目の前で止まる幼女。じ〜っとこっちを見ている幼女。そして無言。俺たちから声をかけるのも変だよな。どうしようか。
「澪、君を見てるみたいだから声かけてみたらどうだい?」
黎が小声で話しかけてくる。お前も困っているのは分かるが俺に振るなよ。
「俺が対応するのか?こういう時ってなんて声かければいいんだ?」
「そんなの僕が分かるわけないじゃないか」
「外面は王子なんだから何か気の利いた言葉でもないのか?何のためにRPしてるんだお前は」
「外面ってどういう事だい?それに今はRPは関係ないだろ」
「こういう時ぐらい役に立てよ。だから中身がゴブリンなんて言われるんだよ。お前は」
「ゴブリンとは言ってくれるじゃないか!僕のどこがゴブリンだっていうんだ!」
「テメェの行動の1から100まで全てがゴブリンだって言ってるんだよ!なんだ?脳みそまでゴブリンになったか!」
「なんて事を言うんだ君は!」
「あぁ、やるか?この野郎!」
「あ、あのう……」
はっ?しまった。つい興奮して目の前の幼女の存在を忘れてしまった。
「お、おう。どうした?」
「僕たちに何か用事かな?」
怯えさせてしまったか?幼女の表情が固いぞ。
「澪さん…ですか?」
「うん?そうだぞ。俺が澪だ」
幼女の表情が明るくなる。
「やっぱりそうですか。私ルピルピっていいます」
ルピルピ…。ルピルピ…。
「おぉ!あの腕白幼女!!」
「腕白…?ですか」
金髪碧眼。黒いゴスロリ衣装。そして手には白いウサギのぬいぐるみ。なかなかの腕白っぷりだな。
一人ルピルピを見て頷く。
「あぁ、これの言うことを半分以上流しても大丈夫だよ」
「何を言ってるんだ。この見た目は明らかに腕白だろうが」
初めて見るがとてもいい腕白具合じゃないか。満点をあげよう。
「あの、動画配信を見て私感激したんです」
「おっ?おぉ…」
俺の配信で感激要素なんてあったか?黎のゴブリンムーブはある意味で感激?するかもしれないけど。
「澪さんの動きが凄くってずっとモニターに釘付けでした」
「あぁ、確かに澪は普通に考えて有り得ない動きをするからね」
有り得ない動きって何だ?俺は普通に動いてるだけだぞ。まぁ、リアルでは無理だけどな。ゲームならではだな。
「理解出来てない顔だけど君の動きは普通出来ないからね」
「そうです!私も可愛い格好がしたくてこのアバターにしましたけど全然動けませんから!」
そういえばルピルピは固定砲台型魔法使いって言ってたな。
「動けないから固定砲台にしたのか?」
「うっ、そうです。本当は別の戦い方とかしたかったんですけど全然動けなくって…。でもこのアバターは変えたくなかったんです。だからどうすればいいかなって考えて、その結果今の戦い方になりました」
恥ずかしそうに言う姿もいいな。やっぱり幼女はいいものだ。可愛いは正義だな。
「だから!同じ幼女のアバターなのにあんなに動ける澪さんが凄くって!もう私最初に見てからすぐにファンになってしまったんです!!」
「おっ、おぅ。ありがとう?」
熱量凄いな。しかし俺にもファンが出来るとは。てっきり俺の配信にはロリコンドリアしかいないと思ってた。
「ファンが出来るなんて凄いじゃないか。一応僕も自己紹介しておこうか」
「あぁ、ゴブリンさんですよね」
「ぶふぉ!」
初対面の幼女にゴブリン言われてやがる。黎よかったな。お前のゴブリンムーブの認知度はかなり高いぞ。
「い、いやぁ、僕はゴブリンではなくて黎というんだけどね」
「分かりました。よろしくお願いします。ゴブリンさん」
「あぁ…、言い方直す気はないんだね」
表情が引き攣ってるな。しかしお前の今までの行動が原因だ。甘んじて受け入れろ。
「あぁ、そうだ。ルピルピ…さん?」
「ルピルピでいいです」
「そうか。じゃあ、俺も澪でいいぞ」
「とんでもない。澪さんを呼び捨てだなんて!」
「そ、そうか?じゃあ、好きに呼んでくれ」
ルピルピがモジモジし始めた。えっ、何?なんで急にモジモジし始めるのこの子は?
「えっ?じゃ、じゃあ。お姉様って呼んでもいいですか?」
「「お姉様!?」」
え〜。お姉様って…。どうなんだ?しかしなぁ、好きに呼んで良いって言っちゃったしなぁ。
「幼女が幼女をお姉様って呼ぶってなかなかな光景だね」
いや、黎よ。微笑ましそうに見てるがな。問題はそこじゃないぞ。冷静に考えろ。中身の俺はおっさんなんだぞ。おっさんをお姉様呼ぼわりすることの危険性が分からないのか?
「ダメ…、ですか?」
あざとい!涙目からの目使いはあざとい!まぁ、俺は同じ幼女だから視線の位置はほとんど変わらんからそんなに上目使いにはならんのだけどな。しかし自然とこんな事をしてくるとは外見だけでなく中身も随分な腕白とみた。だがそれもまたよし!
「まぁ、好きに呼んで良いって言ったしな」
「ありがとうございます!お姉様!」
おぉ、喜んでるな。よく分からんがそんな嬉しいもんなのかね?
しかし俺がお姉様か…。急に呼ばれた時に反応出来るかな?多分無理だと思うな。
「まぁ、いいか。ルピルピってさ。早熟な王国に入ってるのか?」
いくら俺でもいきなりあの変態麻呂との関係は?とか聞けない。
「うっ。どこでその名前を…」
あっ、表情固まった。これもあまり触れられたくない系だったか?まぁ、聞いたもんは仕方がない。
「何だい、その早熟な王国って?」
「黎は知らなかったか。まぁ、俺もつい最近名前を知ったんだがな。この前何か凄い濃いプレイヤーに会ってな。ルピルピだの我らが早熟な王国がとか言ってたからな。ルピルピとどういった関係なのかな〜って思ってな」
早熟な王国は知らんがあの麻呂と付き合いがあるとなるとだ、ルピルピはかなりの猛者という事になる。
「いえ、付き合いはほとんどないというか。配信をしていたら気付いたらそこにいたと言いますか…。とても個性的な方々なんですよね。でも特に何かをされるとかはないんです。なんか遠巻きに見られていると言いますか。だからでしょうか、どう接すれば良いか分からないというのはありますね…」
「なるほど。澪のロリコンドリアみたいなものだね」
あいつらと同じか?あいつらは遠巻きどころかこっちに突っ込んで来そうな勢いだぞ。
しかしただ遠巻きに見られるだけだとどうすればいいかなんて分からんよな。
「そんなのがいて大変じゃないか?」
関わり方は違ってもロリコンドリアと同じ匂いがするんだよな。つまりは早熟な王国は変態紳士の集まりだろう。俺は中身がおっさんだからあいつらのノリでも気にしないけどさ。この子はどうも中身は女性のような気がするんだよなぁ。おっさんの勘がそう言っている。ちなみにおっさんの勘は競馬で毎年負け越すのが基本だから過信してはいけないぞ。それだと相手するの辛いんじゃないのか?
「いえ、さっきも言ったように変なことはされませんから…」
笑顔が引き攣ってるぞ。辛いことでもあるんじゃないのか?しかしこれはこっちが掘り下げても何だしな。本人から何か言ってきたら対応するぐらいが丁度いいんだろうな。
「そうは言ってるけど笑顔が引き攣ってるよ」
「チャイセェェェ!!」
バトルアックスを取り出して黎を思いっきり薙ぎ払う。まだパーティに入ってないからなダメージは入らなくてノックバックで弾き飛ばす事は出来るぞ。
人が空気を読んで黙っていたのに何を言うか!!
ルピルピは突然の出来事にポカンとしているな。君は何も気にしなくていいからな。
「いきなり何をするんだい!?」
「うるせぇ!行動だけでなく頭もゴブリンになりやがったか!?」
現実ではマトモなのに。ストレス以外にも何かあるんじゃないのかこいつ?少しは空気を読もうとしろよ。
「いいか、ルピルピ。この黎は気にするな。ちょっと頭が残念なだけだから」
ルピルピの肩を掴んでゆっくり言い聞かせる。まだポカンとしているな。いいか、深く考えるな。そのままよく分からないままこの状況を流してしまうんだ。世の中にはスルーした方が幸せなことがたくさんあるからな。
「よ、よく分かりませんが、分かりました。お姉様」
「まぁ、話を戻すが大丈夫ならいいんだが何かあったら相談には乗るからな。遠慮なんてするなよ」
同じ幼女仲間だ。同志には楽しくゲームをしてもらいたいもんだからな。
「ありがとうございます。ちなみなんですけどお姉様にも同じような方達がいますよね。お姉様はどのように対応してるんですか?」
あいつらの対応?対応ねぇ…。
「特に何も考えてないな」
「考えてないんですか?」
「おぅ。俺は自分が楽しみたくってこのゲームをやってるからな。それが邪魔されない限り別に周りなんてどうでもいいやって思ってるからな」
だからと言って他人に迷惑をかける行動はダメだけどな。最低限のマナーは守るぞ。もしそれが出来ないとなら一人でオフラインゲームでもやってればいいんだよ。
「アーカイブとかで見たけど澪の彼らへの対応って雑なところがあるよね」
「おぅ。確かに雑なところはあるかもな。一々コメントに考えて返事なんてしてないしな」
「雑…ですか」
なんかショック受けてるか?しかし俺はそんなもんだ。
「まぁ、深く考えなくてもなるようになるってやつだ」
「それは澪だから成り立つのであってだね、他の人では成り立たないと思うよ。だからこういう人がいるんだ程度で考えればいいと思うよ。だから真似はオススメしないかな」
なんで俺は非常識だから真似するなみたいに言うかね。普通に考えてお前のゴブリンムーブの方が非常識だからな。
「まぁ、あれだ。ゲームなんだから好きにやるのが一番ってことだな」
「そうだね。ゲームだからね。好きにやるのが一番さ」
「お前はもう少し周りのことも考えたほうがいいぞ」
自由の戦士が過ぎるからな。
「分かりました。私も好きにやってみようと思います」
「おぉ、そうしろ」
そう言ったはいいが大丈夫かなこの子?ちょっと思い込みが激しそうな気がするんだが。まぁ、何かあったらその時考えるという事でいいか。気にしないことにしよう。
「ルピルピちゃんはこれからどうするんだい?僕たちはこれから東の草原で狩りをするけど、暇なら一緒に行くかい?」
「ルピルピは俺たちよりレベルが高いだろ。それだと東の草原だと退屈じゃないか?」
実際のレベルが幾つか知らんが。にしても黎よ、サラリと軟派な発言をしてるの気付いているか?頭がゴブリンはいいが下半身ゴブリンはやめろよ。もし、そうなった時は虎ちゃんと白桜に協力してもらって黎のゴブリンを叩っ切るからな。
黎のゴブリンに殺気を向ける。
「なんか寒気がするんだけど気のせいかな?」
安心しろ。やる時は慈悲なく一思いにやってやるからな。
「私は全然大丈夫です。これから予定なんてありません。あったとしてもない事にするんで大丈夫です!」
全然大丈夫じゃない発言なんだけどさ。本当に予定ないんだよね。おっさん自分が原因で相手の予定が崩れるのあんまり好きじゃないからさ。あぁ、ルピルピの目がキラッキラしてるな。これはダメとは言えない感じだな。
「ルピルピが大丈夫ならいいだろ」
「どうする?ルピルピちゃん」
「よろしくお願いします!」
それじゃ、まず東の草原にでも向かいますかね。




