第12回配信 第2回酒の肴配信じゃあ!! 〜みんなでゴブリンさんに会いに行くよ〜
東の草原に出たがあいつ等俺を置いて先に歩いてやがる。幼女の歩幅だと追いつくの大変なんだぞ気持ち早足になってないかお前ら?
全然追いつけないぞ。お前らは幼女を労ろうという気はないのか?
くそぅ。走れば追いつく速度だ。しかし走って追いかけるのはなんか俺が負けたような気がする。
こっちをチラチラ見てなんか笑ってやがる。この状況を理解してやってやがるな。
よぅし、その喧嘩買った。そっちがその気ならこっちだってやってやろうじゃないか。
このイジメのような現場を配信して貴様らの所業を晒してやる。
えぇと、メニュー開いて配信選んでっと。今日は酒の肴配信だからコメントは非表示にしてっと。よしOKだ。
酒の肴配信スタートだ!!
「はい、皆さんこんにちは。澪です。今日は酒の肴配信ですので前回同様コメントには返答しませんのでよろしくお願いします」
挨拶大事。超大事。
「さて、皆さんこの状況、ご理解いただけますか?他の3人は幼女を置いて先に移動しているのです。このような外道な行為が許されるでしょうか。幼女を幼女と思わない正に外道な行いです。これは社会的に制裁を加えた方がいいと思うのです」
「あっ、澪!お前何かってに配信始めてるんだ」
「不穏なことを話すのはやめなよ」
「そうよ、貴方のとこの視聴者は過激派が多いんだから」
慌てて戻って来おったわ。貴様等の所業は既に配信済みじゃ。
「なんか向こうから来てないか?」
「あっ?」
なんか奥の方で砂煙が巻き上がってるな。なんか音が聞こえるが何だ?
「こんな所に猪は出ないよな」
「出るとは聞いたことはないね」
「猪よりもヤバいのが来てる気がするのよね」
「奇遇だな。俺もだ」
なんだろうな。白桜と虎ちゃんは分かったっぽいけど。
砂煙が大きくなってきたな
「澪殿ぉぉぉぉ!!」
そ、某ぃぃっ!?砂煙の正体は某だった。某が叫びながら爆走して来た。結構顔怖いぞ。
あっ、通り過ぎた。慣性の法則ってあるからな。あのスピードだと急には止まれないよな。
「よし、今日はゴブリンに会いに東の森に行くぞ」
「そうね。今日の目的はゴブリンとの戦闘ね」
「人型モンスターとの戦いは初だな」
さぁ、今日も元気に配信スタートだ!!
「あぁ、いいのかい、あれを無視して?」
黎が某の行った先を指差す。
「馬鹿野郎。あんなのに触れたら何が起こるかわからないだろうが?」
「あれが澪の配信での過激派の筆頭よ。死にたくなかったら黙ってなさい」
某よ、俺の仲間内でのお前の評価は危険物と同義なようだ。ちなみに俺もその評価を支持する。
「澪殿を置いていくような不埒者は何処の何奴でござるか?某が刀の錆にしてくれるでござる」
ヤバいのが出てきたぁ!?
某の目が白黒反転してる。それにそのドス黒いオーラは何?なんのエフェクトなの?
「澪これはマズいぞ」
「あれと関わったらゲームどころじゃないわよ」
「分かってる。ここは仲良しをアピールするしかねぇ」
慌てて3人で肩を組み笑顔を見せる。真ん中の俺が浮いているのは気にするな。
白桜笑顔が引き攣らないようにしろ。虎ちゃん……虎の笑顔ってよく分からん。そのままでよし!
「な、何を言ってるんだ某。俺たちはこんなに仲がいいぞ」
「そ、そうだぞ。こんなに仲が良い奴なんて珍しいぐらいだ」
「え、えぇ。本当にそうよ」
某の目が怖え。なんか反応しろよ。
「そうでござるか。いや、某配信を見て澪殿がイジメられていると思い、つい駆け付けたでござるよ」
ふしゅん。って効果音がつきそうな感じで某が元に戻った。
「大丈夫だ某。俺たちは仲がいい。イジメなんてないんだ」
「そのようでござるな。いやぁ、御三方は仲が良いようで羨ましいでござるよ」
御三方?あっ!
黎が流れに乗れずに置いてかれていた。
「ちょっとこの御仁とOHANASIAIをさせて欲しいでござるよ」
俺たちは頷くことしか出来ない。黎そんな悲しい目で俺たちを見るな。俺も自分の命は惜しい。俺たちのために犠牲になってくれ。
黎が某に肩を組まれて連れていかれる。結構離れたな。これだと何言ってるかは聞こえないな。あっ、しゃがんだ。
「スゲェ怖かったんだけど」
「あれが某さんね。噂に違わない感じね」
「何?白桜って某のこと知ってるのか?」
某って有名なのか。まぁ、あの格好と口調は目立つもんな。
「澪知らなかったの?某さんは前線で活躍するプレイヤーよ。その実力はトップクラスね」
トップクラスの実力なのか某。
「あまりにも強いからプレイヤーからは鬼神なんて言われてるわよ」
鬼神某。組み合わせると残念ながら格好良くはないな。ドンマイだ。
「澪今度から配信で変なことは言うな。お前の発言の度にこんな事が起きるのは勘弁してほしいぞ」
虎ちゃんに頷く。大丈夫だ。俺もこんなことが起こるのは困る。
「ところで黎はどうするの?」
「あれは必要な犠牲だ。正直今の俺にはどうすることも出来ない」
虎ちゃんも黎を助けるのは諦めているようだな。俺も虎ちゃんの意見に賛成だ。
「3人が助かるか、1人が助かるか。どちらか選べと言うなら俺は自分が助かる方を選ぶ」
「澪、お前凄いゲスな発言をしているって理解しているか?」
「俺の正直な気持ちだ」
「それは分かるわよ」
おっ、黎が解放された。黎はその場で動かないな。某がこっちに来た。
「いやぁ、某の勘違いで配信の邪魔をして申し訳ないでござるよ。某はこれから熊狩りに戻るでござるよ。それではさらばでござるよ」
「おぉ、元気でな」
某が手を振るので取りあえず俺も手を振っとくか。なんか手を振る速度が速くなったな。いや、いいから早く行けよ。振り返らなくていいから。
「黎が動いてないな」
虎ちゃんが黎のいる方を見ている。確かに黎がさっきから全く動いてないな。
「確認するか?」
「一応した方がいいわよね?」
「した方がいいとは思うが誰がするんだ?」
俺1人は嫌だぞ。
「「…………………」」
どうすんべこいつ。全く動かないな。
「全員で確かめるか?」
「そうだな。それがいい」
3人でゆっくり近づくが黎に反応がない。
「お〜い。黎?生きてるか?」
「…………」
反応がないな。
「死んだか?」
「うわああぁぁぁ!!」
「「ギャァアアアアア!!!」」
突然黎が起き上がり叫んだ。ビックリした。超ビックリした。
「何なの?ねぇ、あれは何?超怖かったんだけど」
頭抱えてガタガタ震えてるな。RP崩れてるけど今はその事には触れないでおいてやろう。
「何を言われたのかしらね?」
「いあ いあ くとぅるふ ふたぐん」
「それは本気で止めてやれ」
マジでSAN値が下がるやつだから。本当に虎ちゃんコズミックホラーが好きね。
黎の目のハイライトが消えてるな。
「どうするこれ?」
「取りあえず復活するまでここに置いておかないか」
「それがいいわね。大丈夫よ。ここに置いて行っても死にはしないでしょう」
一角ウサギぐらいしか出ないだろ。レベル装備も上がってるから大丈夫死にはしない。それに。
「死んでもデスペナないしな。つまりだ」
「「このまま放置で問題なし!」」
よし先に進もう。さらばだ黎。出来ればお前とは別の形で会いたかった。
「待ちたまえ!僕を置いていくのは酷いじゃないか!!」
あっ、復活した。
「仕方がないわね。黎も復活したし全員で行きましょうか」
「「異議なし」」
「仕方がないってどういう事だい!?」
男が小さい事を気にするな。ハゲるぞ。
「白桜さ、魔法ってどうなん?」
「どうなん?って随分アバウトな質問ね」
「使った事も見た事もないから興味がある」
「黎も回復魔法使うじゃない」
黎が回復魔法を使う?………ゴブリンムーブかましている記憶しかないぞ。
「使ってはいたな。多分」
虎ちゃんも記憶にないらしい。
「失礼だな君たち。僕はしっかりとヒーラーをやっていただろう」
黎が胸を張って主張している。
「議長、今の発言に対して告訴します」
「許可するわ」
開廷許可が出ましたので裁判開始!
「被告は自分がヒーラーの役割を過不足なく実行出来ていたと話していました。被告、間違いありませんね」
被告の発言を若干捏造している気がしないでもないが、まぁ問題はない。
「いや、過不足なくとまでは言わないけど…」
急に振られた黎は困っている。若干挙動不審。
「被告、発言ははっきりと言ってちょうだい」
白桜が黎を更に追い詰める。
「このように本人さえ断言出来ない状態なのです。私には被告がヒーラーではなくゴブリンにしか思えないのです!」
ここで畳み掛けるぞ。
「それには異議ありだよ」
おっ、黎も反撃に出たか。
「却下します」
しかし白桜に防がれた。
「ここで重要参考人を呼んでおります。どうぞこちらへ」
虎ちゃんが出てくる。
「あなたは過去に被告と冒険に出た事がありますね」
「はい。あります」
「その時の事を思い出していただきたい。被告は本当にヒーラーとしての役割を担えていましたか?」
虎ちゃんが肩を震わせて目元を手で隠す。
「あの時の彼はヒーラーではありませんでした。彼は、彼はゴブリンでした」
発言の後に嗚咽しながら俯く虎ちゃん。ノリノリだね。
「判決を言い渡します」
「早くないかい!?」
こちらはスピーディな審議が売りです。
「有罪。被告の二つ名に必ずゴブリンを付ける刑に処します」
「それは酷くないかい!?」
「閉廷します」
俺と虎ちゃんで黎を捕まえる。
「ほら騒ぐな。終わったんだ。行くぞ」
「ちょっと待ちたまえ。流石にゴブリンは酷いだろ。それに君たち配役変わってないかい」
人が足りないんだ。我慢しろ。
「で、魔法だったかしらね。澪は魔法を使いたいの?」
「いや、見たいだけで使いたいとは思わないな」
俺はデカい武器をぶん回す方が好きだ。
「ちょっと僕の流れは終わりかい?」
「盛大な茶番だからな。終わる時はあっさりしたものだ」
黎が切な気な目見ているが虎ちゃんが対応してくれてるから放置でいいだろう。
「まぁ、幼女の魔法使いってもういるしね。キャラが被るのは嫌よね」
「へっ?俺以外に幼女がいるのか?」
それは初耳だ。
「いるわよ。まぁ、私が知ってるのは1人しかいないけど」
「どんなヤツなんだ?」
幼女仲間がいるのか?いや、まだ仲間とは限らんか。
「名前はルピルピって言ってね、前線で活躍してるプレイヤーね」
ルピルピ…。凄いネーミングセンスだ。
「戦い方は強力な魔法を放つ固定砲台ね」
火力イズジャスティス!!それもロマンあるプレイングスタイルだと思うぞ。
「見た目は金髪碧眼で黒いゴスロリ衣装ね。面白いのがプレイヤー産だと思うんだけど杖の代わりに白いウサギのぬいぐるみを持ってるわね」
幼女、金髪碧眼、ゴスロリ、ぬいぐるみ……っだと?
「かぁぁっ、どんだけ属性盛り込んでるんだ。腕白過ぎるだろ」
「あなたには言われたくはないと思うわよ」
えっ、何で?他の2人も頷いてるけど。
「幼女、銀髪蒼眼、赤ローブ、猫耳、バトルアックス。あなたの方が多いわよね」
白桜が俺を指差しながら一つずつ確認する。あれ?俺の方が多いか?
「「………………」」
「まぁ、自分が気に入っているなら他の意見なんてどうでもいいよな」
「誤魔化したわね」
「誤魔化したな」
「誤魔化しきれていないと思うけどね」
俺の魅力が高過ぎるって事だな。うん。何も問題ない。
「よし、森に行くか!!」
森に向かって歩いてたけどすんなりとは行けないらしい。
はい、私たちの向かう方向に狼が6頭います。前回俺たちが逃げた時と同じ数だな。もしかしてあの時スタイリッシュゴブリンをボコってくれた方達でしょうか?向こうはまだ気づいていないようで前回の様な熱烈な歓迎はまだない。
「さて、狼がいるけどどうする?」
自分からどうすると聞いてはいますが俺は戦う気満々ですよ。ちょっとバトルアックスを構えてブンブンしてます。アピール大事。
「どうするって聞いてくるならこちらに選択肢を寄越しなさいよ。まぁ、ちょっと数が多い気もするけど今の私達なら大丈夫でしょ」
白桜が杖を取り出す。おっ、魔法が見られるチャンスだ。
「戦う事には賛成だが、お前ら今のレベルってどれくらいなんだ?ちなみに俺は13」
虎ちゃん俺よりレベル高いのな。あれか騎士になって実戦の機会でも増えたか?
俺も姐御と訓練してるがあれだけじゃ足りないのか?いや……姐御とあれ以上の訓練はちょっとなぁ。ほら、物事には順序ってものがあるだろ、慣れないことやると体痛めるし。特におっさんはね。
「私は10ね。シーフから転職したから低いのは仕方ないわね」
白桜は10か。本人も言ってるが転職してるんだから低くて当然だよな。
「俺は今12だな」
「僕は15だね」
「「15!?」」
「えぇ、黎が一番高いのか?」
疑いの眼差しで黎を見てしまうが俺は悪くない。なんだ課金アイテムでも使ったか?あれ、このゲームって課金アイテムあったけか?
「黎。見栄を張りたい気持ちも分からないでもないが俺たちに見栄を張っても仕方がないだろ」
虎ちゃんが黎を慰めている。何気に酷いな。
「お爺ちゃん。ご飯はさっき食べたでしょ。ほら、早くお家に帰るわよ」
白桜酷過ぎる。その扱いは止めてあげて。
「し、失礼だな君達は!ほら、これ僕のステータス」
黎がステータスを見せてくる。3人で確認する。どれどれ……。
「数字は15だな」
「バグ……ではないよな」
「炙り出しで違う数字が出てくるとかじゃないわよね」
「よし、白桜このステータスを炎で炙ってみろ」
違う数字が出てくるはずだ。
「いい加減信じたまえ!君たちは僕を何だと思ってるんだ?」
あっ、ステータス画面が消えた。
「冗談だ。冗談」
「確かに15だったな」
「仕方がないから信じましょう」
はい、この話は終わり。
「き、君たちは……」
「さて、レベル的には問題ないだろう」
「そうね。これなら大丈夫ね」
「とは言っても白桜はレベル低めだから後ろに下がってやれよ」
数も多いし乱戦になったら厳しいかもしれないからな。
「魔法使いなんだから前には出ないわよ」
それなら安心だ。
「3頭までなら同時にヤレるから最悪3頭は受け持つぞ」
姐御と特訓の成果を見せる時が来たか。
「何で今のあなたが3頭も同時にヤレるのか疑問なんだけど。まぁ、いいわ」
大丈夫だ。俺に任せろ。
「なぁ、黎が1人で行ってしまったぞ」
虎ちゃんが指差した先に黎がいる。メイスを振りかぶって全力疾走している。
「テメェは何で学習しない!!脳みそまでゴブリンになっちまったか!?」
白桜ブチギレ。またRPがどこかに行ってしまった。罵詈雑言の嵐ですな。
「虎ちゃん気付いたなら何で止めないんだ?」
虎ちゃんなら止めれただろ。
「俺は英雄志望の死にたがりを止める術を知らん」
なんかどっかのベテラン傭兵みたいこと言い始めたぞ。
そう言ってる間に黎はボコられてるな。何か叫んでるな。あぁ、すまん。お前が何を訴えているのか分からん。そんな目でこっちを見ても俺は助けることは出来ない。出来たとしてもしないけどな。
おっ、これはヤラれるな。うん、光になったな。1人で突っ込んで何も出来ずにヤラれたな。
「見ろ。黎がやられたようだ」
「あいつは我ら四天王の中で最弱。あいつを倒した程度で調子に乗ってもらっては困る」
「だから私はあれを四天王に入れるのは反対だったのよ」
「まさに四天王の面汚しよ」
ノリの良い仲間で大変よろしい。打ち合わせなく自然と四天王ムーブ出来る。
「で、黎がいなくなったがどうする?」
「復活するまで待つのもありだけどな」
「あぁ、ダメね。狼がこっち見てるわ」
あぁ、こっち見てグルグル唸ってるな。これは完全に晩御飯認定されたな。
「取り敢えず俺が敵視集めるから、後は臨機応変で」
「仕方ないな」
「あぁ、初めての魔法使いでの戦闘だからしっかり段取りしたかったのに」
気持ちは分かるが狼さんは待ってくれませんよ。恨むなら黎を恨んでくれ。フードを被って準備完了です。
「アピール!!」
虎ちゃんが狼の敵視を集める。
「ファイアボール!!」
おぉ、魔法だ。火の玉が飛んでった。へぇ、こんな感じなんだ。熱くねぇな。凄いな。
さて、見てるだけじゃなくて俺もヤリますか。
狼に向かって走る。敵視が虎ちゃんに向いているので避ける必要がなくて楽だ。
「ウッドッブレイカー!!」
いきなりアーツを使うと姐御に怒られるが今はチーム戦だし問題なし。狼こっち見てないから絶対当たるし。
攻撃しても敵視が来ない。タンクがいると楽だな。そんなタンクな虎ちゃんは6頭から攻撃されてるのにしっかり防御してるな。しかもちゃんと反撃し。大変お上手です。
「ビートダウン!!」
「ウィンドシュート!!」
白桜も魔法使いでの集団戦が初めての筈なのに上手く合わせてくるな。しかも油断すると殲滅力も負けそうですよ。
これはやる気が出ますな。皆ギルドが変わったことでいい変化が出てるな。あっ、黎は知らんぞ。真っ先にヤラれたし。しかし神殿ギルドではヒーラーというのは何たるかを教えてはくれないのか?
「しゃあ、おらぁぁ!!」
姐御との訓練のおかげで狼の動きが遅く感じるぜ。これなら姐御が言ってた両手斧の特性を活かした戦闘スタイルが出来る。そして楽しい。やっぱりデッカイ武器は思いっきり振り回さないとな。
「いい笑顔ね」
「本当に生き生きしてるな」
テンション上がるぅ!お前らなんぞ、肉にしてお婆ちゃんへの晩御飯にしてやんよ!!
「いやぁ、いい戦いだった」
楽しくって顔がツヤツヤしてしまうな。
「ほとんど澪1人で狼倒したわね」
「殲滅力があることはいいことなんだがな」
「「釈然としないものがある(わね)」」
離れた位置が光って黎が出てきた。
「いやぁ、どうして皆一緒に来ないんだい?おかげで死んでしまったよ」
随分爽やかに出てくるなぁ。おい。
「おっ?」
一言言ってやろうと思ったら白桜に止められた。
「ちょっとこのゴブリンと話してくるから少し時間をくれるかしら?」
なんか闇のオーラみたいなの出てるんですけど。俺と虎ちゃんは黙って頷くことしか出来なかった。
「白桜、君は魔法使いなんだから援護するな……」
白桜が黎の胸倉を掴んで顔を近づける。
「ちょっと、ツラ貸せ」
声ひっく!どこからそんな声出してんだ白桜。黎の顔色が青通り越して白くなってるんですけど、どんな表情してんだお前?
「連れてかれたな」
「あぁ、連れてかれた」
「虎ちゃん」
「なんだ?」
「俺白桜のことあんまり怒らせないようにするわ」
「奇遇だな。俺もそう思ってたところだ」
あいつ怒るとあんなに怖いんだな。付き合い長かったけど初めて知ったわ。
10分ぐらいお話し合いすると白桜が戻ってきた。すっごい笑顔で。
「待たせたわね。さぁ、森に行きましょう」
俺と虎ちゃんは黙って敬礼をする。
「何してるのよ。さぁ、行くわよ」
俺たちには笑ってるけど、黎に対してだけ声が低かったんですけど。黎は何度も頷いている。今日2度目のOHANASIAIはどんな事を話したんだ?興味はあるが、まぁ実際は怖くて聞けないな。
東の森が見える所まで来たな。あれから何度か戦闘があったが何も問題はなかった。黎がちゃんとヒーラーしてた。ただ白桜が時々視線を向けるとビクってしてるけどな。
そういえば気になることがあったんだ
「魔法使いの白桜さんや」
「何かしら?」
「森の中で火の魔法とか使って森が燃えたりしないのか?」
よく転生モノのラノベとかで森で火魔法使って大惨事みたいなのがあるじゃないか。
「特に森で使ってはいけないみたいな話は聞いてないわね。掲示板とかでも書いてないから大丈夫じゃないかしら」
「そうか」
そこら辺はゲームだからか。確かにフィールドで魔法の制限があったら魔法使いは厳しいか。その内制限付きのフィールドとかは出てきそうだけどな。
「あそこの端っこに木が一本だけあるから、あれに魔法を使って試したらどうだい?」
黎が言うように森の端っこに木が1本だけ離れて生えてるな。あれなら例え燃えても森に延焼はしなさそうだし問題ないか。
「よし、白桜。あれに魔法使ってみてくれ」
「仕方ないわね」
白桜が杖を構える。
「そういえば呪文とかないのか?」
こう厨二的なワード盛りだくさんのやつとかさ。
「回復魔法だとNPCのおじいちゃんは呪文を言ってたね」
「へぇ、NPCは呪文ありなのか」
「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅぐあ ふぉまるはうと んがあ・ぐあ なふるたぐん いあ!くとぅぐあ!」
「いあ!いあ!くとぅぐあ!」
「やめろ。それは下手すると都市とか国家がなくなるやつだから」
虎ちゃん。そのネタが好きなのは分かるけどSAN値が下がるから。そして黎よ。邪神を讃えるな。お前は一応僧侶って事になってるだろ。
「集中出来ないから止めてくれないかしら」
「「はい、すみません」」
謝罪大事。今の白桜にはとっても大事。
「ファイアボール!!」
木に向かって火球が飛ぶ。そしてぶつかる。
「………白桜婆さんや」
「何ですか?澪婆さん」
「ワシには木が燃えとるように見えるんじゃがね」
「そうですね。私にも燃えて見えますね」
「最近の木はよう燃えるようじゃね」
「本当にねぇ」
「「ふぁっはっはっはっ」」
「何笑ってるんだい?木が燃えてるよ。早く消さなきゃ」
「あっ、ちょっと待て」
虎ちゃんが黎を止めようとするが、黎は聞かずに燃えてる木に向かって駆ける。
「虎ちゃん何か知ってるのか?」
止めたって事は何か知ってるな。
「あぁ、騎士団で聞いたんだがな。まぁ、まず燃えてる木をよく見てみろ」
虎ちゃんが言うように燃えてる木を見てみる。燃えてるよな。うん、よく燃えてる。木がウネウネしてるもんな。んっ?ウネウネ?
「あの木動いてないか?」
「そうね。私にも動いて見えるわね」
「あれは多分レッサートレントだな」
レッサートレント。木の魔物か。
「この森にはゴブリンの他にも幾つかモンスターがいてな。その一つがレッサートレントだ」
「そういえばいたわね」
白桜も知ってたのか。これだと知らなかったのは俺と黎だけか。
「レッサートレントは森の中でも見分けが付き易い部類らしいぞ」
俺はぱっと見分からんかったな。
「私もそう聞いてたけど意外と分からないものね。森に入ったら気をつけましょう」
俺も気をつけないとダメだな。
「しかしなぁ、レッサートレントは森の奥の方にいるやつで数もかなり少ないって聞いてたんだけどな」
「奥どころか若干森から出てたな」
「珍しい事もあるものね」
まぁ、森の奥でいきなり遭遇する前にこうやって見れたのは運がよかったな。森の奥で遭遇しても絶対気付かない自信があるぞ。
「で、あの黎はどうする?」
あっ、火が消えそうだな。どうしよう。黎に注意を促すべきか否か。
「丁度いいトレントの攻撃モーションを確認しよう」
「そうね。丁度黎が近くにいるんだしね。私たちはじっくり観察しましょう」
なんて事だ。2人は黎を囮にしようとしているじゃないか。そんなお前らに言える俺の意見はこれだ!
「異議なし」
黎よ、俺たちのために犠牲になってくれ。
「えっ?火が消えた?」
黎の目の前で火が消えたな。タイミングよし。トレントが枝を鞭のようにしならせているな。威嚇か何かか?
「えっ?えっ?これはどういう事だい?」
急に火が消えて出てきた木に威嚇される。それは驚くよな。驚くけどさ、モンスターを目の前にずっと惚けるとヤラれるぞ。
「おぶぅっ!!」
うわっ、枝ビンタだ。あれは痛そうだな。
「枝は同時には2本しか動かないみたいね」
「枝がしなってるけど伸びることはないみたいだな」
ボコられる黎を見ながら冷静に観察する2人。黎ボコられてるな。あっ、やられた。
「一撃のダメージはデカそうだな」
「そうね。可能なら遠距離から闘う方がいいわね」
移動自体は遅いみたいだな。まぁ、機敏なトレントとか嫌だけどさ。
「よし、次俺の番な」
バトルアックスを構える。ちょっと一つ思いついたというか試したい事がある。
「いや、別に1人ずつ行かなくても3人で行った方が良くないか?」
「あれに私がここから魔法当て続けたら終わる気がするけど」
「俺がやられたらそうしてくれ。じゃ、ちょっと行ってくる」
「ちょっと澪っ!」
レッサートレントに向かって走る。レッサートレントが枝をウネウネさせている。流石にリーチはレッサートレントの方が長い。枝を振り回してくるが問題なく避けられる。やや変則的な動きはしているがそこまで早くもない。これなら狼と闘う方が大変だぞ。
さて、俺の思いついた事はだ。俺のアーツに木特攻なんじゃねっていう名前のやつがあった。それを使ったらどうなるのか気になりましてな。なのでそれを今から試してみたいと思います。せーの。
「ウッドブレイカー!!」
レッサートレントに全力フルスイング。おっ、攻撃が当たった時のエフェクトがクリティカルとも違うのが出たな。
そして光になるレッサートレント。予想が当たったっぽいな。流石俺。ナイス閃きだ。
「一撃で倒したけど何をしたんだ?」
虎ちゃんと白桜が近づいてくる。
「いや、アーツで植物特攻みたいな名前のやつがあったから試してみた」
「その結果があれ…ということね」
白桜がレッサートレントが光になった場所を見つめている。まぁ、そういうことだ。
「よし。森の中に入って行くか」
「念願のゴブリンさんとの初対面だな」
バトルアックスをブンブン振り回す。俺はいつでも準備OKだ。
「ゴブリン……。何か忘れてないかしら?」
「何も忘れてないだろ」
「俺もそう思うぞ」
「そうね、ごめんなさいね。さぁ、行きましょう」
では改めて森の中へGO!
「待ちたまえ。僕を置いて行く気か?」
「「あっ…」」
そうだった。我らのゴブリンさんを忘れていた。ナチュラルにヤラれていたからつい。
「よ、よし。全員揃ったし行くか」
「おー」
虎ちゃんの号令に俺と白桜が答える。
「君たち完全に僕を忘れていたね」
さて、なんの事ですかな。
「君たちは少し僕の扱い方が雑じゃないか?そもそも同じパーティなのに何故僕を見殺しにするんだい」
森に入ってから黎がずっと不満を言っている。どうしよう素で忘れていた負い目があるから何も言えない。
虎ちゃんが黎の肩を叩く。
「悪いな。お前があまりにも自然に死ぬから助けるって考えがなかった」
そしてトドメを刺す。いい笑顔だなおい。
「……それは流石に酷くないかい?他の2人はどう思ってるんだい?」
すまん。虎ちゃんと全く同じ意見でございます。
「君たち無言で視線を逸らすのは止めたまえ」
察して下さい。これ以上は君が辛くなるだけだ。
「遊びはここまでよ。出てきたわよ」
少し離れたところにゴブリンがいる。全部で7匹か。ちょっと数が多いか?お〜、緑色だ。大きさは俺と同じぐらいか。防具は腰にボロ布巻いてるだけだな。武器はボロッボロの剣だったやつだな。正直強くは見えないな。だけど街から遠いこんな森の中にいるんだ。弱くはないだろう。最初の戦闘だから油断しないで慎重に行かないとな。
ところで家のゴブリンは何してるんだろうと思ったら虎ちゃんに襟首捕まえられてジタバタしてた。お前はまたゴブリンムーブしようとしてたのか。虎ちゃんグッジョブ。虎ちゃんにサムズアップする。虎ちゃんもこちらを見てサムズアップしてくる。あんたいい漢やで。
ジタバタしている黎を白桜が睨んだら静かになった。ちょっと震えてる気がするけど気にしない。
ゴブリンが騒ぎ始めた。向こうもこちらに気付いたようだ。おっ、一直線に走ってくるな。本場のゴブリンムーブだ。黎と全く同じムーブだな。後でアーカイブで見比べて指差して大笑いしてやろう。
「アピール!!」
虎ちゃんが黎を投げ捨てて盾を構える。投げ捨てられた黎に哀愁が漂う。助けはしない。だが強く生きるんだぞ。
「ファイアボール!」
白桜の魔法を唱える。直撃したゴブリンが光になって消える。耐久力は低いみたいだな。消えたゴブリンを見て他のゴブリンが一斉に白桜に向かって走り始める。今の魔法で敵視が白桜に向いたみたいだな。モンスターによって敵視の貯まり方が違うみたいだな。これは敵視管理大変だな。頑張れよ虎ちゃん。
白桜の前に黎が立ってゴブリンの攻撃をガードしてる。おぉ、久々にまともな動きをしているところを見たぞ。服に泥がついてるのはこの際目を瞑ろう。虎ちゃんがもう一度アピールを使うが敵視は白桜に向いたまんまだな。うん、どういうシステムで敵視が向くのかよく分からんな。まぁ、俺は何も考えずに殴ろう。それが一番だ。
「うりゃあああ!!」
「よ、弱い」
あっという間に終わってしまった。ゴブリンすっごい脆いな。みんな一撃で死ぬんよ。自分から近づいて来て勝手に死んでくんじゃないかって思ったぞ、もうあれだ。昔の横スクロールゲームのボーナスステージみたいな感じだな。
一角ウサギより弱いんじゃないのか。なんでお前らこんな奥にいるんだよ。油断しないで慎重に(キリッ、みたいな感じで身構えてた俺が馬鹿みたいじゃないか。恥ずかしいなもう。
「この程度なら問題はなさそうね」
「そうだな。予想以上にゴブリン弱いわ」
これならまだ奥に行っても大丈夫だな。
「ただあれだ。今までと違ってアピールがあまり効果がなかったみたいだからそこは注意しないといけないな」
「そうね。私の装甲は紙だから複数で囲まれたらあっという間にヤラれるわね。気をつけないといけないわね」
魔法使いは囲まれたら終わりだからな。
「そこはサブタンクの僕が華麗に白桜を守ってみせようじゃないか」
何故そんなに自信があるんだお前は?
「不安ね」
「白桜に向かう奴を優先して倒すようにするか」
殴られる前に殴ってしまえば問題はない。
「君たち僕を信用してないな?」
「今のあなたのどこを信用すればいいのよ?」
「根拠のない自信はお前だけじゃなくて周囲も不幸にするからな。お前も大人なんだからしっかり自分を把握して物事を言え」
こいつは何でゲームだとこんなにゴブリンになるんだろうな。普段はもう少しまともなんだけどな
「まぁ、油断はしないで行きましょう」
「なぁ、いくら何でも数が多すぎないか?」
奥に進んだこともあるとは思うがゴブリンが絶え間なく出てくるんだが。一歩歩いたらエンカウントみたいな感じだぞ。どうなってんだ?1匹1匹が弱くてもここまで数が多いと流石に辛いものがあるぞ。
「澪はもう限界かい?僕はまだまだ余裕だっっぶぅ」
黎がゴブリンに囲まれてボコられている。無理するからそうなる。全く何で俺がお前のフォローをしなきゃならんのだ。
「本来俺が攻めてお前がフォローするんじゃないのか?」
黎の周りにいたゴブリンを蹴散らす。
四方八方からゴブリンが出てくるから気づいたら俺と黎、白桜と虎ちゃんに別れて戦う状況になっていた。
ちなみに白桜は虎ちゃんに守られながら危なげなくゴブリンを倒している。俺もそっちに行きたいんですけどいいですか?
「流石に厳しくなってきたな」
「ちょっとこの数は異常よね」
そう言ってる間にもゴブリンのお代わりが来てるぞ。
「これは戦略的撤退ってやつじゃないか?」
「これは撤退じゃないよ。後方に向かって前進するのさ!」
それは無能な指揮官が言うセリフ第一位じゃないですか。もうヤダこの子。
「もうそいつは(頭が)ダメだ。置いていこう」
虎ちゃんよ()の中身が普通に聞こえとるぞ。だが否定はしない。
「「「撤退!!」」」
「なぁ、前回の時も同じ終わり方だったよなぁ!」
東の森から全力で逃げる。
「これは締まらないわよね」
「普通はモンスターを倒して終わりっていうのが普通じゃないかい?」
「俺たちが集まると大体グダグダになるから、ある意味これが俺たちの普通の可能性はあるな」
虎ちゃん冷静に分析はしないでくれ。
「走って終わるってなるとあれだな。俺たちの旅はまだ終わらないみたいなテロップが付きそうだな」
本来ならモンスターから逃げるんじゃなくて夕焼けの海岸沿いとかを走るけどな。
「澪先生の次回作にご期待ください」
「次回作というか次の配信ね」
森の出口が見えてきたぞ。それにしても後ろのゴブリンどもがうるせぇ!一体何匹いるんだ?
「げっ?」
振り返ったことを後悔してしまった。何あの画面いっぱいゴブリンみたいな状況は?
「よし森から出れるぞ!」
何とか森から出られた。どうやらゴブリンは森から出てこないようだ。
「はぁ、どうやら助かったようだね。今日はもうここまでしようか」
「そうね。今日はもういいわ」
「よし、配信終了!!」
え〜、メニューから配信を出して終了ボタンをポチっと。
「にしても東の森怖いな」
「普通こんな状況になるか。普通に探索できるような状態じゃないだろ」
「何かのイベントをクリアしないと探索出来ないとかいうのかい?」
「もしくは何かのイベントがこれから起こるかもだな」
「ここで考えても分からないわね。丁度全員ギルドが違うんだからそれぞれのギルドで情報収集してみましょう」
「それが無難だな」
「じゃあその方向で」
今日はこれで解散!!
今回はレベルが上がらなかったな。どんだけ経験値低いんだよゴブリン。




