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舟運の大転換

 キエシャ伯爵領の領都セイから川船をチャーターして、一路上流を目指す。


 舟運を勇者こと、俺が潰そうとしているという噂は既に流れているらしく、周囲からの視線は厳しかったが、仮にも公爵であり勇者であり、そして隣にいる嫁が元魔王ということもあって、表だって刃向かってくる人間はいない。


 俺のために用意されたのも、貴族とかが乗るための特等の船だった。俺としては舟運は貨物専業と思っていただけに、旅客船があったのには驚いた。


「この航路では、旅客も?事前にもらった資料には、旅客輸送には触れられていなかったが」


 案内役の舟運ギルドの人間に聞いてみる。


「客船みたいなことはしていませんが、川沿いの住人のために、乗せられれば乗せるという形で乗せてます」


「じゃあ、旅客だけで運行することはないわけ?」


「いえ、祭りの日とか村が総出の時には、荷は乗せずに人だけ運ぶということだってありますよ。まあ、人を乗せるためではないので、万が一の責任は執らないというのが、暗黙の了解ですがね」


「なるほど」


 日本の森林鉄道でも、一部用いられた方法だ。本来は木材の輸送が専業だが、沿線住民やハイカーの便宜を図るため、条件付き(命の保証はしない)で乗客を乗せた奴だ。


 今では富山の観光名所になっているトロッコ列車も、元々は山奥のダム発電所の建設や物資運搬用鉄道に、最初は条件付きで乗客を乗せるところからはじまり、それが絶景を走る鉄道として、旅客輸送も本業とした。


 今回の場合は、鉄道ではなくそれが舟運でも起こったということだ。


「ギルド長。すまないが、この川沿いの村や集落の位置が一目でわかる地図はあるかな?なければ、簡単な概念図でもいい」


「はあ?探させてみましょう」


「よろしく頼むよ」


 その要求した地図が届けられたのは、船から下りて昼食の最中だった。


「お待たせしました公爵様。お望みの品をお持ちしました」


「ありがとう」


「・・・ねえ、あなた。一体今度は何をなさる気なの?」


 一緒に付いてきたアイリが、地図を覗き込みながら聞いてきた。


「うん。船頭たちの再就職先を斡旋できる方法が見つかってね」


「その方法て、なに?」


「一つは、観光だね。この川の風景はいい。これは観光に使える」


 現代日本でも景勝地の河を下る船は、しぶとく生き残っていた。このエミ川も見た限りは風景もいいし、流れる場所によっては急流下りもできる。


 川下りを観光の目玉に出来るし、それで地元の船頭の職にもなる。


 そしてもう一つが・・・


「それから、鉄道が通らない側の人たちを運ぶことだね」


 つまり、川を渡る渡し船の設定だ。橋を架ける技術や資金のない時代、川を渡るための渡し船はごく普通の存在だった。


 今回敷設予定の路線は、川の右岸側を走行することになっていて、左岸に渡る場所は殆どない。だから、左岸側の住民たちは右岸側の人々と違い、現状では鉄道にアクセスできない。


 そこに渡し船を運航すれば、左岸側の人たちも鉄道を利用できる。ついでに、この地域から離れたくない船頭たちも再雇用できる。


 一挙両得だ。


 あとは、実際に船頭たちを説得する仕事だ。


 いくら金を積んでも、良い条件を提示しても、動かない。そんなプライド高い人ていうのは、どこにでもいるからね。

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