鉄道の治安を守れ! 中
列車襲撃事件の数日後、俺はアイリや2人の子供たちを連れて王都直通の列車に乗り込んでいた。
子供たちとは、これまでも何度か列車を使って領内の視察や旅行に出かけているが、王都に向かうのは初めてだ。
王都に入ると、初めて見る風景に子供たちは興味津々とばかりに、目を輝かせる。我が息子と娘とあって、鉄道旅行を苦にしてないことは、本当にありがたい。
「随分と賑やかになったな」
以前は利用が芳しくなかった王都中央駅も、利用喚起策が奏功したのか、以前よりも明らかに利用者の数が多く、活気があった。
「それじゃあ、子供たちを頼むよ」
「はい、旦那様に奥様」
「ちゃんと、ルシアの言うことを聞くのよ」
「「あ~い!!」」
元魔族領からやって来た乳母に子供たちを任せて、俺はアイリとともに王宮へ。もちろん、その用件はモクロ国王への挨拶だ。
「陛下におかれましては、御機嫌麗しく」
「そう言う堅苦しい口上はいい。どうせまた、僕に何か頼み事だろう?奥方まで付き合わせて・・・なら、子供たちも連れてこれば良かったのに」
相変わらずのフレンドリーさ。こちらとしては、大助かりだけどね。
「子供たちは乳母に預けてありますが・・・良ければ、明日改めて連れて来ましょうか?」
「頼むよ。お前の子供とは、まだ会ってないからな」
「陛下も今年で23でしょ。そろそろ結婚されては?」
「何だお前まで、そう言うのか。僕としてはもう少し独り身を楽しみたいんだ・・・で、本題は?」
「はい。実は鉄道専門の警官隊を作りたいと思いまして」
「ほう。王立警察内部に、新たな組織を作る・・・ではないよな?」
「ええ。実は、自分のいた世界には、鉄道公安職員という職がありまして」
鉄道公安職員。通称の鉄道公安官の方が通りがいいだろう。終戦直後の治安が悪化した時期に創設され、国鉄解体まで活動した組織だ。国鉄職員から選ばれ、鉄道施設内での犯罪を取り扱い、その範囲内でのみ司法権を有していたのが特徴だ。
国鉄解体後は鉄道警察隊になったけど、これはあくまで普通の警察の中の一組織だから、同じ鉄道を守る司法組織とは言え、意味合いが全然違う。
で、今回俺が作ろうと考えたのは、もちろん前者をモデルにした仮称王立鉄道警備隊。鉄道公安官でもいいけど、こっちの方がわかりやすいだろうと思って。
もちろん、任務は鉄道車両の警乗に鉄道設備の警備に、鉄道敷地内で発生した犯罪への対処だ。
ただし、ここで一つ問題が発生する。それは、俺の鉄道会社は国鉄と直通はしているが、あくまで私鉄と言うこと。
そうなると、鉄道警備の組織を作った場合、あくまで私設の自警団となる。これは現在進める中央集権化に逆行することになるし、加えて捜査や司法権の執行範囲が狭められてしまい、鉄道警備隊を設立する意義が激減する。
そこで、王立での鉄道警備隊を作り、私鉄には分駐隊を置く、或いは地域毎の管区制にすれば、全国規模の鉄道網警備隊を作れるという寸法だ。
ただし、この場合既に内務省下にある王立警察や軍隊と競合する可能性が高い。
「そこで、国王陛下にとりなしをお願いできればと思いまして」
「いいぞ・・・ただし、お前の子供に会うという約束は破るなよ」
「御意」
この後、国王陛下の後援を得て内務省と国防省、それに鉄道省を回ること1週間、正式に王立鉄道警備隊の創設が決定した。
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