乙種輸送
甲種輸送という言葉を御存知だろうか?日本の鉄道用語で、工場から出荷された車両や、検査を終えた車両を目的地まで直接レールの上を走らせていく(走っていくじゃないよ)輸送のことだ。
時々山口県の工場から出荷された東京の地下鉄車両が、機関車に引っぱられて山陽本線や東海道本線を走る姿が見られるけど、あれのことね。
うちの会社でも、国営の車両工場で製造された機関車や客車、貨車の類は国鉄の機関車に牽引されて、オジリシ駅経由で、うちの車両工場まで運ばれてくる。
で、ここからが本題。甲種があるということは、乙種もあるんじゃない?と思ったそこのあなた。大正解!ちゃんとあるよ。と言っても、現代日本じゃ乙種輸送なんて見る可能性ほとんどないけどね。
乙種輸送と言うのは、貨車に積載する形で車両を運ぶ輸送のこと。昔は路面電車なんかを、この方法で運んでいたらしい。
しかし、現代ではトラックでの輸送が主になって、わざわざ貨車に鉄道車両を載せて輸送なんてやらなくなってしまった。
だが、ここは異世界。未だ道路は整備されず、まともなトラックもない。もし重量のある鉄道車両を道路で運ぼうとすれば、それこそ多量の馬車に、特注のポーター、さらには輸送路の整備が必要となる。
なので、小型車両を運ぼうと思えば、乙種輸送しかない。
その乙種輸送が、ヤマシタ鉄道開業2年目の夏に、初めて実施することになった。
今回運び込むのは、領内の森林開発のために敷設した森林鉄道用の機関車と貨車だ。
森林鉄道は、かつての日本にも全国に存在した森林開発のために敷設された鉄道のことで、軌間762mmのナローゲージの路線がほとんどで、伐採した木々の輸送や、林業に関わる人々の輸送、さらには道路が未発達な沿線住民の移動や物資輸送と、山間部の開発と振興に大活躍した。
昭和中ごろのモータリゼーションで道路が整備されると、次々とトラック輸送に置き換えられ、現代では保存用と森林保存のためのごく一部の路線を除き、現存しない。
しかし、この世界では自動車はまだ登場しておらず、木材の輸送は河川で流すか、輸送力の小さい馬でしかない。
という訳で、我がヤマシタ領内の森林開発に、森林鉄道を敷設することにあいなったのは、前にも説明したとおり。で、線路の敷設工事も進み、国鉄の車両製造工場に発注していた機関車と貨車が納品されることになったわけだ。
で、ただ走らせるだけじゃ勿体ないから1歳を過ぎて最近見る者聞く者全てに興味を持つ我が双子のツバサとツバメ、そして妻のアイリや彼女を頼ってやってきた魔族領出身の子供たちなどとともに、この乙種貨物輸送の列車の走行シーンを、沿線から見守った。
「お!来たぞ!」
「スゲエ!」
「貨車の上に機関車が載ってる!」
「ア~!」
「ダ~!」
子供たちは大興奮だ。うん、見せてよかった。
「今日から3日間、納品の乙種輸送列車が同じ時間に通るから、今日来れなかった友達にも教えてあげるといい。ただし、線路の中に入ったり、危ないマネはするんじゃないぞ!」
「「「は~い!!!」」」
うん、いい返事だ。
我が領地の未来は明るい。
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