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電化のはじまり

 トセの街にある俺の領主館は、街の外れに位置している。


 よく異世界もののアニメや漫画では、中世のヨーロッパのような城壁に囲まれて、街の中心部に国王や領主の住む城が聳えているという絵があるが、実を言うとこのルーレ王国ではそうしたスタイルの街はない。王都であるコウトにしても、王城は街の中心からややズレた場所にある。


 これはこの王国の都市が、基本的に敵による攻撃を受けたとしても、その防衛拠点として使うことを全く想定しなかったからだ。


 ルーレ王国は北と東の国境を旧魔王国と接していて、そして西側と南側は海や大河を挟んでいるため、直接隣国と国境を接しておらず、この方面からの侵攻を受けたことは皆無だった。


 つまり、国の防衛政策は基本的に旧魔王国に対するものだけでよく、だから国境の守備に重点が置かれていた。さらに言うと、魔王国との戦争も長い間国境付近での小競り合いに終始していた。


 そのため、各都市が城塞都市となる必要がなかったのだ。


 で、その街はずれにある領主館から少し離れた、以前は領軍の練兵場だった敷地に、今真新しいレンガ造りの建物が完成しつつあった。


 内部に入ると、巨大な機械類がほぼ据え付けを完了していた。


「いよいよ稼働だな」


「はい」


「我が領地の文字通りの夜明けだ。よろしく頼むぞ、所長」


「お任せください」


 間もなく完成を迎えるこの施設は、トセ第一火力発電所。そう、電気を作り出す施設だ。


 この世界では、電化はほとんど進んでいない。灯の主力はオイルランプかガス灯だ。


 そもそも、電気を利用した様々な道具や、発電方法を実質的に持ち込んだのは、俺だ。もっと厳密に言えば、俺が持ち込んだ地球からの資料による。


 そしてこの電気を利用した技術、最初に優先的に使用されたのは王宮のような高貴な身分の人々のため・・・なんてことはなくて、対魔族戦争に必要だった武器を量産するための工廠や、通信に必要な電信だった。


 戦争が終わったところで、ようやく王宮に近い場所の川で起こした電気で、王宮内の電灯を照らしたのが、民生使用の始まりと言える。


 そんなわけで、我がヤマシタ公爵領においても、電気は今のところ鉄道沿線に小規模な水力発電所(水車回して電気起こすアレね)があって、駅間の電信にだけ使用しているだけで、駅どころか街の灯もガス灯やランプだ。


 もちろん、現代日本から来た俺からすれば不便極まりない。せめて電灯が欲しいし、電話も欲しい。


 とは言え、電気なんて全く知らない世界の住人に「発電所建てるよ」なんて言っても理解されないので、領主たる俺が率先して自分の館で使うことにしたわけだね。


 ただこの第一発電所は、あくまで電気を試験的に街に引くための存在に過ぎない。本命は今後街の外れの荒れ地に建設予定の第二発電所。この発電所はトセの街の電化に加えて、いずれ走らせたい路面電車の電気の供給源にするという、俺の野望を体現する存在だ。


 ま、その野望の実現までは年単位のスパンが掛かるから、まずは第一発電所の稼動と安定した運転、そしてそれに合わせての、人材育成だね。



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