難民移送列車運転!
アイリから難民受け入れの申し出を受けてちょうど1週間のその日、俺はオジリシ駅でそれを待っていた。
「臨時列車入ります!」
「わかった」
懐中時計で確認すると、5分の遅延を生じていたが、まだ本数の少ない現在のダイヤなら混乱を来すほどではない。
駅員が伝えてくれたように、2両のタンク機関車に牽引された10両編成の列車がやってきた。いずれも初期のタイプの2軸式の小型木造客車、それも三等客車だ。
「こいつは・・・」
俺は客車を一瞥して、顔をしかめた。乗り込んでいる魔族(外見上はほぼ人間だけど)たちは、皆薄汚れて疲れ切った顔をしていた。悪臭も漂ってくる。
国境からここまで2日間走りどおしだったとはいえ、難民への援助はほとんどなされず、総督府は本当に送り出すだけだったようだ。
国鉄側のホームに入った列車は、ここで進行方向が変わるために、機関車の付け替えとなる。その間に、医療班が列車に乗り込んで重篤なケガ人や病人がいないか確認し、さらに救護班が最低限の飲み物を支給する。食事はこれから行く、ミライで摂らせる予定だ。
「後続の2本も既に出発しており、数分の遅延はありますが、こちらに向けて運行中とのことです」
「わかった」
国鉄の駅長の報告に頷いた。今回1000人の難民を輸送するのに仕立てた列車は計3本。軍用列車スジを利用したので、それぞれが3から5時間の間隔を空けて走って来る。
さすがにリアルタイムとは行かないまでも、鉄道電信によっておおよその運行状況は把握できていた。
「じゃあ、後続列車のことよろしく頼むぞ」
「は!」
こちらの駅長に、後続列車のことを託して、俺は機関車の付け替えを終えた輸送列車に乗り込んだ。
汽笛が鳴り、列車が動き始めた。車内はヒドイ悪臭に満ちていた。
この世界に来て多少なれたつもりだったが、それでも強烈なその匂いを誤魔化すように、俺は呟いた。
「こりゃ、返却前の清掃は大変だぞ」
列車はトセ方面に走っていくが、突如として森の中で停車した。そして、汽笛を鳴らした後、ゆっくりと進み、設置されて間もないポイントをそろりと渡っていく。
そして、しばらく進んだところでまた停車した。
「着きましたよ!皆さん降りてください!」
「はい!降りた降りた!」
うちの従業員の掛け声が響く。
「さ、皆さん」
「降りてください」
車内の医療班や救護班の人間も、乗客たちに促す。そしてようやく、彼らは明らかに怖々と言った表情で動き始めた。
まあ、見知らぬ土地への初めての列車での旅。しかも、かつての敵国へと来ている。怖くて当然だろうな。
彼女を呼んでおいて良かった。
「みんな、長旅疲れただろう!」
「魔王様!」
「魔王様だ!」
アイリの声に、それまで沈んでいた難民たちの空気が、一気に高揚していくのがわかる。
「私はもはや魔王ではない。この地を収める公爵の夫人に過ぎない。だが安心しろお前たち!公爵はお前たち全員を、同じ地に住むに足る民として迎えると約束してくれた!さあ、まずは風呂に入り汚れを落とせ!それから食事だ!」
難民たちから歓声が上がった。そして、俺自身感心してしまった。アイリには、確かに魔王としての威厳があった。
とは言え、彼女ばかりに任せてはいられない。難民輸送列車はこの後も来るのだから。
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