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追放された村娘に《魔神の瞳》は荷が重い  作者: 佐藤悪糖
2章 それでも、幸せになってほしい誰かがいるから
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2-17 生きてますか? それは生きてると言えますか?

 結局私は《瞳》の反動で意識を失ったわけだが、それについて申し訳なく思う気持ちなんてものはなかった。

 私の判断は正しかった。あの魔導人形をぶっ壊すには、結局のところ《瞳》の力を使うしかない。確かにアルタが何度も何度も死にながら殴り続ければいつかは壊せるかもしれないけれど、そんな苦しい戦法があってたまるか。いくらなんでも看過できない。


 そもそもなんなんだこの男は。なんだってそんな辛くて辛い真似をする。まったくもって理解できなかった。


「……アルタ」

「お、目が覚めたか」


 アルタは私を背負ったまま、広大な空洞の奥を目指して移動していた。

 第一迷宮の主は倒した。この道を進んだ先に、第二迷宮が待ち受けている。


「僕、どれくらい寝てた?」

「数十分。中々起きないから移動し始めたところだ」


 アルタが言う通り、さっきまでいた場所からそう離れてはいなさそうだ。迷宮内で数十分の気絶。やはり、《瞳》の解放は危なっかしい。


「降ろして。自分で歩く」

「もう大丈夫なのか?」

「いいから」


 まだ頭はめちゃくちゃに痛い。だけど私は一人で歩くことにした。体はふらついたけれど、知ったことか。


「おい、無理するな」

「うるさいな。大丈夫だって言ってるでしょ」

「怒ってる?」

「怒ってる」


 私たちは無言のまま、互いの顔も見ずに先に進む。歩調だけは揃えたままに。

 先に沈黙を破ったのは私の方だった。


「あんな風に自分の身を省みないやつは大嫌いだ」

「お前だって人のこと言えないだろ」

「アルタよりはマシだよ」

「おんなじことだよ」


 そんなことはわかってる。私だって、あの少年たちや妹のために、今回かなり無理をした。

 だけど私は、自分のために誰かが犠牲になるなんていうのが本当に嫌なんだ。そんなものを見せられるくらいなら自分が犠牲になったほうがずっといい。


「……はあ。面倒くさいやつだな」

「なんとでも言え」

「言っとくが、俺だって《瞳》使うのあんまりいい気してないぞ。お前はいつも突然に気を失う。今回だって危ない倒れ方をしそうになった」

「それについては悪いと思ってる。でも、嫌なものは嫌だ」

「独りよがりの変態マゾ」


 なんとでも言えとは言ったが、そこまで言われる筋合いはない。そこまで言われたら私だって怒る。


「なんだと馬鹿。えっと……馬鹿で、あほ。考えがない」

「罵倒のボキャブラリーなさすぎじゃね?」

「うるさいばーか! ばーか!」


 始まったのは子どもの喧嘩だ。仄暗い迷宮の奥底で、私たちはどうしようもない喧嘩をした。

 アルタは私のことをなんだかんだ情に流されるだとか、自己犠牲嫌いの自己犠牲野郎だとか、もうちょっと色々気をつけろだとか言った。私はアルタのことを馬鹿とかあほとか考えなしとか言った。心の底から不毛な時間だった。


「ったく、それでどうしてほしいんだよ」


 最終的に譲歩を勝ち取ったのは私である。大人の対応をされただけと言うかもしれない。どちらにせよ勝ちは勝ちだ。勝者の権利として、私はアルタに要求を突きつけた。


「あれ、もうやらないって約束して」

「それはできない」


 普通に断られた。勝者の権利とはなんだったのだろう。


「俺には、死んでもやらなきゃいけないことがある」


 それは……、まあ。

 そう言われてしまうと頷くしかない。こいつだって、好きで死んでるわけじゃないのは見ていればわかる。ただ、それが状況を打破する手段であるのなら、ためらいなく選択できるというだけで。


「でも、できるだけ死なないようにはする。それでどうだ」

「……約束だからね」


 そこが落とし所というやつなのだろう。私はそれで納得することにした。


「だからお前もあんまり《瞳》使うな。気絶するだけじゃ済まないかもしれないんだぞ」

「どういうこと?」

「先輩として教えてやる。俺はこの迷宮の遺宝(アンノウン)を使って六年間迷宮に潜り続けた。何回死んだかなんてもう覚えてないが、生き返って万事解決ってわけじゃないんだ」


 面白くなさそうに、アルタは呟く。


「味、あんましねえんだよ。何食っても」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 幻想種ってある種の異世界人だけど、迷宮のゲートキーパーとして死んだら補充されるの?
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