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追放された村娘に《魔神の瞳》は荷が重い  作者: 佐藤悪糖
2章 それでも、幸せになってほしい誰かがいるから
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2-9 本日のどん底は人肌くらいの暖かさ

「言っとくが、悪いことやろうと思ってやったわけじゃないぞ。ただ、俺がいると色々と悪いことがおきるんだよ。わかるだろ?」

「凶運のこと?」

「そうだ。運だなんだっつって我慢してもらうにも限界があるし、実際に被害も出しちまった。そうなると責任は取らなきゃいけないだろ。だから俺は犯罪者の烙印を押されて、国から追放されたんだ」

「……アルタって、六年前に探索者になったんだよね。今いくつだっけ?」

「歳は十八。国を追放されたのは十二の時だな」


 数奇なめぐり合わせだと思った。

 私は二年前、アルタは六年前に住んでいた場所を追われ、この街で探索者を始めている。そんな私たちがパーティを組み、今は二人揃って同じ場所を目指している。

 何か運命めいたものを感じて、よりにもよってこんな運命はごめんだと思った。どうせ運命ならもっと素敵なものがほしい。


「でも俺さ、どうしても国に帰りたいんだよ」


 アルタはいつになく真面目な顔で、どこか遠いところを見ていた。


「あの国には置いてきちまったものが山ほどある。名誉を回復したいとは思わんけど、過去はこの手で清算しなきゃいけない。そのためにも、呪いを解かなきゃいけないんだ」

「だから、遺宝を探してるんだ。何度も死にそうになりながら、六年もかけて」

「そういうこと。つっても、結局大したことはできなかったけどなぁ。なんとかやっていくだけで精一杯だった」


 そんな風に肩をすくめるが、彼の胸の内は伺い知れた。

 本気なのだろう。この迷宮という過酷な場で、六年も志を忘れないというのは、それだけの覚悟があるということだ。この男、腑抜けた顔のくせに中々大変なものを背負っている。


「……ん?」


 ふと頭にひらめくものがあった。祖国では犯罪者だったアルタは今、迷宮都市ガレナリアで身を潜めている。それも、あんなスラム街に近い場所にわざわざ宿を取って。


「あの、さ。アルタの宿って、たまに迷惑な客が来るって言ってたよね」

「察しが良いな。たまに祖国から追手がかかるんだよ。あの宿、気兼ねなく暴れられるから重宝してるんだ」

「毒について詳しかったのって」

「最近はそうでもないが、昔はしょっちゅう毒盛られてた。おかげで一通りの毒には耐性あるぞ」

「もう処分は下ったんでしょ? なのにそんなことされるの……?」

「俺に生きててもらっちゃ困る奴らがいるらしいんだよ。迷惑な話だよなー」


 迷惑どころの話ではなかった。十二の歳で国を追われて、今に至るまで命を付け狙われる。こいつ、一体祖国でどんな凶運をやらかしたんだ。

 気になりはしたけれど、踏み込むには覚悟が足りなかった。私の危機管理能力がそれ以上聞くのはやめとけと騒ぐのだ。


「つーかよ、お前の方はどうなんだ。なんで急にパーティ組む気になったんだ?」

「あれ、それも言ってなかったっけ」

「なんも聞いてない」


 私はアルタのことを謎の男だと思っていたけれど、それは向こうも同じなのかもしれない。私ばかりあれこれ詮索してしまったことを恥じつつ、私は前回の迷宮探索の最後に出会った、《外界》の超越者(オーバード)のことを話した。


「だから僕、《魔神の瞳》を手に入れたせいで、超越者になれってせっつかれてんの。迷惑な話だよね」

「なんつーか……。お前もお前で大変だな」

「わかってくれる?」


 各々事情はあれど、迷宮の奥まで行かねばならないという目的は一致している。大変なのはお互い様だ。


「なあルーク。俺らって、ろくな過去背負ってないな」

「そうだね。僕は村から捨てられて、アルタは祖国を追われた。で、流れ着いた迷宮都市でも、二人揃ってパーティから追放されてるし」

「順風満帆とはとても言えないよなぁ」


 それはそうだ。まったくもって人生ってやつはままならない。凶運と言うほどのものでもないが、私だって運の悪さは負けていないだろう。


「多分ここ、どん底だよ」

「だったらどん底も案外悪くないもんだ」


 そう言って私たちは笑い合う。

 不運組(ラック・ド・ラック)の名に負けないくらいに運がないが、神様を恨んだりはしない。だってそうだろう、私たちは探索者だ。

 探索者に神はいない。困難があれば自分の手で切り開くのが、探索者という生き様なのだから。

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