1-12 暴力はすべてのものを解決しろ。
「別に俺、打撃武器とか使いたくないし。だって俺剣士だし。剣士が剣を捨てるなんて、考えたこともなかったわ」
「はいはい、わかったわかった」
「それに棍棒とか大鎚とかってダセえじゃん。蛮族じゃないんだぞ。男の武器は両手剣以外ありえねえ。マージーでありえねえ」
「だからわかったってば。静かにしてよ」
衝撃の真実を知ってしまったアルタは散々にぶーたれていた。なんなんだお前。子どもか。
剣の鞘に大きめの結晶をくくりつけて、即席のハンマーを作ってみたらどうかと提案したのも悪かったのかもしれない。剣士の意地にかけてそんなことは絶対にしないと、すっかりむくれてしまったのだ。
即席の武器に命を預けるのもそれはそれで不安なので、あながち間違った判断ではないのだけど……。色々と不安な男である。
「要は斬撃よりも衝撃で攻撃すればいいんだろ? 別に剣だってそれくらいできるわ。ほら、やっぱ打撃武器なんていらないじゃん」
「あーもー。いいから黙る。これ以上騒ぐと本気で怒るよ」
「聞いてくれよルーク、やっぱ剣なんだよ。俺には剣しかないんだよ。剣を持たない俺なんて俺じゃないんだよ。わかるだろ?」
私は馬鹿に全力のデコピンを食らわせた。
「なにすんだ」
「泣き言言ったらデコピンするっていうルールだった」
「泣き言なんて言ってない」
「うだうだ言い訳するのは剣士らしいことなの?」
その一言が効いたのか、アルタはようやく黙った。やっと静かになった。まったく、もう。
すっかり緊張感が抜けてしまったが、気を引き締めなおして迷宮内を静かに進む。その後も見つけた罠を解除したり、迂回路を選んで回避したり、時には魔物を見つけることもあった。
「この先にまたいるよ。種類は確認できなかったけど、気配は一体。サイズは中型かな。ちょっと引き返したところに別の道があるけど、どうする?」
「やろうぜ。援護頼む」
「りょーかい」
アルタは間髪いれずに戦闘を提案した。この男、よほど剣にこだわりがあるのか、ムキになって水晶洞窟の魔物に通用する新技を開発しようとしているのだ。
想像を絶する馬鹿な男だが、剣の腕に嘘はない。傍目から見ていて羨ましくなるようなセンスで、魔物と戦いながら試行錯誤を繰り返す。
斬撃よりも衝撃を伝える剣技。果たしてそれは、数回の戦闘を経て完成した。
「必っ殺っ!」
アルタはクリスタルオオカブト――角と前翅が結晶化した全長一メートル強の巨大カブトムシ――の大角をひっつかみ、力任せにひっくり返す。
そして、拳を握りしめた。
「剣士ハンマーッ!」
露出した柔らかな覆面に、ガントレットの拳を叩きつける。縦に直線を引いたような綺麗な一撃。力任せにぶちこんだ一発は、クリスタルオオカブトの腹を貫通し、背中側の結晶にまでヒビをを入れた。
その一撃でカブトムシの動きが止まる。死んだようだ。他に敵影もないので、これで戦闘終了だ。
「これでまた俺の剣技に磨きがかかっちまったな……」
「あー。そうだね」
勝利の余韻に浸るアルタを、私は努めて無視することにした。
ツッコまない。ツッコまないぞ私は。それ剣なんも関係ないじゃんなんて言おうものなら、また面倒くさいことになるのは目に見えている。なんでもかんでもツッコミが貰えると思うなよ。私はそんなに安くない。
そんなお遊びができるくらいには、私たちは余裕を持って探索を進めていた。私とアルタのコンビネーションが、深層の魔物にも通用したというのは嬉しい誤算だった。
小技が多くて決定力に欠ける私と、やたらめったら強いが剣しか振れないアルタ。互いが互いの弱点をうまいこと補っている。
私たち、これで意外といいコンビなのかもしれなかった。
「アルタ。ねえ、あれ」
しばらく進むと、迷宮の壁を埋めつくす銀水晶に赤みが指し始める。奥に進むほど赤みは増していき、指を指した箇所はほとんど赤水晶と呼べるものだった。
赤水晶の通路には何度か来た覚えがある。上層に繋がる通路も近く、探索者がよく訪れる場所だ。ここならば、もしかすると私が知っている道もあるかもしれない。
「あっち行けば、出口に近づくかも」
「おう。帰ったら何食う?」
「気が早いなぁ」
帰ったらとりあえず甘いものを食べようと思う。迷宮の遺宝から得られた今のところほぼ唯一の知識によると、魔神は甘いものが好きらしいので。だからなんだという話なのだけども。
ひょっとすると、あの銀水晶の部屋で私が「帰ったら甘いものを食べよう」と言ったから、この遺宝は私を呼び寄せたのかもしれない。我ながらあまりにも馬鹿らしい推測だとは思うが、あながち冗談でもないのかもと半ば本気で考えていた。




