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私を婚約破棄した男と私を罵る妹が不幸なようですが、ポジティブな私は騎士から溺愛されましたので、二人が落ちぶれ切っているのに全然気づかない

掲載日:2026/02/07


さて、グローリア王国の宮殿の中庭の女王に君臨した私は、独身貴族の見本を見せつけていた。


私の仕事は翻訳でございますから、とっても働く時間は自由。


まるで全てに余裕があるがために中庭で紅茶を飲んでいるように見せかけて、実際割と余裕があるという現実を噛み締めることができる。


さて、中庭に最近よく現れるのが、ボール遊びをしている男の子。カイト君だ。


最近子供も、インドアでの遊びが多いと聞く。


ボール遊びをする人はカイト君くらいしかいないのだろう。


そして、紅茶をぼっちでこんなに楽しそうに飲むのだって、私くらいしかいないというわけだ。


私だってね、昔はこんな感じで楽しくやっていこうって思ってたわけじゃない。


けどね。


私はまず、妹に比べてしいたげられて育ってきた。


調子に乗った妹は、私を下げて自分の素晴らしさをアピールする癖がついた。


私は醜いと言われ…逆にポジティブになってやった。


他の人の評価なんかもう知らないもんね!


ってスタンス。


いやもうそりゃしょうがないでしょ。


別にちゃんとお仕事もして迷惑かけずに上品に生きて紅茶飲んでんだから文句ないでしょ?


「おばっ、お姉ちゃん!」


お、私への挑戦がやってまいりましたね!


カイト君のボールが私の方へ転がってきたのだ。


前にカイト君がその時私のことをおばさんと言いかけたので、私がボールを拾って強めに返球してやった。


それが結構いい球だったらしく、カイト君はそれからも、私の肩の強さを見せつける強い返球が欲しい時だけ、わざとおばさんといい間違えかけるのだ。


「いくよ! おりゃあっ」


「うおっ。めっちゃ速い! これなら、国対抗の球技大会に、ワンチャングローリア王国代表で出れるんじゃない?」


「残念だけど、私は翻訳家だから、その仕事しかしないの」


「もったいないなー」


「カイト君こそ、周りの子よりも身体動かしてるんだからさ、そういう選手とか目指したら?」


「僕は騎士になりたいからね。僕も選手は遠慮する。兄さんみたいに活躍する騎士を目指すためにこうして身体を動かしてるところもあるからね」


「ただ外で遊ぶのが好きだったわけじゃないんだ」


「いやそれもあるよ」


「あ、そう」


こんな感じで平和だ。


だから気づかなかった。


まずは私の妹が、落ちぶれ始めていることに。


それから少し経って、謎に噂を手に入れるのがうまいカイト君が聞いてきた。


「ちょっと前に、婚約破棄されたんだって?」


「よく知ってるじゃん。可哀想でしょ」


「まあね。でも相手の性格が悪かったら、別にいいんじゃない? いわゆる政略結婚だったんでしょ?」


「その通りね。だから私は結果的にこうして今日も中庭で紅茶を飲めてるっていうことよ」


「うんうん。僕の兄さんもね、政略結婚は絶対しないって言ってたから」


「そうね。ちゃんと好きな人と結婚するのが一番よ。仕事は別としてちゃんとやる」


私は思い出していた。


婚約破棄する時に、私が全部悪くてどうしようもないというせいにした男を。


その男は、ただ自分好みの女の子と浮気してもうそっちも結婚する気満々だっただけのくせに。



はあ。ムカつくわねー。


「そういやさ、別に僕がおばさんって言い間違えかけてない時でも、強くボール投げたかったらいつでも言ってね」


「え、いいの?」


「まあね。思いっきり何かを投げるって、大人になったらどんどんやる機会なくなっていくんでしょ? なら、僕が機会を提供してあげようと思って。中庭の幹部同士のサービスってことでね」


「ありがとう。中庭の幹部かあ…」


「そう。だから今は幹部会議中ってこと」


「いいね。これからはそういう扱いにしよう」


そしてその後何回かボールを思いっきり投げた。


カイト君も思いっきり投げてたけど、私ほど速い球ではなかったわ。


まだまだ、少年には力でも勝てそうね。



それからしばらく経って。


どうやら、カイト君のお兄さんが宮殿に来るらしいってなった。


「え、お兄さんって、どんな人なの?」


「そりゃめっちゃ力持ちでかっこいいよ。だって活躍してる騎士で、次期団長候補だもん」


「凄いわねー。体とかも結構鍛えてるのかしら?」


「もちろん筋肉ムキムキだよ。もしかして身体鍛えられてる男がタイプなの?」


「そりゃそうでしょ。ていうか、そうじゃない人とかいるの?」


「知らん。けどそれなら、兄さんと結婚すれば? 兄さん友達男しかいないよ多分」


「ええっ」


「うん。あ、でも最近は活躍してるから、流石に各方面からモテてるのかな」


「そうだと思うよー」


「うーん。どうなんだろう。まあここに来た時に直接聞こう」


「そ、そうだね」


「もちろんお姉ちゃんも同席で」


「こんな時だけそんなね、スムーズにいきなりお姉ちゃんって言っても…」


「いやいやうちの兄さん、お姉ちゃんみたいな人タイプな可能性結構あるよ。腕力ある人好きだし」


「てことはボールを投げるのが速いのがいいことって意味?」


「正解。まあでもアピールできるのはそこくらいかなー。とりあえずは」


「私の取り柄、ボールを速く投げられる腕力がある…」


「いいじゃん!」


「いやそれって女性っぽくないじゃん」


「今そういうこと考える時代じゃないらしいよ」


「あ、そう…流石若者ね」


さらに数日経って。


「兄さんが帰ってくる日が決まったよ」


「ほんと? いつになったの?」


「五日後だよ」


「へえー楽しみだね。そういや全然関係ないんだけどさ」


「うん」


「私の紅茶、飲んでみる?」


「いや、いい」


「あ、そう」


「僕は隣の国からたまに輸入してるらしい、シュワっとした茶色いジュースが好きなんだよ」


「そんなのあるの?」


「たまに宮殿の西にある市場で売ってるよ」


「へー」


「それ以外は基本的に僕は水しか飲まないからね」


「健康的ね」


「紅茶も健康的なんじゃないの?」


「そこそこ健康的だけど、少し眠りにつきにくくなるよ。夜遅く飲んだらね」


「それはそれで兄さんがハマりそうだ。兄さんは眠くなる限界までトレーニングをすることがあるからね」


「鍛えすぎ…」


「確かにね。僕が将来騎士になっても、そこまで努力できる自信は全然ないよ」


「といいながら、いざ将来騎士になったらお兄さんに負けないくらいトレーニングしてそう」


「そうかなあ…」



やがて、五日経った。


「けどわお兄さんはまだ来ないんだ」


「うん。途中で税金を宝石に換えて横領しようとしている集団を見つけて、捕まえてたんだって。だから一日遅れるってさ」


「旅の道中でも活躍するのね」


「そうさ。だから尚更誇らしい兄さんってわけ。しかも兄さんが一番の親玉を捕らえたらしいよ。だから宮殿に着き次第表彰されるんだって」


「すごいじゃん。私も見に行こうかな」


「おいでよ。その時僕の親友って紹介してあげる」


「私をお兄さんに?」


「うん。そういうこと!」



そして翌日。本当にカイト君のお兄さんは表彰されていた。


その後、本当にカイト君と親しげに話していたので、正真正銘のカイト君のお兄さんだ。


あ、カイト君が全部嘘でお兄さんとかいなかったとか思ってるわけじゃないよ。


でも、あ、ほんとなんだなあと思った。


で、カイト君のお兄さんに関してだけど、めちゃくちゃイケメンすぎた。


カイト君は美少年なんだけどね、それが男らしくなって強そうになった感じ。


やっぱり私、カイト君の友達としておばさんポジションなのに登場していくのだいぶキツいでしょ。


「あ、この人僕の親友で、中庭でたくさんしゃべってるんだ」


「そうなのか! 弟がお世話になっています」


え、ちょっと待って。


いつの間にかお兄さん本人が私の目の前に来てるんですけど。


「あっ。あのー、よろしくお願いします!」


「とても素敵な方ですね」


「あっ、そ、そうでしょうか。そうだとしたらとても嬉しいです!」


「名前はなんというんですか?」


「あ、名前はね! あれ?よくよく考えたら僕もおばさんかお姉さんとしか呼んでないぞ」


カイト君が驚いていたけど、そういえば名前を教えた覚えがない。


「私はローナって言うのよ」


「へぇ。僕はカイト君」


「それは知ってるわい」


「そうだった。で、兄さんが…」


「レイトです。どうかよろしく」


「カイト君にレイトさん。兄弟っぽいですね」


「いつも言われます」


好青年の代表例イラストの撮影会かと思うほどの笑顔を、レイトさんは見せた。


すごい丁寧な雰囲気。穏やかそうだけど、これで騎士として活躍もしてるって、器が大きな男性すぎる。


「じゃあ早速兄さんに特技を見せよう」


「えっ」


「このお姉ちゃん、腕力が強いんだよ」


「いやいや! 冷戦に考えたら、騎士の目の前で力自慢するほど痛々しい行動は…やばい!」


「僕は興味あるんだけど…なんなら、女性の騎士として勧誘したいくらい」


「き、騎士に応用できる力強さではないです! あ、あの…カイト君のボールを速く投げられるっていう、そういう系の腕力でして…」


「なるほど、ぜひ見てみたいな」


「そ、それなら…じゃあいつも通りのイメージで、ボールを中庭に…」


「はい、ボールどうぞ」


カイト君からボールを受け取る。


私は力を込めた。


ボールは素早く向こうの方まで行った。


「おおー。確かに、騎士でも中々見ない力強さです」


「でしょ? 兄さん、このお姉ちゃん逞しいよね?」


「うん。じゃあ今度は僕もボールを投げてみようかな」


「おっ。流石兄さん!」


そして、向こうに行ってしまったボールをカイト君がすごいスピードで拾いに行った。


で、帰ってきて、レイトさんにボールを渡した。


そしてレイトさんが、ボールを投げると…。


ぶおおおん!


え、なんか風吹いたけど!


え、ボールが、この場から消えた…。


「すごい…」


「兄さんの力は世界トップクラス!」


カイト君がとても自慢げである。



そういえば、なぜレイトさんたち騎士団が宮殿に来たかというと、束の間の休暇らしい。


中庭でゆっくりするお仲間が一人増えた。


「兄さんたち騎士団は、道中で二回も悪者を捕まえたんだよ」


「あれ、一回は表彰された…」


「はい。税金を宝石に換えて横領した人たちを捕まえた件です。それに加えてもう一つ、表彰されるほど大きな事件ではありませんでしたが、盗みを働いた人がいましたので捕まえました」


レイトさんが説明してくれた。


「すごいですね!」


「しかし、この宮殿にいると平和で、悪者もいないですね」


「休暇なんだから流石にゆっくりしなよ」


カイト君の言う通りだね。


でもレイトさんは物足りないというか、正義感の使い所を探しているというかって感じで、なんと、宮殿の一番北にある裁判所に興味を示し出した。


「そこで僕が捕まえた人たちとかの裁きが行われているかもしれない。それを見に行こうかなと」


「また仕事モードになっちゃうからやめておきなよ。ねえ、お姉ちゃんもそう思うでしょ?」


「まあ、思うね。けど…」


「え、もしかしてお姉ちゃんも行きたいの?」


「いや、全然行きたいと思ったことはないはずなんだけど…なんとなく、今見に行くと、とてもスッキリする予感がするの」


「なんで?」


せっかく立て続けにお姉ちゃんと呼んでくれたのに、カイト君が、私を謎のおばさんを見る目で見てきた。


「わからない」


私はそう答えた。ほんとにわからない。ただの勘100パーセントの予感。


「まあ気のせいでしょ」


カイト君はそう私の予感を片付けた。


「それより兄さん、市場に行こうよ。多分でかい肉売ってるよ」


「…そうだな。今は世の中が平和だと思うことにしよう。休暇だからね」


レイトさんはそう弟に笑った。


「仲良し兄弟だねえ」


「まあね。あ、でもお姉ちゃんも着いてきてね。僕、お姉ちゃんがいつもそこで紅茶の葉を仕入れてるの知ってるんだから」


「私も行くの? じゃあせっかくだから私も紅茶を仕入れることにするわ」


そしてその日は市場に行き、私は素晴らしい紅茶のラインナップを軒並み揃え、兄弟たちは、レイトを迎えて祝うのにふさわしい大きなチキンを買っていた。


だから忘れていた。


なんか見るとスッキリする予感がしていた裁判があったことを。


裁判というのは一回目から最終の判決が出るまでに結構日にちがある。


なので私が次に裁判のことを思い出した時には、さらにあたたかい気候になっていて、レイトさんの休暇の終わりが近くなっていた。


「それにしても、ローナは面白い人ですね」


カイト君とのキャッチボールに付き合ってあげていたら、見ていたレイトさんがつふやいた。


「私、面白いのでしょうか」


「そりゃあ。出会ってからそう思うことだらけでしたよ。そんなにいつも身体を動かしているけど、仕事は翻訳という繊細なものだし」


「逆に仕事が動かなさすぎるから、中庭で外の世界に触れているのよ」


「納得しました。ところで急なのですが…僕が休暇を終えて宮殿を出る時に、あなたにも着いてきてもらうことはできますか?」


「カイト君じゃなくて、私ですか!?」


「はい。あなたと旅をしながら騎士団としての任務を遂行できたら、本当に幸せです。もちろん僕のわがままですが…」


「いいえ。わがままじゃないわ。だって私もレイトさんにお供したいですもの。大丈夫よ。郵便さえ届けばどこでも翻訳の仕事はできますから。それに私も結構力強いですしね」


世界一空気が読める美少年のカイト君が合図をしてくれたので、私は思いっきりボールを投げた。


多分自己ベストの投球だった。


「カイト君はお兄さんに着いて行かないの?」


「うん。僕はここの学園で研鑽を積みたいからね」


「中庭…もうあんまり来なくなるかも…」


「確かにお姉ちゃんがいなくなるのは寂しいけど、今度は俺が中庭のお兄ちゃんになって見せるさ」


「うん。頼もしい弟だ」


レイトさんが感心していた。


こうして…私はレイトさんにお供することになった。



 ☆ ◯ ☆



そして私はレイトさんとあちこち周り、レイトと親しげに呼べる関係…ううん、さらにそれ以上の関係になった。


婚約したってこと。


レイトはいっつも変わらず騎士団として活躍することに重きを置いているけど、将来子供ができたら子供に尽くすと宣言している。


そんなレイトの休暇がまたやってきた。


宮殿に私も久々に足を踏み入れると…


「おばさん! いやまだお姉ちゃんでも大丈夫そうか」


「投げるボールがないんだけど!」


その代わり、カイト君はすごく背が伸びて、好青年っぽくなっていた。


そして…


「レイトはね、今回もなんとまた道中で悪者を捕まえたのよ」


今回は私が先に知ってる側。なんてったってその場にいたんだから。


あ、そういえば今回も裁判を見に行くとかいい出さないかしら?


というか…久々に思い出したんだけど、前に裁判を見に行くとスッキリする予感がしたことなかったっけ?


あったよねー。


その予感、今回はしないわ。


あれはなんだったんだろう?


 ☆ ◯ ☆


その頃、少し前に裁判で有罪判決を受けて、牢獄で罪を償っている人たちがいた。


一人は、婚約予定者がいるのに浮気をして婚約予定者には偉そうなことを言って婚約破棄。


でもその浮気相手が悪い女で、そそのかされて税金を宝石に換えて横領したら、捕まってしまったとのことだ。


もう一人は、姉を散々馬鹿にする性格の悪い人。盗みを働いて捕まったんだけど、余罪が多すぎて重い罪になったとのことだ。


お読みいただきありがとうございます。

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