第65話「同室」
寝室には、元々来客用に用意されているのかベッドが二つ置かれていた。
何故か楓花は舌打ちを打っていたのだが、気にしないでおくことにした。
まぁ他には何もないし、何より疲れ切った俺は明日に備えて早く眠ることにした。
「じゃあ楓花、疲れたから寝るわ」
「え?」
いや、え? ってなんだよ。
信じられないものを見るように驚く楓花。
何故寝室で寝ると言っただけで、そんな反応をされなければならないのだ。
だから俺は、そんな楓花は放っておいてさっさと眠ることにした。
「じゃ、おやすみ」
そう言って布団に潜り込む。
すると楓花は、不満そうにしながらも隣のベッドに腰掛けた。
それを確認した俺は、横になったせいか一気に眠気が加速するのを感じる。
――ああ、これはやっぱりすぐに眠れそうだな……。
そう思いながら目を閉じていると、楓花も諦めたのか部屋の電気が消された。
――まぁ楓花的には、もうちょっと遊びたかったのかもしれないな。
せっかく遊びに来ているのだ、その気持ちも分かる。
そんな楓花にはちょっと悪いことしたかなと心の中で詫びつつも、疲れた俺は本格的に眠る体勢に入った。
ギシッ――。
しかし、何故か隣のベッドではなく、俺が横になるベッドが軋む音が聞こえてくる。
そして、ゴソゴソと掛け布団が捲られたかと思うと、そのままスルスルと同じベッドに入ってくる人物が一人――。
「――おい、もう一つベッドがあるだろ」
「――こ、これは仕方ないの」
「仕方ないって、何が?」
「――だって、わたしこういうところだと、寝れないんだもん」
ああ、そう言えばそうだった。
楓花は幼い頃から、旅行先とかでは中々寝れないタイプだったんだっけ。
だから楓花は、小さい頃はこうしてよく俺の布団に潜り込んできていたりしたのだ。
――って、もう高校生だぞ?
そう思ったけれど、疲れている俺にはそのことをどうこう言う気力は残されていなかった。
今ここで楓花を追い出す余力もない俺は、減るもんじゃないし、ここは仕方なくお兄ちゃんしてやることにした。
「――ったく、もう高校生なんだから、そろそろ一人で寝れるようにならないとな」
「はぁい、えへへ」
俺が受け入れたのが分かったのか、楓花は珍しく素直に返事をする。
こうしてしおらしくしていれば、可愛い妹なんだけどな――。
あぁ、駄目だ意識がもう……。
ギィ――。
すると、今まさに眠りに落ちようとしていたその時だった。
部屋の外から、小さな軋む音が聞こえてくる。
そして、まるで現行犯の取り締まりのようにばっと開かれた扉から、暗い部屋の中に廊下の明かりが差し込む。
「本当に寝てますね」
「ふえぇ」
「あらまぁ」
部屋に入って来たのは、言うまでもなく如月さん、星野さん、柊さんの三人だった。
どうやら三人は、心配になったのか部屋の様子をこっそり見に来たようだ。
そしたら本当に楓花が添い寝しているから、驚いている様子だった。
「もう、こっちはこれから眠るところなんだから、邪魔しないでよ」
「一緒に寝る必要ある?」
「だってそれは……」
「それは?」
「――わたしこういうところだと、一人じゃ寝れないんだもん……」
恥ずかしそうに、三人にも理由を打ち明ける楓花。
だから楓花は、あれ程までに俺と同じ部屋になりたかったのだろう。
その理由、そして恥ずかしそうに打ち明ける楓花の姿を前に、三人はポカンと言葉を失っていた。
「――ま、まぁそういう理由なら、仕方ないの、かもね」
「は、はい……」
「楓花さん、可愛い」
普段は絶対見られないその楓花のしおらしい態度に、三人とも驚いていた。
こうして、どうやら楓花は許されたようだった。
「だったら、不健全なことが起きないように見張りが必要。空いた方のベッドで私が寝ます」
「え、だったら私も!」
「うふふ、じゃあ私もそうしちゃいましょうかね」
「三人も無理じゃないかしら」
「あら、詰めれば眠れますよ」
そして三人は協議の結果、三人一緒に隣の空いたベッドで眠ることにしたようだった。
確かにセミダブルサイズはあるこのベッドなら、あの三人なら寝れないことは無いだろう。
そんなこんなで、結局全員同じ部屋で眠る事になった俺達は、部屋の電気を消して横になった。
隣のベッドからは、並んで眠る美少女達の楽しそうな会話が聞こえてくる。
そんな、まるで修学旅行の時のようにはしゃぐ彼女達の仲睦まじい様子に満足しながら、俺は今度こそ眠ることにした。
しかし、そんな俺の手をぎゅっと握ってきた楓花は、こっちに詰め寄ってくる――。
「――ねぇ、良太くん」
そして三人に気付かれないように、俺にだけ聞こえるようにそっと耳元で囁いてくる。
その口から洩れる吐息に、俺は思わずドキドキしてしまう――。
「――な、なんだよ」
「――今日はね、すごく楽しかった。友達と遊ぶのも、悪く無いなって思ったよ」
何事かと思えば、楓花は今日の感想をコッソリと俺にだけ教えてくれたのであった。
その言葉が聞けて、俺は純粋に嬉しかった。
これまでずっと一人だった楓花にも、こんなにも素敵な友達が出来たのだ。
そして楓花の口から、こうしてちゃんと楽しかったと聞けたことが嬉しかった俺は、楓花の方に身体を向ける。
「――そうか、良かったな」
そして嬉しくなった俺は、そう言って楓花の頭を優しく撫でてやった。
「――うん、だからお兄ちゃんもありがとうね。おやすみ」
暗闇の中でも、楓花が嬉しそうに微笑んでいるのが分かった。
――うん、おやすみ楓花。
こうして俺達は、気が付くと一緒に眠りに落ちていたのであった。
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