第60話「BBQ」
「それじゃ、早速始めましょうか」
荷物を運び終えリビングで一息ついたところで、そう言って柊さんのお母さんが準備に取り掛かる。
これから始めるのは、もちろん今回の主目的であるBBQ。
とりあえず、柊さんのお母さんが予め買い揃えておいてくれていた食材をテーブルの上に並べる。
肉、野菜、そして魚介類と、正直この人数にしてはちょっと多いように思える食材の数々。
しかもその一つ一つが、素人目でも分かるほど良い食材の数々で、これからこれを食べれるのだと思うだけで途端にテンションが上がってくる。
「りょ、良太くん……。これ、シャトーブリアンって書いてあるよ……」
「あー、あれな、知ってる知ってる。昔よく食べてたわ」
「そういうのいいから」
俺の下らない見栄張りより、その普段は滅多に食卓に並ぶことのない高級なお肉の方が気になる様子の楓花。
それは如月さんや星野さんも同じで、美少女三人が興味深そうに並べられた食材に見入っている姿は、ギャップというか何というか、自然体な可愛さが感じられるのであった。
「今日は麗華のお友達が一緒だって言うから、お母さん気合入れて買いすぎちゃったの。残しても勿体ないから、みんな遠慮せず食べちゃってね」
「「はい!」」
そんなお母さんのフォローもありつつ、早速楽しいBBQの準備を開始する。
まずは作業分担。
普段から炊事になれている柊さんとお母さん、そして家で料理をするという如月さんの三人が食材の下ごしらえを担当し、それから星野さんはお皿を並べたり飲み物の準備に回った。
その結果、残った俺と楓花の二人で、火起こしを担当することとなった。
まぁ火起こしと言っても、こちらも予め用意してくれていた木炭を焼き場に並べて、あとは着火剤で火を付けるだけだから、ちょっと熱い以外どうということはない。
まぁでも、これは男の仕事だよなと思いながら、俺がせっせと火を起こしている真横で、楓花はその様をただしんどそうに隣で見ているだけだった。
やはりここでも、残念ながらうちの妹の干物っぷりは健在なのであった。
「――良太くん、楽しそうだよね」
「ん? そうか? まぁ楽しいよ。こうしてると、今BBQしてるんだって感じがするな」
「ふーん、だからわたしとは話さなくても楽しいんだ」
「なんだよそれ、いじけてんのか?」
「別にそういうわけじゃないけど――馬鹿」
「うぉ!? お前、火扱ってるんだから叩くんじゃねーよ」
「ふんだっ」
今の会話の何が気に食わないのか、いきなり不機嫌になる楓花は、火を起こしている俺の背中を叩くとそっぽ向いてしまう。
何にそんな不機嫌になっているのかは分からないが、とりあえず一つ言えることは、お前も突っ立ってないで少しは手伝えって話だった。
◇
準備が整い、いよいよ念願のBBQ開始。
男の俺は、率先してみんなのために肉や野菜を焼き、そして焼けた物からバランスよくみんなに配っていた。
「わたしも手伝う」
すると、そんな俺に気遣ってくれたのか、とことこと近寄ってきた如月さんが一緒に焼くのを手伝うと申し出てくれた。
相変わらずの無表情なのだが、それでも今を楽しんでくれていることは伝わってきた。
「お、ありがとう助かるよ。熱くない?」
「全然大丈夫――あつっ!」
「ほら、たまに肉の油が跳ねるからさ。大丈夫、火傷してない?」
「へ、平気」
口では平気と言うが、やっぱり熱かったのだろう。
御自慢の無表情が少し崩れ、熱そうに少し表情を歪める如月さん。
その変化だけで、本当に熱かったことが窺えた。
「駄目だよ、火傷だったら跡になっちゃうよ、見せて」
「これぐらい平気――」
「いいから」
恥ずかしいのか、油の跳ねた箇所を手で押さえながら引っ込めようとする如月さんの腕を、俺は少し強引に掴むとグラスに入っていた氷を一つ取り出す。
それからその氷を、すぐに赤くなってしまっている箇所に当てて冷やしてあげる。
幸い、見た感じこの程度ならすぐに引きそうな感じだったから、如月さんの言う通り本当に平気だったかもしれない。
それでも、もしこの白くて綺麗な肌に痕でも残ったら大変だから、念には念を入れておいても決して損は無いだろう。
「あ、ありがとう……優しいのね……」
「どういたしまして。まぁ、これなら大丈夫そうだね良かった」
良かった良かったと思いながら、俺は返事をしつつ如月さんと笑って向き合う。
するとそこには、最早無表情ではなく、頬を赤く染めながら恥ずかしそうに俺から目を逸らす如月さんの姿があった。
――え、なにこれ可愛い……。
照れているのだろうが、普段はとことん無表情なだけに、そんな滅多に見せない恥ずかしそうな表情を浮かべる如月さんの姿に、俺は簡単にドキドキさせられてしまう――。
やはりギャップというのは、人の魅力をこうも増してしまうのかと一人感心していると、さっきからこっちをじーっと見られていることに気が付いた俺はその視線の元を振り向く。
するとそこには、やっぱりどこか不満そうにむすっと膨れながら、俺達のことをじっと見ている楓花の姿があるのであった――。
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