第51話「正体」
連れてこられたのは、何の変哲もないカフェだった。
でもこの中に、わたし以外の四大美女と呼ばれる人達がいるのかと思うと、流石のわたしでも少し緊張してきてしまう。
でも普段の無関心なわたしなら、きっともっと余裕があったはず。
それもこれも、彼にここまでずっとペースを乱されているからに違いない。
「どうする? このままみんなに紹介しちゃえばいいかな?」
「え、ええ――。でも、初対面なのだけれど大丈夫かしら」
「あはは、大丈夫だと思うよ」
彼は笑ながら、確認は済んだとばかりに店内へ入って行く。
もうちょっと待って! と正直引き留めたかったところだけれど、連れて来て貰った身の上のわたしはそんなこと言えず慌ててその後に続く。
そして向かったのは、店内の奥にある一つのテーブル席。
「あ、どうも」
「お疲れ様です、良太さん」
その席には、二人の女の子が談笑しながら先に待っていた。
一人はハーフだろうか、金髪碧眼の美少女。
肌は白く透き通っており、まるで作られたお人形さんのように欠点が一つもない容姿をしていた。
最早これは、遺伝子レベルで作りが違うと言えるだろう。
そしてもう一人は、サラサラとした黒髪ロングが特徴的な美少女。
こちらもその容姿には非の打ちどころがなく、そのうえどこか気品まで感じられ、一言で例えるならまさに和風美人といった感じの美しさだった。
そんな美少女二人が、こちらを振り向きながら微笑みかけてくる。
――なによ、これ……。
結果、驚いたわたしは言葉を失ってしまう。
そこには、本当にこれまで出会ったことのないレベルの美少女が二人座っていたのだ。
だから確認しなくても分かる、彼女達がわたしと同じ四大美女と呼ばれる存在なのだと――。
そしてわたしは、ようやく理解する。
わたしが――わたし達が、四大美女と呼ばれている理由を――。
自分より勝ってると思える相手と出会ったのは、恐らくこれが初めてだった。
それ程までに、彼女達の姿はあまりにも特別で美しいからこそ、一番がいないのだとこの目で理解する。
「……ねぇ、どちら様?」
すると、突如背後からまた新たな女性の声が聞こえてくる。
しかもその声は、どこか不機嫌そうで背筋が凍るような冷たさを帯びていた。
「ん? ああ、お前達に用があるらしくて連れて来たんだ」
しかし、その言葉にも彼は気にする素振りも見せず平然と返事をする。
つまりは、この声の主もこの場の関係者なのだと理解したわたしは、恐る恐る後ろを振り返る――。
その結果、わたしはまたしても驚きを隠せなくなる――。
栗色のフワフワとした髪に、少し青みがかった綺麗な瞳。
そしてその白い肌は陶器のように艶やかで透き通っており、例えるならば天から舞い降りた天使のような女の子がそこにいた――。
「ふーん、そう。何か用ですか?」
しかし天使は、やはり不機嫌なのだろうかわたしを品定めするように、その容姿に似つかわしくない素振りで声をかけてくる。
その独特な圧を前に、わたしは少したじろいでしまう。
――なに、この子……。
見たことのない美少女による謎の圧を前に、わたしは何て答えたら良いのか分からなくなり、言葉に詰まってしまう。
そんな経験も、これまでのわたしでは体験したことのない感覚だった。
けれど、ここで答えられなければ確かに何をしに来たと思われて当たり前のため、わたしは覚悟を決めて口を開く。
「――え、えっと、あなた達はその……四大美女と呼ばれている方々で合ってますか?」
「は? 四大美女?」
「え?」
――しまった。
もしかして、人違いだったのだろうか。
他の二人は、多分合っている。
けれど言われてみれば、ここにいる四大美女は二人であって、この子がそうだとは限らなかった。
でもそれならそれで、この美少女は一体何者なのだという話になるのだけれど――そう思っていると、案内してくれた彼が会話に割って入ってくる。
「ごめん、こいつはそういうのに疎いというか何というか……貴女の認識で間違いないよ。三人共そう呼ばれています。――それで、そろそろ自己紹介して貰ってもいいかな?」
「え? そ、そうですか。では――わたしの名前は如月愛花。東高に通う一年生で、皆さんと同じく四大美女の一人です」
自分で自分を四大美女と言うのは少し恥ずかしかったが、この場に限っては言葉にした方が分かりやすいだろうと思い敢えて口にしてみた。
すると、先に座っていた二人は納得するように微笑んでくれた。
きっとその容姿から察するに、彼女達が『大和撫子』と『聖女様』で間違いないだろう。
そうわたしが分かったように、二人もきっと同じことを思ってくれているのだろう。
けれど、もう一人は違った。
一人だけ、尚も何を言ってるんだというようにこちらを警戒しているようだった。
「……あの、何だかよく分からないんだけど、それで用とは?」
「ああ、ごめんなさい。一度、貴女達に会ってみたかっただけなんです。そしたら、彼がここにいるって案内してくれたので……」
慌ててあるがままを説明すると、彼女は今度は彼に対して不満そうな視線を向ける。
「――本当に、良太くんは次から次へと」
「いや、困ってるみたいだったから話を聞いてみただけだよ。そんな怒ることでもないだろ」
「ふんっ」
不貞腐れるように、怒ってそっぽ向く彼女。
そんな彼女の感情をはっきりとむき出しにする仕草に、思わず見惚れてしまっている自分がいた。
――ずるい。
そして何故だろう、そんな素振りを見せられたわたしは、同時にそんな感情も抱いてしまっていた。
自由にあるがまま振舞えていることに対して、少しだけ羨ましく思っている自分がいるのであった。
そんな彼女が、恐らくは『大天使様』なのだろう。
これまで、何故『天使』ではなく『大天使』と呼ばれているのか不思議に思っていたのだが、こうして実際に本人と会ってみれば、何となくその意味が分かってしまうのであった。
こうしてわたしは、見知らぬ男の子についてきた結果、他の四大美女と呼ばれる人達に出会うことが出来たのであった。
そしてそれはつまり、ここへ案内してくれた彼こそが――噂のエンペラーと呼ばれる彼と見て間違いないのだろうと、わたしはそこで確信する。
そんな四大美女と、エンペラーと呼ばれている彼。
わたしの心の内は、気が付けばすっかり興味で溢れてしまっているのであった――。
毎日7時・18時の2回更新!
もし良ければ、評価やブクマ頂けるととても励みになります!
評価は下の☆☆☆☆☆を、思われた数だけ★に変えて頂ければ完了です!
よろしくお願いいたします!




