第20話「一目惚れ」
他の三大美女の姿も確認すべく、俺は東中と南中へも足を運んだ。
でももう、三大美女に対して話しかけようとか、そんな己惚れた考えなどは全く無くなっていた。
なら、何故わざわざ足を運んだのかと言えば、それは何てことないただ興味本位だ。
他の三大美女と呼ばれる存在が一体どんな存在なのかと、この目でしっかりと確認しておきたかったのだ。
そして、いざ自分の目で確認した他の二人はというと、北中の大和撫子と同じく、自分では手の届かないと思える程の美少女達なのであった。
そんな存在を目の当たりにした俺はもう、そんな手の届かない美少女がこの町に三人もいるという現実に笑うしかなかった。
そしてそれと同時に、むしろうちの学校には三大美女なんて居なくて良かったとさえ思えた。
――彼女達は、毒だ。
一度目にしてしまえば、ほとんどの男はきっとその心を奪われてしまうだろう。
そしてそうなったが最後。惚れ込んだ男達は、決して叶わぬ恋に焦がされ続けないといけなくなってしまうのだ――。
人よりモテる俺でもこう思うのだから、その影響力は本当に恐ろしかった。
だから俺は、もうそれ以来三大美女には関わらないように生きていく事を決意する。
しかし、そんな決意も長くは続かなかった――。
何故なら、ついにうちの中学にも、彼女達と同格と呼ばれる女の子が転校してきたからだ――。
それは、三年生になって暫くした頃だった。
三年のこの時期に転校生がやってきたと、学年中で話題になっていたのだ。
最初は俺も、確かに転校生なんて珍しいなと思っていた。
だから俺は、クラスの友達と一緒にその話題の転校生がどんな人なのか、休み時間に軽い気持ちで見に行く事にした。
すると、一組の前には既に野次馬の人だかりが出来ており、その光景に俺は友達と目を見合わせながら驚くしかなかった。
それはもう、転校生がやってきたからという程度を優に超えており、やはり転校生には特別な何かがあるという事を意味していた。
そんな人だかりに紛れながら、俺は多少の緊張と共に、ついにこの目でその転校生の姿を確認する。
すると教室内には、まるで周囲には誰も寄せ付けないように、見た事のない天使のような美少女が一人ぽつんと席に座っていた――。
俺はその子を見た瞬間、全てを悟った――。
あぁ、ついにうちの中学にも現れてしまったのか……と。
そう、その天使のような彼女からは、他の三大美女と呼ばれる彼女達しか持たない、特別な存在感があふれ出ているのであった。
それは、俺達平民では決して辿り着く事の出来ない遥かな高み――。
そして同時に、三大美女と呼ばれる存在と同じように、一目見るだけで侵されてしまう毒を帯びている危険な存在――。
それからというもの、彼女が有名になるのに時間はかからなかった。
すぐに人は、三大美女から四大美女と呼ぶようになり、彼女は『西中の大天使様』という異名を持つと共に、あっという間に周囲から崇められる絶対的な存在になっていた。
そんな同じ学校に降り立った天使を前に、俺はあれだけ警戒していたというのに、気が付くと彼女の毒にまんまと侵されてしまっているのであった。
廊下や集会などで彼女をこの目で見かける度、俺は気が付けばその姿を目で追ってしまうのだ。
そうして気が付いた時にはもう、俺は彼女に恋をしてしまっていた……。
人は彼女の事を、一目見るだけで好きになってしまう天使と言うが、全くもってその通りなのだから本当に笑えてくる。
あれだけ警戒していた俺でさえも、こうして簡単に恋に落ちてしまったのだ。
であれば、他の手放しの男子達からしてみれば、語るまでもないだろう。
だが、そんな当の大天使様はというと、いつも静かに自席に座っているだけで、まるで他人には興味が無いような、いつも儚げな存在なのであった。
そんな雰囲気も相まって、容姿だけでなく彼女が天使――いや、大天使様であるという印象を更に強めていた。
――彼女は一体、いつも何を考えているんだろう……。
物憂げな彼女の姿に、そんな事を考えてしまう。
それはきっと俺だけではなく、この学校全ての人が知りたいに違いないだろう。
プライベートは全くの不明で、誰とも仲良くしようともしない彼女は、その全てが謎に包まれている。
でも、別に不愛想なわけではなく、必要な声かけには応じるし、そんな中、時たま見せる微笑みは本当に天使そのもので、あの微笑みを一度でも見たが最後、それがたとえ女子であっても心を奪われてしまう。
それ程までに、突如うちの学校へやってきた四大美女の一人は凄まじかった。
そして俺は、結局最後までまともに彼女――風見楓花さんと会話をする事すら出来ないまま、中学を卒業したのであった。
幸いうちの高校には、四大美女は一人もいなかった。
だからもう、誰かに心を奪われる事は無いと安心をしたのだが……残念ながら、それはもう全て後の祭りだった。
何故なら俺はもう、既に彼女に完全に心を奪われてしまっているから――。
結果、彼女のいない学校というのは、もうそれだけで虚無であり退屈だった。
だから俺は、また彼女に会いたいと願いながら、今日も休日の街を一人で彷徨う亡霊のように出歩いているのであった――。
これも無駄な行いな事は分かっている。
何故なら、休日に彼女の姿を見た人なんて誰もいないからだ。
だからもしかしたら、あの存在自体が幻だったんじゃないかとさえ思えてくる――。
そして俺は、無駄な足掻きだよなと力なく笑うと、さっさと諦めないとなと自分を戒めながら帰宅するのを繰り返しているのであった。
だが、その時だった――。
目の前で、女の子の腕を男が引っ張っている光景が目に飛び込んでくる。
最初はカップル同士の痴話喧嘩かとも思ったのだが、その光景を見てとても驚く――。
何故なら、その腕を引かれている女の子は、俺がこうして街を彷徨っている原因である、風見楓花本人だったからだ――。
ずっと探し求めていた存在が、何故か目の前で知らない男に腕を掴まれており、そして声は聞き取れないが離して欲しそうにしているのだ。
その光景を見た俺は、自然に体が動きだしていた。
――助けなきゃ!
そう思った俺は、もう何も考えず二人の間に割って入っていた。
「おいお前、嫌がってるだろ。風見さんから手を放せよ」
そして俺は、男に向かってそう言い放つ。
普段は全く姿を現さないはずの彼女が、今日は何故かここにいて、そして見知らぬ男に襲われながら助けを求めているのだ。
だからこれはきっと、神様が俺にくれた一度きりのチャンスなんだと思いながら――。
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