苦悩の先
変態発生中につき注意されたし
まさかと言うべきか、それとも遂にと言うべきか……。ホームエリアでのロストを成し遂げてしまった。オタ丸が生産室にいなくてよかったぜ。
【ウォーキング・デッド】の効果を貫通したことから、あの光には最低でもあの一瞬で六回以上のダメージ判定があったという事になる。もう攻撃手段として使いたいくらいだ。
「うわぁ……」
生産室に戻ると、そこには見るも無残な有り様が広がっていた。爆心地である大剣を中心に、何もかもが吹き飛んでいて無事な設備は何もない。
ん? よく見ると壁に煤ではない汚れが……壁に影が焼き付いてる、だと⁉ なんちゅう威力だ……。下手したらホーム丸ごと消し飛んでいたかもしれない。
戦慄と共にそれを成した大剣を見る。とてつもない量のオーラを放ちながら、宙に浮かんでいらっしゃる。無論、無傷で。
「あれでぶっ壊れてないのか」
壊れてたらそれはそれで困るのだが、あらためて鳥さんの不滅の性質の強力さを感じる。さて、肝心の性能はっと……。
聖魂宿せし神越の滅竜霊剣 PM
ATK2000 魔性特攻・大 竜特攻・大
MND+400 LUK+200
HP自動回復・中 MP自動回復・中
剣霊の寵愛 強化成長(共鳴) 人剣一体 神餐八宝
要求ステータス
STR3600 INT300
理外の力を宿せし大剣
力無き者は近づく事すら許されない
神を越えんとする製作者の意思とオリハルコンのコーティングにより、大剣に宿る霊体と共鳴し成長する特性を得た
何故かニ"ャーーーーーッ⁉と叫びながら振るうと威力が大幅に上昇する。
そんなに強化されてないと思ったが、ここから更に育つのか……。あれ、要求ステータスが倍に跳ね上がってるけど、これ大丈夫なのだろうか?
ええっと……俺の今のLUKが、お?結構ポイント貯まってんじゃん。これを全部ぶち込んで3800ちょい。よかった、STR極振りなら割りと余裕……じゃない! これは【幸運の訪れ】の称号効果も合わせた上昇だから、普通にレベルアップするともっと低い数値になる。それと極振り勢的に地味に辛いのが、もう一つの条件のINT300だ。アルバスが俺と同じようなボーナスポイントの使い方をしていた場合、こちらの条件で装備不可になるかもしれない。
……。
…………。
………………。
……ま、まあアルバスは仮にもトッププレイヤーなんだし? き、気にしないでおこう。うん。たぶん俺よりずっとレベルも高くて、育てているジョブの数も多いさ! さあ!お次は固有能力の確認だ!
剣霊の寵愛は、使い手に対するティルナートの好感度に応じた永続的なバフ効果か。装備中ずっと続くのはシンプルに強いな。
次に強化成長(共鳴)、これはフレーバーテキストに書かれたまんまだな。ティルナートが育てばその分本体であるティルヴィング=オクタグラムも育つ。存在しない耐久値と合わせて、この大剣は生産職プレイヤー要らずの武器になった訳だ。
そして人剣一体。これはティルナートの好感度が一定以上の場合に使えて、ティルナートの持つスキルを装備者が、装備者のスキルをティルナートが使えるようになる。持っているスキル次第になるが、いくらでも邪悪なコンボが作れそうで羨ましい……。
最後の神餐八宝。これは合成に使用した俺の料理を喚び出せるようだな。狙い通りの強化が出来ていて満足だ。一つ気がかりがあるとすれば、料理のフレーバーテキストを確認し忘れた事くらいか。つい調子に乗ってクルャヌメメポスを使った料理も混ぜてしまったが、火を通したから無害な筈。ダメでもちょっと宇宙に意識がトリップするだけだから問題無い。無いったら無い!
剣の強化も終わったことだし、次は鞘の作成に移るとしよう。
材料は何時ものように世界樹だ。贅沢な事に、うちじゃ一番安定して手に入るアイテムだからね。
先ずは剣より一回り大きい形で鞘の外装を作成する。内側に例のブツを詰められるようにする為だ。
例のブツとは何か? これこそが今回の鞘造りの要となる最重要アイテムにして、神よりもたらされた究極の一品。男性信者人気ナンバーワンのウェネア様の爆乳をも完全再現する奇跡の素材! 保温型低反発柔らかスライム液24式……またの名を真・おっぱいクラフト君‼
名前から分かるように、神ですら何度もリテイクを重ねた末に産み出された極上のアイテムである。レシピを教えてもらっていながら、実際に作成成功するまでにかなり時間が掛かったものだ。
「ふむ……」(紳士的な眼差し)
これを鞘の内側に張り巡らせる訳だが、はたしてそれだけでおっぱいの感触になるのだろうか? そもおっぱいの感触とは? 疑問を解消すべく、おもむろにストレージからおっぱいマウスパッド・ウェネアモデルを取り出した。
「ふーむ……」(どう見ても紳士的な眼差し)
揉む。そこに躊躇いは存在しない。何故なら私は職人だからだ。顧客の求める物を作り出す為に、正確な知識が必要だからだ。
「ふむふむ?」(紳士的な職人の眼差し)
柔らかい。人肌の温もりも感じる。しかしどうだろう、はたしてこれは本当におっぱいの感触なのだろうか?
「ぬーん……」(もはや哲学者の如き紳士的な眼差し)
悲しいかな、俺は本物のおっぱいを揉んだ事がない。なのでこのおっぱいマウスパッドが本物に近しい感触なのか、それもまた不明なのだ。
そもサイズからして違う。おっぱいマウスパッドでは、本物のサイズ感を再現出来ていない。あの時おっぱいマウスパッドで満足してしまったのは早計だったのでは?
いや待て、それを言うならどちらもデータ。本物とは言えない……?
ならおっぱいは幻想だとでも言うのか⁉ この手に感じる温もりは嘘だと‼
……無理だ。俺には出来ない。おっぱいマウスパッドを揉みしだくこの手から全身に駆け巡る幸せを否定するなんて。
「そうか……。そうだったのか……!」(悟りし眼差し)
本物でも偽物でも、構わないんだ。おっぱいは俺達の心の中に確かにあって、おっぱいを信じる気持ちがあればそれで幸せなんだよ!
今なら作れる。胸を張ってこれが、これこそがおっぱいの感触であると宣言出来る鞘が!
「ふっ……」
やはりおっぱいは健康にいいらしい、迷っていたのが嘘みたいに手が軽いぜ。設備も無いのに鞘の作成は淀み無く終了した。
「ナイスおっぱい」
完成した鞘の中は、まさにおっぱいに包まれているかのような幸福感で満たされていた。
何言ってんだこいつ……?




