意外な強化の方向性
徒労感を引きずりながらホームへ戻ると、アルバスが来ていた。
「やあライリーフ。クランを設立したそうじゃないか」
「まあな。で、なんか用か?」
「ああ、そろそろティルの強化をしたくてね。頼めるかい?」
「はぁ?」
ティルヴィングの強化だと? 現状極振り前提でしか使えないようなオーバースペックの大剣をもう強化したいとは贅沢な野郎だ。
「あのなアルバス。あいつの性能は普段使ってるお前なら十分理解してると思うが、まだまだ周りのプレイヤーが並んで物足りなさを感じるような物じゃないだろう」
「それはまあ、そうなんだけど」
「それに強化しようにもそれに見合う素材だって無いしよ」
「素材については大丈夫です! さあアルバス、あれを見せてやりましょう」
「うん。これなんだけど……」
「んん……?」
アイテム
超越の魂核片 ☆☆☆☆☆☆☆
かつて神の打倒を目指した錬金術師がその生涯を賭して創り上げた未知なる結晶、その欠片
限界を超越し、新たな力をもたらす
欠片で☆7だと⁉ 鳥さんの羽根並みのレアリティじゃねーか!
「どこで拾ったんだこんな物?」
「廃都の隠しエリアでね」
「ボスもかなり強敵でしたからね。そろそろ例の鞘も完成している頃かと思い、アルバスに強化をおねだりしたのですよ!」
「鞘? あっ……」
「ああっ! その反応、鞘の事忘れてましたね⁉ ライリーフの薄情者!」
こいつ、まだ諦めていなかったのか。
「それで、頼めるかな?」
アルバスも苦笑しながら頼んでくる。
「忘れてたのは悪かった。鞘は今から作ってやるよ。でも強化の方はなぁ……」
ティルヴィングはレーレイが造ったティルナート・プロトをベースに、鳥さんの尾羽を使って俺が強化した大剣だ。不滅の力が馴染んだ結果、耐久値の存在しない武器になった。その性質は、技神であるレーレイに外付けでの強化しか出来ないと言わせるほどの性能を誇る。まあ、面倒だったからそう言っただけなんだろうが……少くとも物造りの神が手を出すのを面倒に感じる程度には鳥さん由来の不滅の性質が強く影響している。
ティルヴィングに改造したあの時より、俺のスキルレベルもステータスもかなり成長している。それに加えて、今では技神の試練の報酬の万能工具とクラン施設のバフ効果もある。やってやれない事もない、か?
「微妙な強化になっても文句言うなよな?」
「それはもちろん。まあ、できればちゃんとした強化だと嬉しいけどね」
「期待してますからね!」
「ま、やるだけやってはみるけどよ」
「それとクランなんだけど……」
「さあアルバス! 約束の遊園地デートに行きましょう! 目指すはアトラクションの完全制覇ですよー!」
「あ、ちょっ、ティル⁉ まだ話が!」
「そんなの後にしましょう! ほーら、ジェットコースターが私達を待ってますよー!」
「リンク切り忘れるなよー?」
わかってまーす、そう言ってティルナートはずるずるとアルバスを引きずり去っていった。いつの間に実体化できるようになったんだあいつ?
強化の前に、念のため武器の情報を確認してみる。
神霊大剣・ティルヴィング PM
ATK1400 魔性特効 MP自動回復・中
HP自動回復・小 MND+200
要求ステータス:STR1800
うん、変わってないな。霊体が成長してたから本体の性能も向上しているんじゃないかと思ったんだが、そんなことはなかった。
作成難度は鞘の方が低いので先に済ませてしまいたい所だけど、強化で剣のサイズが変わってしまうと困るし強化から先にやろう。
強化素材は何を使うべきだろう。元の性能が良いだけに、生半可な物は使えないぞ。
鳥さんの羽根は前回何種類かあるなかで一番レアリティの高い尾羽を使っているので、追加しても効果は薄いだろうし……それと似た理由でモンスターの素材系のアイテムは使えないだろう。
となると使えそうなのは……う~ん、オリハルコンと世界樹系のアイテムか。世界樹はいいけどオリハルコンは数が少ないんだよなぁ。
何か別の、あるいはティルナートの性質を強化できるような物は……わからん! 腹も減ってきたことだし、ひとまずログアウトして飯食ってから考えよう。
「姉さん、今日の飯何?」
「ビーフシチューだって」
「おっ、いいねぇ」
濃厚なソースとトロットロの牛肉が最高だ。ログインしたらノクティス達にも作ってやろう。現実だと時間がかかるビーフシチューも、ゲーム内なら手間なくサッと作れてしまう。むむ? そういえばより簡単にシチューが出てきた事があった気が……ッ⁉ シチュー! これが答えだったか‼
答えを得た俺はさっそくログインして作業に取りかかる。レッツクッキング!
レーレイの造ったティルナート・プロトと、イベントで交換できたティルナートの違い。それはシチューが出るかどうかだ。シチューこそが奴のアイデンティティだったのだ!
極上ビーフシチュー PM
空腹度100%回復 60分間STR15%上昇
魅惑のクリームシチュー PM
空腹度40%回復 120分間INT10%上昇
120分間MP自動回復・小
祝福纏うシュクメルリ PM
空腹度50%回復 120分間LUK上昇・中
60分間STR上昇・小 60分間HP自動回復・小
I☆MO☆NI PM
空腹度80%回復 60分間VIT上昇・極大
夢幻夢想のトマトシチュー PM
空腹度70%回復 30分間MND20%上昇
30分間魅了無効 30分間混乱無効
根源たる混沌の黄金のカレー PM
空腹度完全回復 30分間属性攻撃強化・大
禁忌なる美味~フォンデュ・クルャヌメメポス~ PM
ログアウトまで空腹度減少無効
24時間メニュー画面操作無効
24時間狂気、発狂、消滅、再生無効
次回ログイン時クルャヌメメポス生成
七宝織り成すカタプラーナ PM
空腹度回復70% 30分間全ステータス上昇・小
30分間ステータス減少無効
見よ、この錚々たる品揃えを! これを食べずに強化素材に使おうってんだから贅沢な話だぜ。
作った料理は後で錬金術を使って合成するとして、本体の強化に取りかかろう。
「ぬ、ぐっ、んにゃろ……!」
やはりと言うべきか、剣身の加工は無理そうだった。苦肉の策としてオリハルコンでコーティングする。
グリップとガード部分もオリハルコンに換装し、グリップには上から世界樹を加工して張り付ける。
装飾の宝石もカットを見直した以前よりレアリティが高い物に付け替えて配置を調整。うん、悪くない出来だ。
さて、ここからが強化の本番だ。気合い入れ直していこうか。
「配置完了! んー、ちょっとまだ物足りないか?」
地面に描いた八芒星の魔法陣。その頂点に八つの鍋料理を配置し、中心にティルヴィングをセットしたが……魔法陣のサイズのせいか些か殺風景に感じる。賑やかしでバルムンクでも並べておくか。鍋と鍋の間に、剣身をティルヴィングに向けた状態で置いて……っと。まだ物足りないのでマナ結晶も追加。うん、こんなもんで良いだろう。
「仕上げだ」
魔法陣の前に立ち、超越の魂核片を掲げる。
「超越の魂核片よ、今こそその力を示せ」
ゴォ、とティルヴィングを中心に魔力が渦を巻く。
「我が魂を以て、神ならざる身で神へと挑まん!」
徐々に渦はその勢いを増していき、いつしか嵐のような様相を呈している。少しでも気を抜けば、たちまち吹き飛ばされて強化は失敗に終わるだろう。
「閉じたる可能性を切り伏せ、超常たる力をその身に宿さん! 大剣よ、今こそ超越せよッ‼」
魔力がティルヴィングへと収束し、激しい光と衝撃を伴って生産室を蹂躙する。
「やっべ……⁉」
俺は逃げる間もなく焼け死んだ。




