侵入者
あれから公爵とシリウス君は牧場と農場を視察し、目敏くもダンジョンにまで気がついて挑戦していった。二層まで余裕で到達していたのは流石だが、一層の隠し通路には気がつかなったようだ。バレたら公爵に何か言われそうだから、見つからずに済んで良かったぜ。
ログアウトして一眠りすればもう朝である。怠い。けど学校に行かなきゃならない、高校生だもの。もう夏休みまで纏まった休みは存在しないのだ。
ぼーっとする頭で一限、二限を乗り越え、三限になる頃には昼休みを待ち望み、腹を空かせながらも四限を生き延びた。うん、いつも通り。ちなみに今日の弁当は昨日の残り物のメンチカツがメインだぜ!
昼食の後はこれまたいつも通り光介と駄弁りながらダラダラと過ごす。昨日ファースで見掛けなかったのは、レイドモンスターを探してフィールドを彷徨っていたかららしい。結局見つかんなかったんだってね。
「そういや悠、クランあとどんくらいで設立できそうなん?」
「あ? んなもん調べてもいないんだが?」
「なんでだよ! レイドモンスター倒してクランシステム解放したのお前じゃんか!」
「だってさぁ、店とかダンジョンとかあんだぜ? それに加えてクラン経営とか面倒くさいし」
「お前、店もダンジョンも丸投げしてるじゃんか……」
「ダンジョンはそこそこちゃんとやってるし!」
店? そっちはバニーちゃんとブラウニーさん様々だよね。結構な人数雇ってて、給料の支払いとか凄い額になってるのにちゃんとお金が増えてるんだもん。俺が自分で経営してたら、きっと一週間と持たずに潰れてたろうぜ。
「で、クランだっけ? 光介が設立すりゃいいじゃん」
「まあそれでもいいんだけどな、たぶん悠の方が簡単に条件クリアできそうだったからさ」
「ちなみに条件ってのは?」
「先ずギルドランクAだろ。後はレイドモンスターの討伐と、クランの拠点にする国からの一定以上の信用度だな」
「クランの設立ってギルドだけじゃなくて国からも許可取る必要があんのね」
「みたいだな。んでな、信用度稼ぎに結構な数のクエストこなさなきゃならなそうなんだけどさ、その点お前なら余裕でクリアしてそうだから聞いてみたんだよ」
「そんなにクリアした覚えないんだけど」
「でもファースの領主様だろ? 信用度はバッチリっしょ」
「ああ、成る程ね」
そうだった。フォル婆が勝手に俺を領主にしてたんだったわ。しかも平然と国から許可が降りているもんだから拒否のしようが無い。だが選択できるジョブに『貴族』なんてものが追加されていたくらいだ、信用度としては申し分ないだろうな。
「レイドモンスターは討伐済み、信用度も……たぶん大丈夫だとして、後はギルドランク上げるだけか」
「な? 一番最初にクラン設立できそうじゃん?」
「あー、称号貰えそうではあるな。けどいいのか? そうなると本格的に拠点はファースで固定になるけど」
「それこそ今さらだろ? 移動なんてゲート使えばいいだけだしよ。それにクランの特典でホームに転移可能とかありそうじゃん?」
「確かに」
なら創っといて損はないか。次のイベントが来る前までに設立を目指すって辺りを目標に、ギルドランクを上げて行こう。納品依頼辺りをそれなりの数こなせばすぐに上がるっしょ。店に売られてきた分も含めて、素材は山ほど倉庫にあるしな! いやほんとに、そろそろ第二倉庫建てなきゃまずいくらい貯まってきたからちょうどいいわ。
学校から帰り部屋に入ると、いつぞや当てたメジェド様と……何処からか侵入したと思われるにゃんこが俺を出迎えてくれた。
「ニャー」
「お前、何処から入って来たんだ……?」
うちではペットなんて飼っていないので、必然的に他所の子、もしくは野良猫だ。ついでに言うなら、メジェド様は先週辺りに押し入れにしまったような……。謎だ。
「窓もちゃんと閉まってるんだけどなぁ」
「ンニャゥ……」ノビー
「人慣れしてんね君。部屋の主を前に無警戒に寛ぎでは?」
「ニャー」
「やれやれ」
セレネとなら意志疎通バッチリなんだけどな。ゲーム内とは違って、リアルでは猫の言葉なんて分からない。なので何か知ってそうな人に聞くとしよう。
「姉さーん。姉さーん! 何か俺の部屋ににゃんこがいたんだけど、どっかから捕まえてきたりしたー?」
「……んー? にゃんこ? おお、にゃんこ。モフらせて」
「ニャー」
「ふふふ、ういやつめ」
「どっかから拾って来たの? 子供じゃないんだからさ、飼いたいなら俺の部屋に隠さないでちゃんと父さんと母さんに頼みなよ」
「む、失礼ね。そんな事しないわよ?」
「なら何で俺の部屋にこいつがいるのさ?」
「窓開けっ放しにしてたんじゃない?」
「鍵までしっかり閉まってたっての」
姉さんの腕に抱かれる猫に自然と目が向けられるが、猫は気持ち良さそうに撫でられているばかりで何も答えない。
「お?」
ひとしきり撫でられて満足したのか、猫はシュタッと姉さんの腕から抜け出し、てとてとと歩き出した。
「何処に行くんだろ?」
「二階っぽいね」
猫の後をついて行くと、俺の部屋にたどり着く。そして――
「ええ……?」
「あら、器用ね」
猫は鍵を開けて窓から去っていった。それもカチャカチャと何度も弄って開けるようなやり方ではなく、正確に、一発で。
「最近の猫は頭がいいってことね」
「いやいや、外からどうやって入って来たのかが謎のままなんだけど」
「それが中から開けたんじゃない」
姉さんがメジェド様を指指して言う。
「はは、まさかね」
メジェド様は眼を閉ざしたまま何も語らない。
主人公「あれ? これ、眼を閉じる機能なんてついてたっけ?」
メジェ「……」




